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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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三四話 対立

 家出をして一年。僕が六歳になるまで残り数日を切った。


 この一年間を一言で表すならは「面白かった」と言える。

 三歳の時は研究だけをして、発表とかは共同研究をしていたエミサンに任せて、僕自身は魔法学会とは少し距離を置いて来た。


 だけど、この一年では学会に関係することでいろんな国に行った。


 来月にある魔法学会の全体学会で発表することを目標に研究と整理を続けてきたけど、それ以外にも派閥の人たちに呼ばれて公演なんかをしたりした。五歳児だけど図書館の副館長という肩書と『炎の勇者』の称号のお陰か思っていたよりも舐められはしなかった。


 その道のエリートたちが来てくれる講演会ではいろんな刺激を貰った。

 特に重力魔法の課題解決策を思いつくのは他の人たちと交流する時だった。


 この一年間で僕の世界は大きく広がった。


 図書館に籠り続けていたら、重力魔法の発表はもう一年遅くなっていただろう。いろんな人たちとの交流が僕を成長させてくれた。


「辛くなったら戻ってきて。いつでも待っている」

「ありがとう。行ってくるね」


 今日は実家に帰ることにした。


 僕が家出をしたのは聖国から帰って来た母親と祖母が僕を下僕騎士というよく分からない職に就かせようとしたからだ。

 罵倒ばっかりしてくるし、話にならないと思って家出を選択した。


 今回戻るのは対話をしてみようと思ったからだ。


 この一年で一見分かり合えないような意見の相違があっても話し合えば通じた時があった。きっとあの二人とも話せば分かるかもしれない。


 だけど正直な話、分かり会えた所で僕が得られる利益は何一つもないと思う。それを分かった上で僕は実家に帰ることにした。


「エヌ。僕は警戒しないから護衛をお願いするね」

「はい。どんな相手でも察知します」

「ありがとう。勝てない相手が来たらすぐに教えてね」


 威圧をしないために僕は魔力や間を完全に抑えてから屋敷に入った。門番の人たちは僕の顔を見て一礼してくれた。事前に連絡をしていたけど、しっかり伝わっているみたいだ。

 この家に味方がいないわけではなさそうだ。


「一年で変な彫刻が並ぶようになったね」


 恐らく聖国が信仰している神に関連する何かの彫刻やら置物が屋敷に並んでいた。


「ベルク様。お帰りなさいませ」

「従者長さんお久しぶりです」

「当主様より案内を仰せつかっております。こちらになります」


 案内された部屋は大きめの応接間で両親と祖父母がいた。

 まるで、面接でもするかのように対面に一個だけ椅子が用意されている。


「ただいま戻りました」


 僕は何かを言われる前に椅子に座った。


「さてと、僕が話したい内容はあるにはあるのですが、何か先に言いたいことがあればどうぞ」


 僕は最初から挑発的な態度を取った。


「相変わらず傲慢なのは変わっていない様ね」

「今の言葉は聞かなかった事にしましょう。そういえば、聖国に所属する魔法使いの数が減っているみたいですね。上から何か言われてませんか?」


 僕は公演をする中で聖国の人間を拒絶していた。すると、聖国の魔法使いたちの多くが他国に所属を移す結果となった。


 魔法使いの数は戦力に直結する。魔法使いの数で国力を比較する人もいるぐらい魔法使いは貴重な人材だ。その人材たちの中でも学会に顔を出して自己研鑽を積み続ける人は忠義よりも探求心を優先して、国を変えた。


