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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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四三話閑話 サミュラス・リッター

 わたしは天才のエルフとして生を受けた。


 元々、魔力との親和性が高い種族の上にわたしの頭脳は他の追随を許さないほどの性能を誇っていた。エルフの中でもわたしは異質だった。


 ただ、どれだけ才能があっても故郷のエルフの里は年功序列で保守的すぎて面白味がなかった。わたしの知的好奇心を満たしてくれる場所に行きたい。この森では無駄に一生を終える。いくら寿命が長くても首吊りで自殺するぐらいなら誰かに殺された方がマシだ。


 そう思って、わたしは森を出た。


 人間たちの世界はとても愚かだったけど、あの森よりかは刺激があって面白かった。

 エルフとして生きるには過酷な世界だったけど、わたしの力なら生きるのに苦労はしなかった。


 旅を続けている時に弱小国家の王子に出会った。確か、王子が襲われている所を助けたようなそんな出会いだった。


 戦争で滅びかけていた国の王子を救ったことでわたしの人生は大きく変わった。


 王子から信頼を得たわたしは好き勝手戦争に介入することにした。

 魔法使いとして戦場に出れば敵兵を蹴散らし、策士として参加すれば敵の動きをすべて把握し、最善手を打ち続けた。


 悪魔と契約している人間や魔物相手に対してもわたしは一方的に惨殺した。


 いつしかわたしの異名が《戦場の悪魔》となった。


 弱小国家だった国は勝利を重ね、三大大国と呼ばれるまで成長した。

 わたしが支援した王子は国の絶対的な君主となった。


 巨大な首都を城の上から見るとどれだけ国が大きくなったかを実感させられる。


「最初は国自体が今の首都ぐらいの大きさで、権力争いでも底辺だった僕がここまで来れたのはサミュラス。君のお陰だ」

「そう」

「はは。相変わらず反応が分かりにくいなぁ。……だから、思い切って言ってみるね。ずっと前から君が好きだった。僕の正妻になってくれないか?」


 プロポーズされた。

 答えは決まっている。


「わたしは誰かと結婚する気はない」

「……そうかぁ。それは残念」

「この国には居る」

「じゃあ、異種族の君でも動きやすいように『リッター』の姓をあげよう。勇者の仲間だった賢者の名前から取っているから君に似合うと思う。あと、君の為に図書館も作ったんだ。好きに使ってくれ」


 リッターという賢者がいたと言う童話はエルフの森にいた時でも聞いたことがあるほどの世界的な話の一つ。彼はわたしを賢者と同等だと感じたのだろう。


「ありがたく貰っておく」

「じゃあ、今後もゼドアムをよろしくね」


 弱かった王子は偉大な王として寿命で死んでいった。 


「僕の人生は君のお陰で最高のものだった。だけど、君の心を手に入れられなかったことだけは後悔している」


 彼は彼を愛する子供たちに囲まれて死んでいった。


 それから約400年の間ゼドアムの図書館館長としてそれなりに面白い人生を送って来た。

 人間たちは世代が5世代ほど替わった。戦争がない時代でも家督争いで醜く争っていたがわたしには関係のないことだった。


 400年前にわたしの魔法に魅せられた狂人が作った『シュトル家』から面白い子が現れた。


 双子の姉妹で、どちらも人間の幼児とは思えない魔力を保有していた。空間の眼を持つ妹サラサとすべてを模倣できる姉カトナ。二人がわたしの図書館にやってきた。


 サラサは出会い頭でわたしの足に抱き着いた。


「ねえ、私の子を産んで」

「サラサ。ダメでしょ。ごめんなさい」


 無礼ではあったものの面白いと感じた。


「女同士では子供は作れない」

「えー。やだー。子供欲しいよー」


 流石は魔法を追及し続けた結果、近親婚すら厭わないシュトルの家の子孫。わたしとすら子孫を残そうとする姿勢は遺伝子レベルでの改造の成功だろう。


 しかし、成長してわたしとの子が作れないと判断するとサラサはわたしの事を「おばさん」と言ってくるようになった。

 純粋な戦闘能力ならばサラサの方が上で、わたしは初めて魔法で敗北した。


 ただ、わたしは魔法の強さにこだわりはなかった。ただ、知的探求心で魔法を使っていただけで、ほとんど修行なんてしてこなかった。いつかは抜かされることは分かっていた。


 悔しくはなかった。どれだけ強い人間でも100年もすれば死んでしまう。勝ち負けなんてわたしにとってはただの気持ちの問題でしかなかった。


 このぐらいの時期に《異種族解放同盟》に誘われた。

 あの団体はわたしのようにエルフの里の閉塞感を嫌った若者のエルフたちが里を出たことがきっかけで作られた。彼らが旅を続ける中で、人間以外の種が軽んじられている現状をどうにかしたいと思い、各種族の中でも賛同者や種族内で捨てられた者たちを集めて集団を作ったらしい。


