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四話 契約の強制力

 エヌといくつか契約を行った。


「なるほど、いろいろ分かってきた」


 契約は

 ・合意は自由意志で強制された場合は契約できない(意思の有無)

 ・契約を結んでも絶対に遂行されるわけではない。ペナルティがあれば強制執行される(不履行時の対応)


 こんな感じだった。

 知識のない僕たち二人だけだと、これ以上の検証は難しい。


 フェトラは聞いたら答えてくれそうだったけど、まだ悪魔を信用しきっている訳じゃない。それだと上手く騙されてしまうかもしれない。まだ警戒を続ける。


「なんか悪魔なのに地味な能力ですね。もっと強制的に契約させたりできたら、強いと思ったんですけど」

「いや、この契約の能力はすごい有益だと思う」


 この能力の真の意味は、この能力を持ったフェトラが僕の場所にやって来たこと。

 お爺ちゃんに言われた「無償で手を差し伸べる」ことを拒否するような能力。フェトラの言動からも分かる通り、彼女は僕の運命を変えようと躍起やっきになっていることが分かった。


「契約が真価を発揮するのはもうしばらく後になるかも」

「エヌにはよく分かりませんでした」


 エヌ相手に使う意味はあまりない。だけど、もっと醜悪な相手に会った時に使えると思う。


「じゃあ、契約はここまでにして。ちょっと訓練をしよう」

「訓練ですか?」

「うん。昨日戦ったから、その復習をしないとね」


 戦闘は初めてだったから、多くの学びを得た。


「お手伝いしたいのですが、エヌは何をすれば?」

「ただ見てくれているだけでいいよ。それじゃ、外に出ようか」


 昨日半壊して壊れた場所の近くで、訓練をすることにした。


 まずは訓練で使う的を作る。

 適当な物を持ってくることも考えたけど、少し試したいことがあって地面に手を当てた。


 お爺ちゃんと戦う時によく分からない力が空気中を漂っていた。

 なんとなく、空気中にある力を体に集めて、大地に力を送ってみた。


 すると地面から一本の土柱が生えた。


「えっ! いつの間に魔法を習得していたんですか?」

「これが魔法なんだね」


 流石に魔法の理論とかについては勉強をしたことがないから分からないけど、存在そのものについては知っている。


「十五歳で魔法が使えるだけでも天才って言われるんですよ! あの賢剛ガルロー様でも五歳で初めて使えるようになったんですよ?」

「いや、まあできたものは仕方がないよね」

「これは武術とは訳が違うんですよ。……本当に天才なんですね」


 ほとんど感覚で魔法を使えてしまった。

 だけど、別に魔法を使うことは訓練でやりたいことじゃない。


 お爺ちゃんの動きを思い出す。


 初めに受けた振り払い。一発の打撃にも関わらず全身に衝撃が走った。

 昨日は実践で真似て攻撃をしたけど、今はしっかり考えながら打撃をした。


「ん? 後ろの方が壊れた」


 拳が当たった場所じゃない場所が壊れた。


「今のは鎧通しですか? それは熟練の暗殺者でないと習得していないですよ」

「うーん。これじゃないんだよね」


 もっと全身の動きを連結させて、打つ。


「これだ」


 柱全体にひびが入った。


「い。今のは何ですか?」

「よく分からないけど、お爺ちゃんが使ってた技。もうすっきりしたから戻ろう。あっ。柱は戻さないとね」


 圧縮させた力を柱に与えると爆発四散した。


「その歳で魔力圧縮まで出来るとはのう。流石はベルクよのう」

「お爺ちゃん」

「そう警戒されると傷つくのう。もう昨日のことは水に流したいのじゃが」


 昨日の一件もあり、少し気まずいけど、あっちはそんなに気にしていないみたいだ。


「僕も昨日のはなかったことにしたいな。それで何か用があるの?」

「師は欲しくないかの?」

「うーん。今は別にいいかな」


 師についてはそこまで考えていない。


「戦闘の事はお爺ちゃんに聞けばいいし、勉強は本を読めば大体分かるからね。兄さんたちならともかく僕は政治の世界に行く気もないから、後ろ盾としての役割もいらないから」