 聖国にとっては実際の数以上の痛手になっている。


 そして、僕は拒絶する理由を「母親が聖国に傾倒して研究の邪魔をしてきた」からとしている。


「どこまで偉大なる国をバカにするつもりなの?」

「国をバカにする。ですか。では、面白い手紙をいくつかお見せしましょう」


 僕は封筒ごと持ってきた手紙を数枚持ってきた。


「その封蝋は聖国大教会の……」

「ええ。まず、古いのから読みますね――」


 一枚目は初めて僕の所に来たもので、内容は『炎の勇者の称号を無効とする。勇者は聖国の象徴であり、称号としての使用は禁じる』という内容が書かれていた。


「それになんて返答したのよ」


 当然ながら、僕はその手紙を無視した。だって、称号をくれた帝国に抗議するならともかく第三者の声なんて聴いてやる必要なんてないからだ。


「次の手紙ですが、内容は『聖国の学者を公演に参加させないのは差別である。即刻撤回すること』でした」


 二枚目の文章は意外にも僕の心に刺さった。

 というのも、僕は異種族解放同盟と協力関係にある。この組織の理念が種族平等であるため、僕が行ったことが国への差別と言われたら、協力者として失格だと思ったからだ。


 だけど、サミュが「こんなのは詭弁きべん」言ってくれて、確かに言葉は強いけど論理が破綻しているなと思ったから、この手紙も無視した。


「三枚目から面白いですよ。『炎の勇者として認める』『学会の件はこちらに非があった』『国賓として迎えるから一度来て欲しい』と僕を懐柔しようと頑張り始めたんですよ」


 魔法使いが減り始めて、主力戦力が抜けてしまった当たりで僕に擦り寄るようになってきた。


「僕はこれを無視しました。なぜなら、悪魔が憑いていると罵ってくる国と関わりたいとは思わないからです」

「私は発言を撤回しないわ。だって、あなたは産まれた瞬間は手足がなかった癖にすぐに生えたのよ。これを悪魔以外のなんというのよ!」

「……分かりました。別に撤回は求めてませんから」


 母親の様子が少し変だ。


 聖国に服従しているのなら、僕に暴言なんて吐けるはずがない。

 なのに感情を露わにしつつ僕を罵倒してきた。


「あんたを産んだ時の私の気持ちが分かるの!? 体が耐えられなくてあと一人を産んだら死ぬって言われて、それでも産んだのにその子が両手足がなくて、後から生えたのよ。どれだけ怖かったか分かる? だから、あなたが人間じゃないという可能性をお義母様から教えて貰ったのよ」

「黙りなさい!」

「は、はい。申し訳ございません」


 このやり取りで大体察した。


 僕の母親は不安を抱えていた。そこに祖母がつけこみ洗脳まがいの事をしたんだろう。

 だから、聖国への忠誠心が中心ではなくその不安を解消したくて、今みたいになってしまった。


 その不安というのが、僕の出生が原因であることは会話から分かった。


 流石に産まれた時の記憶はない。手足を生やすなんて。今の僕でもそれなりに難しいのに当時の僕はそれを成した。

 今の僕から見ても赤子がそんな芸当をすれば仮に我が子であっても怖く感じてしまうかもしれない。


 僕は母親の不安を理解した。次は祖母の番だ。


「ご祖母様は聖国から何か伝達をされていないのですか?」

「孫とは思えないほど憎々(にくにく)しい態度ね」

「そうですか。それは申し訳ございません。それで、上層部から「好待遇でもいいから引き抜いてこい」とか「敵対だけはするな」とか言われていませんか?」


 僕を睨んでくる態度は変わっていない。まだ何かしら手があるんだろうか。


「私は聖女指導者という名誉ある職にいるのよ。あんたがどうしてもというのなら、聖女候補を一人嫁がせてもいいのよ」

「その聖女指導者ってどんな役職なんですか?」

「名前の通り、聖国を導く聖女を育成するための職よ。そんなことも分からないの? これだから、無信者は話が通じなくて困るわ」


 聖国の聖女については聞いたことがある。


 千年以上前に古代時代と呼ばれる時代があった。その時代では魔法陣の作製や魔法使いの質が高かったりと今の時代とは比べ物にならない程、発展した魔法社会だったらしい。


 そんな時代が残骸化したのは魔王と呼ばれた一人の人物がすべてを破壊したからと言われている。

 その魔王を殺すために異世界から召喚されたのが今でも語り継がれている勇者だった。神の協力によって召喚されたと言われている勇者は様々な伝説を残した。


 勇者は仲間たちと共に魔王を殺し、英雄となった。その仲間の一人が聖女と呼ばれた女性だ。魔王討伐後の話は歴史が残っていない。勇者と聖女が結婚して子供を作ったとかいろいろ諸説がある。