 わたしは面倒なことはしたくないと思って同盟に入ることを断った。


 わたしにとってはつい最近のこと、わたしの元に『ザルゴル家』の先代当主のガルローがやって来た。彼と出会ったのは約50年前。わたしに求婚してきたあの傲慢な少年がこんなお爺さんになるとは、人間と暮らしていると老いの差を明確に感じてしまう。


「ぜひ孫に会って頂けないだろうか?」


 ガルローは自身の息子すら紹介しなかったのにも関わらず、孫を紹介してきた。


 高位貴族が子弟を会わせて来る場合は弟子にして欲しいと懇願する時だ。ガルローも同じ理由で来たのだろう。


「? 好きにするといい。図書館(ここ)は万人に開かれている。私はここから離れることはない」


 知らないふりをする。

 どんな才能がある子どもであってもわたしは弟子にしない。なぜなら、別れが寂しくなるから。どんな才能を持つ人間であっても寿命からは逃げられない。


 なら、わたしにとって特別な人間なんていない方が精神的に楽に生きていける。


 断ろうとした所で、図書館に所属する研究員の一人が慌てた様子で入って来た。


「館長! 大変です! 王宮で魔法陣魔法が活性化しました!」

「なに」


 どうやら、魔法陣を活性化させたとのこと。

 魔法陣の技術はわたしが産まれる遥か昔に存在した古の都で発掘されたもので、発見された場所から何かしら魔法が使えることが分かっていたが、発動条件等が一切分からないとされていた代物だ。


 シュトル家でも特に優秀なエミサン・シュトルが熱意を持って取り組んでいた。彼女ならあとあと十年ぐらい研究したら発動のきっかけを掴めると思っていたけど、こんな早くできるとは思わなかった。


