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三話 貴族社会のはぐれ者

 最高傑作なんて言われているけど、僕には信用できる仲間が少ない。


 三歳で仲間だのなんだのを考えるのは早いかもしれない。


 でも、僕は昨日の戦闘で自分の()()を知った。

 今の僕だとお爺ちゃんにどうやっても勝てない。外の世界にはまだまだそんな相手が多いはず。


 幼い僕には限界がある。僕と一緒にいてくれる裏切らない仲間が必要だ。


 そこで、僕が信用している人間として一番最初に思いついたのは専属侍女のエヌート。彼女は僕が生まれてからずっと世話をしてくれている。


 実際の所、家の中での勢力で言えば僕の立場はそれほどいいものではない。

 当主の父親は長男を推していて、僕はそのライバルとして挙げられるせいで、父親が雇用主である使用人たちは僕を避ける。立場によっては対立する人たちも多い。


 エヌは僕の専属であることを理由にこれまで迷惑を掛けて来た。

 彼女は僕が無意識に侍女たちを威圧した日以降、あえて愚痴を言うことで僕の罪悪感を少しでも減らそうと努力をしてくれていた。


 心の底から命を預けられるのはエヌだけだ。


「これからは僕の補助をしてね。きっと前の仕事に戻るより大変かもしれないけど」


 エヌは僕にとって大事な人物。この家のしがらみで消耗されては困る。


「もう、ベルク様ったら、エヌになにをやらせようって魂胆ですかー? まっ。エヌはこう見えて優秀なのでなんでもしてあげますよ!」

「じゃあ、早速仕事だよ」


 僕たちの前に現れたのは顔面に痣を作った一つ上の兄だった。


「昨日はよくもやってくれたな!」


 刃の入った短剣を握って、今にも殺そうとする意志を感じさせる目をしている。

 前に出て盾になろうとしたエヌを止めた。


「エヌ。君の仕事は僕があの人を殺さないように制御する事だよ」

「え? ……はい。分かりました」


 疑問を呈していたエヌだったけど、僕が手をデコピンの形にしたことで気付いてくれたのか、片方の手を握ってくれた。


「なんで、そんなに怒っているのかな? 昨日はうちのエヌを賭けろとかなんだとか言っていたけど、もしかして好きなの?」

「うるさい!」


 怒りのせいか愚直で直線的な動きで突っ込んできた。

 兄は五歳で僕より二歳年上。体格の差は明白だろう。


 お爺ちゃんと戦う前の僕だったらもう少し身構えて、もっと真剣に戦っていたかもしれない。


「死ね――」


 手首で短剣を弾き、胸部にデコピンを食らわせた。


 兄は地面を転がり、痛みで悶えた。


「いてぇぇ!」

「元気なみたいで良かったよ」


 エヌが僕を引っ張って打点をずらしてなかったら、今頃、悶えることすらできなかっただろう。


「ここはあえて兄上って呼びましょうか。兄上。実力差を見誤って僕に喧嘩を売ることはまあ許してあげましょう。しかし、僕の侍女に手を出そうとしたら……」


 兄が持っていた短剣を顔の近くに刺した。


「ただでは終わらせませんよ」

「ひっ」

「あっ。そうそう」


 兄のやろうとしていたことは分かる。


 勝とうが負けようが、僕が当主の座を狙って兄を襲っただのなんだのと吹聴ふいちょうする気だったのだろう。だけど、それが通用するのはさっきまでのお話。


「さっきケサド兄さんが次期当主でいいと思っていることをお父さんに伝えたから」


 この家で僕の弱点だった父親との仲が改善されたことを伝えた。


 兄は僕が父から呼び出されて叱咤しったされたのだと勘違いしているんだろう。確かにその考えになるのは自然だ。

 仮に、支援者のお爺ちゃんと喧嘩をしていなかったら、僕がなんと言っても父は僕を疑い冷遇していた。


 昨日の戦いは僕が当主の座に興味がないことを証明するいい機会になった。