「そうかそうか。ベルクほどの人間ならば、誰かに師をつけられる必要はないようじゃな」

「うん」

「じゃが、人を見る経験は大事じゃ。これから王宮でいろんな人間を見てみていい人を見つけるのじゃ」


 ゼドアムの王宮は世界中から優秀な人材が集まっている。

 軍事、政治ともに大陸一と言われるほどで、限られた天才が更に血のにじむ努力をした末にようやく試験を受ける権利を獲得できるという場所らしい。


 断る理由はない。むしろ、行ってみたいという気持ちが強かった。

 王宮にいる人たちの個々の能力については知りたいなと思っている。


 昨日までは王宮なんて連れていかれたら父親からの目が厳しくなって大変なことになるけど、今は目の敵にされる要素はない。


 僕は同意して王宮に向かった。


 ――――――


 身分が保証されていて顔が効くお爺ちゃんと行ったお陰で僕たちはすんなりと王宮に入ることができた。


 やはり王宮。実力がある人間しか働いていない。

 立場が高くなさそうな門番の兵士ですら、今の僕じゃ勝てるか怪しいレベルの実力がある。


「どうじゃ? 王宮は面白いかの?」

「うん。すごい。今すぐにでもその辺りにいる人と会話してみたいって思えるぐらい」

「それは良かった。さて、これがあれば無下にはされんはずじゃ、しばらくは自由に行動してみい」


 お爺ちゃんは剣と杖が合わさった勲章のようなバッチを着けてくれたた。


「じゃあ、行ってくるね」


 僕は早速、近くにいた本を持って猫背な学者のお姉さんに話しかけた。


「お姉さん。こんにちは。僕はベルク・ザルゴルって言います。お姉さんは魔法とか考古学に詳しそうだね。もし良かったら、教えてくれないかな?」

「へっ。こ、子ども? でも、ザルゴルって言ってたし、この勲章は《賢剛》の。あっ。申し訳ございません。なぜ、私の研究分野をご存じなんですか?」

「うーん。何となくって言えばいいかな?」


 なんだか、自信なさげな人だ。ここにいる人たちはその道のトップばっかりで、自信のありそうな人が多いけど、お姉さんはひかえめだ。


「いえ、は、はい。出過ぎた質問をすいません。私の研究は古代都市で使用されていたとされる魔法陣魔法についてでして、あまり知られてはないのですが――」


 さっきまでのオドオド感がないぐらいすらすらと魔法陣について語り始めた。


 すごい。この人の口から語られることはまだ本になっていないような面白い話題だ。

 古代都市なんて実生活で知る機会はないだろうし、利益になるか分からない。研究をしている人もかなり少なくて、未知の領域が多い。


 話を聞く度に気になることが増えていく。戦っていた時と同じぐらいワクワクする。


「魔法陣について原理や効果はある程度解明されてはいるんですけど、それを再現することができないのが今の課題でして、反応はするんですけど魔法が使えないんですよ」

「どんな環境で再現してみようとしたんですか?」

「陣の形状は勿論、材料も同じ成分の物を使いました。魔力も宮廷魔導士の方に協力して貰って十分な量であったはず……あっ」

「どうしました」

「分かりました!」


 そう言うと彼女は服の内にしまっていた石の鉛筆を使って、壁に魔法陣を書き始めた。


「魔力の総量は関係なかったんですよ! 魔力の供給スピードが大事だったんです! 一分の揺るぎのない一定量を供給することで魔法陣が使えるようになるんです!」


 複雑な魔法陣を一ミリのズレなく書いていく。こんな域に到達するほど魔法陣を見て考え続けていたのだろう。


「あとは適切な量の魔力を注ぎ込めれば……」

「僕に任せてくれるかな」


 理論はよく分からなかったけど、魔力の存在は知っている。空気の中にある力。これを僕の体を通じて魔法陣に注ぐ。


 量に関しては、魔法陣から帰ってくる反発が程よいほどになるぐらい。精密さに関しては徐々に正確になっていく。

 集中をしていたせいか、時間すら感じてなかった。


 完全に感覚で魔力を注ぎ続けた。


「――ク様。ベルク様!」


 エヌの声で僕は現実に引き戻された。


 前を見ると、僕をかばって服を濡らしたエヌと周りに様々な役職の人たちが取り囲むようにして立っていた。


「完成しました! 再現できました! いにしえの魔法陣魔法を!」


 壁に書かれた魔法陣を見ると、ジョウロのように水が少しずつ出ていた。

 魔法陣を書いた考古学者の彼女は周りの目を気にせずはしゃいでいた。


「歴史的偉業ですよ。これはすぐに論文にまとめて発表しましょう! 世界が震撼します!」


 これがどれだけすごい事かは彼女の話を聞いていた後なら分かる。

 でも、それ以上に僕は濡れてしまったエヌのことが気に掛かった。


「エヌ。風邪をひく前に帰ろう」

「……はい」


 観客の人たちは僕を引き留めることはしなかった。

 胸の勲章を見て僕の正体がザルゴルの人間であることを知ったからだろう。


 僕たちはお爺ちゃんと合流する前に帰った。



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