「今、王宮は大騒ぎです!」


「どういう状況だったか、落ち着いて報告して」

「は、はい。考古学専攻のエミサンが城の壁に書いた魔法陣に賢剛の勲章を着けた幼児が魔力を注いだことで魔法陣が活性化。持続的に水を出しています」

「幼児?」

「はい。三、四歳の子どもでしたが、魔力操作の精密性は宮廷魔導師長に引けを取らないレベルでした」

「……ガルロー。あなたの狙いはこれ?」


 興味が出て来た。魔法陣の活性化まではいいとしても、従者を気遣って名誉を捨てて帰るなんて選択を取れる人間なんて初めてみた。

 いくら幼児とはいえ、わたしの興味はその子に向いた。


 ――――――


 次の日、わたしはあの子に出会ってしまった。


 ベルク・ザルゴル。彼は間違いなく天才だった。それもこの世の天才をすべて超えるような化け物と呼ばれる類の天才だった。


 一度見た内容を忘れないし、すぐに理解する。魔力もかなりの量を持ち、数年以内にサラサを超える魔法使いになれる。

 わたしは彼の才能に圧倒された。弟子にすれば、この世の未知を解明してくれるかもしれない。そうすればわたしの知的好奇心が満たされる。


 少し安易な考えで、彼を弟子にした。


 この日から私の人生は大きく変わった。


 魔法陣の研究を理由にベルクは毎日来てくれた。

 人懐っこく、わたしを年上として敬ってくれる。今までこんな人はいくらでもいたはずなのにベルクと触れ合っていくうちに特別な感情が現れた。


 わたしはこの感情を母性と思い、ベルクの祖母代わりとして彼を育てようと思った。


 彼が成長していくにつれて、わたしは少し焦りを覚えた。

 それは彼に抜かされることが怖くなったからだと思う。この頃の自身の感情は迷走していたし、変だという自覚だけで正体は分からなかった。


 わたしは生まれて初めて本格的に修行を始めた。


 魔力の循環や魔法発動の反復練習などの基礎から一から確実に積み上げた。

 そうしているとある日、種族進化をした。


 種族進化の条件は二つあった。

 ・魔力量

 ・成長したいと言う意思


 この二つが噛み合ってようやくハイエルフになる事が出来る。わたしは成長したいという意思が足りていなかっただけで、魔力量に関しては進化条件を満たしていた。


 進化して得た能力は他人の魔力を吸収するという魔法使い殺しの能力だった。この力があればベルクがどれだけ成長してもわたしの方が最低限魔法だけは勝てる。


 ベルクを孫にしてから半年が経った。最近のわたしの楽しみはベルクを膝の上に乗せてから本を読む事。これまでやって来たどんな娯楽よりもベルクと触れ合っている時間が楽しいと感じる。


 今日は異種族解放同盟が最後の交渉にやって来る。だから、図書館の守衛を外してベルクだけが後で来るようにしていた。


 予想していた通り、交渉は決裂し、戦闘になった。ハイエルフになれば簡単に勝てる。ただ、ここはベルクと共闘したいと思い、わざと劣勢を演じた。

 そうして、ベルクと共に敵を倒した。


 そこからいろいろあって、襲撃していた剣帝キトラを倒して、異種族解放同盟を救った。


 ベルクは疲れて寝てしまった。

 各種族の代表に顔見せを済ませたあと、わたしはエルフのリーダーの女性に呼び出された。


「実はエルフの人口が減っています。森の中でもこの数十年で誰一人産まれていません」

「元々、出生間隔は長い。今回はたまたま長いだけ」

「いえ。それが、ここにいるエルフにも異変がありまして、誰も生殖意思がないのです」


 生殖意思。つまり性欲の話だろう。

 わたしにもその気はあまりない。そもそもエルフの繁殖において一番の壁が行為までの道のりで、夫婦の契りを交わしても多くて月に数回の行為しかしない。その上、人間よりも着床率が低く行為の回数も相まって子孫を残しずらい。