 いつか父を説得しないといけないと思っていたが方法がなく困っていたが、こうも上手くいくとは思わなかった。

 これに関しては僕に警告を発したフェトラに感謝だ。


「ただで済まないのはお前の方だぞ」

「言葉が足りなかったですか? さっきので理解できない兄上は本当にザルゴルの人間なのですか?」

「なんだと! もういっぺん言ってみろッ!」

「そうですか。……まあ、いいでしょう。この辺にしておきます」


 動けない兄を放っておいて僕たちは部屋に戻った。


「やり過ぎたかも」


 ()()に手を出し過ぎた。


「気にすることじゃないですよ。あっちは殺しに来ていたのに殺されずに済んだだけ温情ですよ」

「立場と道徳的な問題だよ」

「エヌには難しいことを考えてますね。ムカついたら殴るでいいと思いますけど」

「それは、流石に乱暴な考え方って言われるよ」


 僕は野蛮な人間になりたいとは思っていない。

 じゃあ、僕はどんな人間になりたいのか。


 昨日、祖父から「力のある者は無償で手を差し伸べよ」という言葉を貰ったけど、その場で受け入れることはしなかった。

 あの時は、フェトラが僕に何かを伝えようとしていた。


「ねえ、フェトラ。僕はどんな人間になると思う?」


 人に聞くのは違うと思って、悪魔に聞いてみた。


「私は全知の存在ではないので分かりませんが、ある人は『大勢に認められる人生にしたい』って仰っていました」

「その人、承認欲求ってやつが強いね。すごい自己中心的な人だったんだね」

「ええ。最後に世界を滅ぼしてしまいましたけど」


 この会話で僕はフェトラの正体を確信した。


 彼女は未来からやって来た悪魔だ。

 それも、僕に親しい間柄で僕が辿った未来を熟知している。


 ほとんど正しいと思う予想の領域だったけど、さっきの会話で確信に変わった。


 フェトラは「ある人」の話をした時に僕にその人物を重ねていた。


「昨日の契約の話はまだ有効かな?」

「はい」

「じゃあ、契約をしよう」


 昨日はリスクを回避する為に契約をしなかった。

 でも、彼女がわざわざ未来から僕に会いに来たというのなら、それを無下にできるほど僕は非情ではない。


「分かりました。では、こちらに名前を記入してください。私、契約の悪魔フェトラはあなたに従属します」

「その従属って変えられないかな?」

「はい。どんな関係性でも変更できます」

「じゃあ、友達にしてくれるかな?」


 きっと、フェトラの主人は「あの人」であって僕じゃない。

 僕か、僕に限りなく近い存在なのは分かるけど、彼女の主人は僕じゃない。


「……分かりました。こちらが契約書です」

「ありがとう。これからよろしくね」


 指で契約書に名前を書いた。


「これからよろしくね」

「はい。友達とはどんな関係かは分かりませんがよろしくお願いします」


 フェトラとの契約によって体に変わったことは特にない。


「ベルク様。ベルク様。その悪魔とは友達でエヌは主従のままなんですか?」

「まだ、エヌとは金銭の関係だからまだダメだよ」

「むぅー本当に三歳なんですか? でも、まだって言ったことは覚えてますからね」


 エヌとの関係はおいおい考えていかないと。


「一緒にいたいのなら契約してみますか?」


 フェトラが一枚の紙を出してきた。


「お試しですが、『一時間のうちに十秒、手をつなぐ』という契約書を作りました」

「急に紙が出てきましたよ!」

「これに名前を書いて頂ければ、契約ができます」


 フェトラの能力は強制力のある契約書の作製。

 試すには丁度いいかもしれない。


「エヌ。契約をして欲しい」

「それはいいですが」


 エヌに協力をして貰っていろいろと試してみた。


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