 実はこの諸説というのはこの世界においてかなり重要な役割を持ち、ほとんどの国の王族たちは勇者の血を持つと主張している。


 そして聖国は勇者を神の使者とし、聖女を神の従者として定義している。


 宗教国家は信仰を集める必要がある。そこで、聖国は勇者を召喚する方法を探しているし、聖女を作ってまつったりしている。


 聖女の育成は聖国が抱える重大な機関の一つだ。そこの人間ということはそれほどの地位なのは確かなんだろう。


「それで、あんたは聖女見習いを娶って、聖国に従属する気はあるわよね」

「話が飛躍している気がするのですが、まあいいでしょう。僕の見解としては、条件さえ整えば聖国に従属してもいいと考えています」

「何!?」


 全員が立ち上がった。予想していた答えと違ったのだろう。おそらく、従属する可能性を示唆しさしたことが印象的だったんだろう。


「ベルクや。お主。その力を持ってして他者に従属するのか!?」


 さっきまで黙っていたお爺ちゃんが声を荒げながら質問をしてきた。僕の予想通りに従属するという言葉が気になるみたいだ。


「僕は誰かの上に立ちたいという気持ちはありません。別に聖国でも帝国でも僕のやりたい事をさせてくれるのならある程度は従いますよ。現に僕は図書館の館長の指示でいろいろやってますし、従属すること自体はそれほど抵抗はありません」

「なら、聖国に――」

「ただ、僕は守りたいものが守れる立場でないならば、世界を敵に回すこともいといません。それが僕の信念ですから。その点、聖国は僕のすべてを奪った上で従属させることが目に見えています。そんな所には死んでも従いません」


 僕の根本は『大事なもの』を守ることにある。その為に強くなったし、それなりの権力を手に入れた。


「あなたにとって大事なものってなんなのよ。それは聖女候補じゃ代われないって言うの?」

「僕にとって大事なものをそんな敵意むき出しの人に教える訳ないじゃないですか」


 挑発を含んだ言葉を出した。


 流石に怒りを抑えられなかったのか、魔力を動かしているのが分かる。攻撃をするつもりだろう。


「孫のくせに生意気ね! 火よ貫け《ファイアーランス》!」


 中級魔法の《ファイヤーランス》が飛んできた。それなりの大きさと速度をした槍が飛んできている。


「いくら悪魔でも、少しはダメージを……」


 僕の目の前に氷の壁が作られて、槍を防いだ。この壁はエヌが作ってくれた。


「残念。僕は魔法を使っていないことが分かるのはお爺ちゃんぐらいかな」


 氷の壁が消えた。

 それと同時に僕は立ち上がった。


「まあいいや。僕は聖国に行ってみます」

「改心したのね」

「早とちりしないでください。条件として『私のご祖母様を聖女指導者から解任すること』を提示します。それでもいいですよね」


 さて、ここで聖国への忠誠心を試そう。

 保身と国の利益。どちらを取る?


 少し期待しつつ、眺めてみると祖母は顔を真っ赤にして怒りをあらわにしていた。


「あなたには人の心がないの!? 実の祖母に対してこんな仕打ちをして本当に人間なの。やっぱりあく――」

「分かりました。もういいです」


 選べなかったというより、選択肢そのものを否定してきた。


 少しがっかりだ。宗教国家と聞いていたから自分が信じる神のためだったら自分の地位ぐらい捨てられると思っていたけど、実態はそうじゃないみたいだ。


「木を見て森を判断するのは早計なので聖国には行ってみます。もし、いい派閥があったら支援します。少なくともご祖母様の派閥は消し去ります。これからよろしくお願いします」


 僕の怒りを祖母にぶつけた。

 母親がこうなったのは祖母が原因であることは分かる。だからこそ、元凶は徹底的に潰す。それも最も嫌がるやり方で。


 僕の言葉で感情を高ぶらせたせいで老体に響いたのか祖母は頭を抱えて座ってしまった。


「お父さん、お爺ちゃん。話したいことがあったら、別室で話そう」

「分かった。隣の部屋で話そう」


 二人が立ち上がり、部屋を出て行った。


「お母様とはまた落ち着いたら話合いたいです。では」


 僕はそう言い残してから二人についていった。



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