 そんな条件下でもわたしがいた時は最低でも十年に一人は生まれていた。


「原因は不明。だったら、様子見をするしかない」

「はい。我々もそうしていたのですが、今回、サミュラス様と関わって。その……」


 彼女は顔を逸らした。後ろめたいのだろう。

 言いたいことは分かる。ここにいる男性がわたしを性的な目で見たことだろう。


 原因の予測できる。


「ハイエルフが関係しているはず。わかった。検討しておく」


 子孫を残すことは種として必要なこと。ただ、わたしとしてはエルフという種族は好きじゃない。別に滅んでもいい。だから、口だけで検討をするつもりはない。


 帰りの馬車でわたしは寝ていた。ベルクがいれば危険な道中でも安心して眠ることができる。


 ベルクが従者の女と話している。

 今日の反省をベルクが述べている。まだ幼児なのに自省ができるベルクは偉い子だなと思いながら話を聞いていた。


「僕は強くなるよ。みんなを守れるぐらいに」

「従者の立場としては無理はなさらないで欲しいです。でも、エヌは応援していますよ。一緒に強くなりましょうね」

「エヌも疲れたでしょ。寝てて」

「いえ。大丈夫です。この程度の疲労は――」

「《スリープ》」


 ベルクが従者を気遣って眠らせた。


「フェトラ」


 ……と思ったら一人で話し始めた。

 わたしはこの感じを知っている。


 悪魔。私が《戦争の悪魔》と呼ばれていたあの頃にこんな感じで悪魔と契約した人間が虚空に話しかけることがあった。


 悪魔に取りつかれた人間の末路は総じて悲惨なものだった。あの者たちは悪魔に操られるだけの都合のいい駒でしかなかった。

 ただ、ベルクは悪魔と友人と話すように会話している。


 相手が何を言っているかは分からないけど、ベルクが最後にこう言った。


「子供がいるほど、一人前の男になれってことだよね。それで君が安心してくれるなら、僕は頑張るよ」


 子供。ベルクからその言葉が出た。


 ベルクは幼児だけど、私が教育しているから子供を作る意味は知っているはず。この言葉には誰かと恋愛して幸せな家庭を築きたいという意味があるとわたしは汲み取った。


 勝手に幸せな家庭を想像してしまった。


 きっとベルクは優しいお父さんになるだろう、家庭内では威張ることなくしかし、外敵からは絶対に守る。

 そして、エルフにはない端正な顔立ちと高い身長で、つがいの人間はとても愛されていて、きっと二人きりの時は密着して……


 妄想の中とはいえ、自分をベルクの隣においてしまった。

 ただ。まあ。少しぐらいはいいかもしれない。考えるのは罪にはならない。


 ――――――


 あの日から二年が経ち、ベルクは五歳になった。


 強くなると宣言してからは会いに来てくれなくなって、少し。いやかなり寂しかった。

 これまで何百年も同じように過ごして来たのに心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになった。


 彼がいなくなってから、わたしは自分の感情が分かった。

 わたしは彼の事が好きなんだ。まだ、性的なものまではいかないもののこれは母性とはまた違うものであることは確実だった。


 今現在、わたしはベルクの祖母としての役割を担っている。関係性としては悪くはない。ただ、もっと深い関係になりたいと思った時にこの認識は大きく邪魔になる。

 もしもを考えるとわたしは「おばあちゃん」と呼ばれてはいけない。


 修行が終わった後に挨拶に来てくれた。


「仕事をさぼってごめんね」

「気にしないで。また、暇になったらおいで」


 二年の修行でベルクは強くなった。


 わたしの生きた年数からすればたったの二年。その一瞬で彼はこれまで見て来たどんな人物よりも強くなっていた。

 災害と同等にみなされる三体の魔帝種の魔物たちにも迫るほどの力だ。


 普通のやり方じゃない。ベルクは強くなるために命の賭けた。常人にはできない異常なまでな強さへの執着によって強くなった。

 これまで強くなろうと努力をする人間はいくらでもいた。しかし、ベルクのように大切な人を守りたいという理由でここまで異常な努力ができる人間は初めてみた。


 ベルクの『大切な人』の中にわたしも含まれているに違いない。わたしだってベルクの為ならば命を懸けるぐらいの覚悟はある。


 決心がついた。関係性を変えよう。


 一週間後、再びベルクが図書館にやってきた。


「僕は学者になりたいんだ」


 わたしはその言葉を待っていた。強くなったベルクは英雄と呼ばれるガルローと同じ道に行く可能性もあったが、わたしは学者になると確信していた。


「学者になる? 本当?」

「うん。だから、いろいろ協力してくれない?」


 学者になるならわたしの支援を受けるのが最適解であることはベルクも知っている。ただ、ベルクはわたしを利用してやろうという気持ちは一切ない。


 でも、わたしはこの状況を悪く利用する。だって、この場はわたしに主導権があるのだから。


「こっちおいで」


 ベルクとより密着した状態で話す為にわたしの上に座るように指示した。


 今の立場関係ではベルクは従うしかない。


 ベルクがわたしの上に座った。

 とても安心感がある。この子と触れ合うだけで幸せになれる。そんな気がする。あと数年はこうしていたい。


 ただ、きっといつか、ベルクの成長したら立場が逆転して――


「これからはおばあちゃんじゃなくて、サミュって呼んで」


 いつもの妄想をする前に冷静をよそおって話を続けた。

 今なら、ベルクとの関係性を変えることができるはず。


「ん? なんで? おばあちゃんはおばあちゃんでしょ?」


 おばあちゃんのままではこれ以上の事ができない。まずは呼び方から変えていく必要がある。だから、名前で、更に親しみを込めて呼んで欲しい。

 だけど、そんなことはまだ言えない。


「おばあちゃんはまだ子供がいない。だからおばあちゃんになれない」


 適当にはぐらかしたら、ベルクは優しさからわたしの呼び方を変えてくれた。これで、関係性が変わる。今後は頑張れば、恋愛対象になる可能性がある。


 ずっと一緒にいられるように図書館の副館長の立場をあげた。これなら責任感の強いベルクは毎日のように図書館に来てくれるはず。


 ――――――


 翌日、ベルクがいつもと違う時間に図書館にやって来た


「サミュ。いや、おばあちゃんに相談があるんだ」


 おばあちゃんとして、いや年長者としてわたしに相談事があるみたいだった。ベルクは賢いから普通の悩みではないだろう。


「どうしたの? おいで」


 とにかく接触したい。わたしの上に乗る様に指示した。だけど、ベルクは来なかった。


「僕。同い年の子に好きって言われたんだ」 


 ベルクの交友関係は大体知っている。ベルクにとって一番はわたしじゃなくてあの金髪の従者で、次ぐらいにわたしが来るはず。

 そんな順位に別の女が入ろうとしていた。怖くはないけど、少し不安になった。


「それは良かったね。とにかく、おいで」

「その時、僕の中だとエヌと一緒に居られると知った時と似た感覚だったんだ。おばあちゃんはこの感情が何か知っているかな?」


 ベルクが来ない。わたしはベルクと早く一緒にいたいのに。

 無言でいたらベルクが来てくれた。


 異性との関係性に悩むということは大体一つの感情に集約される。ベルクにも分かりやすいように教えてあげないといけない。


「それはね。性欲だよ」


 性欲は汚い感情だけど、必要な感情。それを誰から教わるかは大事な問題になる。

 できる事ならばわたしが教えてあげたい。そして、この子の子供を産みたい。


 今からベルクが精通するまでの間にわたしへの意識を深めなければいけない。


 この幼い頃に気に入った性への興味は一生の癖になる。いわゆる性癖をわたしの要素にしなければならない。幸いな事にベルクが一番大事に思っている従者の女はわたしと近しい身体的特徴を持っている。


「そうだ。あと、今月あるギルケアスの建国記念日に招待されたから行ってくるね」


 話が変わった。ギルケアス帝国の建国記念日にベルクが招待された。


 距離的に時間が掛かり、ベルクが帰って来るのは一か月後ぐらいになる。

 きっと、あの従者とずっと一緒にいるのだろう。これ以上、ベルクの隣を独占させる訳にはいかない。


 そうして、わたしはベルクの従者としてギルケアス帝国に行くことになった。


 ――――――


 帝国領に入って数日後。

 ベルクがハイヒューマンに種族進化した。


 わたしに隠そうとしているけど、何か事情があるだろうと思った。わたしはベルクを誰よりも理解している。彼が隠したいことはわたしはくみ取れる。


 帝都に着いてからベルクは一人で行動を始めた。


 従者の私たちは別の部屋に通された。


「サミュラス様。少しいいですか?」


 ベルクの従者のエヌートが話しかけて来た。


「なに?」

「私ではベルク様の愛を受け止められません。きっと押しつぶされてしまいます」


 ベルクはこの少女の事を愛している。それはベルクに近しい人間ならば誰でも分かることだった。

 わたしもベルクはエヌートを最も愛していることぐらい知っている。


「わたしにどうしろと」

「サミュラス様がベルク様に好意を持っていることは知っています。もし、よろしければベルク様と婚約してくださいませんか?」


 エヌートの気持ちは少し分かる。

 ベルクは後継する予定はないとはいえ公爵家の人間でエヌートは身分もない女性。いくら二人が相思相愛であっても世間体は良くない。


 公爵家よりも身分の高い私なら正妻になることができる。

 でも、わたしは愛されたいのであって、ベルクの正妻という立場にいたい訳じゃない。


「わたしは隠れ蓑なんかにならない。ベルクの一番は譲らない」

「無礼なお願いでしたね」


 この子はベルクの一番なんだろう。

 彼女はベルクが産まれた時から一緒にいる。ベルクの才能がきっかけで一緒にいるわたしとは違って、エヌートはベルクがどんな人間であっても一緒にいた。


 多分、わたしはこの女性に勝てない。


 その事実を受け入れたくなかった。


 ベルクと幸せな家庭を築きたい。できれば独占したい。

 わたしは少し愚かな人間に似てしまったみたいだ。


 ―――――


 ベルクが帝国に落とされた隕石を破壊して、戻って来た。流石に力を使いすぎて寝てしまった。

 既にベルクの能力はわたしいや、全人類の力を足し合わせても届かないことを理解させられた。


 ベルクに追いつく気はもうない。だけど、同じ種族進化をした者として他の誰よりもベルクを理解してあげたい。そう思っていた。


「ねえ、おばさん。今のうちにベルクちゃんを襲わない? 既成事実ってやつかな?」


 サラサが恐ろしいことを言い始めた。

 ベルクの気持ちをねじ伏せるような行為をするのは嫌……だけど、こんな機会はもう来ない。先に行為を行えばなし崩し的にベルクは責任をとって全員と結婚するだろう。


 ただ、この時のわたしは少し強欲だった。


「ベルクの気持ちに寄り添えないなら、あなたを敵とする。魔法使いの領域ではわたしに勝てない」

「ふーん。つまんないなぁ」


 サラサはあっさり引き下がった。この子はシュトルの血を引いている。子供さえ残せれば、愛なんて必要としない。警戒しないとベルクを独占する機会を奪われる。


 帝国から帰って次の日。ベルクは家出をしてきて図書館に住むことになった。

 不謹慎だけど、ベルクの恨みを買った母親と祖母には感謝している。


 ベルクと帝国の皇女の書いた絵を見ることになった。


 タイトルは『ちゅうしん』。その絵は油絵なのに鏡を見るかのように忠実に描かれていた。


 ベルクの隣にはエヌートがいた。わたしは端役の一人だった。この絵は反論すらする気が起きないほど真実を映し出しているように感じた。


 今のままではベルクの一番になれない。幸せな家庭を築けない。


 一年間、わたしはベルクの仕事を手伝いつつ自分をアピールし続けた。

 特に成果もでないまま、ベルクは実家に帰っていった。


 一人になるのは久しぶりだった。わたしの人生の大半を一人で過ごしたはずなのに今は一人でいることが耐えられない。


 朝からずっとベルクの事を考えていると、ザルゴル家で家庭教師をさせている図書館の人間がやって来た。


「ベルク様が決闘の結果、次男のエッシュ様の両手を砕きました」


 ベルクらしからぬ行動だった。

 いくら相手が愚かだったとしてもベルクは格下を必要以上に痛めつけることはない。少なくとも一思いに殺すだけで終わらせていたはず。


 ただ、ベルクの本性がその加虐性ならわたしは受け止められる。

 ベルクにやられるならこの手足が壊れるのは問題ない。


 ベルクが図書館にやってきた。


「その白い髪はどうしたの?」

「これ? また種族進化しちゃってさ。もう隠すのも面倒だからこれで過ごそうと思うよ」


 種族進化。ベルクは既にハイヒューマンだったのに、更にその上位種になった。


上位ハイの次は最上位エルダー? ドワーフ以外にエルダーまで進化できる種族がいるとは予想外。でも、ベルクならありえる」


 ベルクが種族進化してしまった。ということはわたしはベルクの理解者として力不足ということになってしまう。


 わたしも早く進化しないと……


 ベルクが手に入れた新たな能力は《魔力の生成》。大気中に存在する魔力を元から創り出すという神に等しい能力だった。


 ベルクに進化を手伝ってもらって、更にその口実でベルクにわたしを意識して貰おう。

 正当な方法ではベルクの心は奪えない。なら、卑怯な手を使う。


 誰も邪魔できない地下深くの場所で二人っきりになった。


「わたしはベッドに横になる。そして、抵抗できないようにベルクが上に乗る。それで魔力を吸収する」

「なんでベッドでやるの? 別にさっきみたいに――」

「魔力を吸収しなくなったらわたしを殴って。首を絞めて。骨を折って。無理やり魔力を吸収させて」

「えっ? 何言っているの?」


 ベルクは誰かを痛めつける経験なんてない。だけど、兄弟に対してあれだけ出来たということは他の相手にも同様以上の事は出来る。

 なら、誰にもしていないことをして貰うのが一番。これでベルクはわたしの事を意識せざる負えなくなる。


 ――――――


 ベルクなりの優しさでわたしは本当に死にかけた。いや、実際心臓は何度も止まったし、ベルクによる回復がなければ致命的な後遺症が残るほどの損傷を負った。


 体が、本能がベルクに恐怖して震えてしまっている。これは少し時間がないと回復しない。


「……一週間後に来て」


 これだけの事をされてもわたしがベルクを想う気持ちは変わらない。いや、修行前よりも強くなった。わたしはあの子の子を産みたい。


 魔力量は修行前と比べて大幅に増加した。

 これで種族進化の条件の一つの魔力量は満たせたはず。


 あとは何かしらの意思を持たないといけない。特定の感情の変化が進化のカギになる事は分かっている。



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