三三話 賢者会
魔法の研究を発表する『魔法学会』と共に『賢者会』は発足された。
賢者会は過去の戦争を再び起こさないための魔法研究を理念を持つ。
魔法学会で戦争に繋がりかねない発表がある場合は賢者会で審議が掛けられて、公表の有無を決める。
そして、この賢者会の特異な点として、メンバーが五人しかいない所がある。
だけどこの五人は世界で影響力のある魔法使いだ。
魔法使いのほとんどは『魔法学会』に所属していて、その人数は五万人ほどになる。
そして、その魔法使いたちは派閥と呼ばれる魔法属性ごとに作られた会に所属する。
その派閥の中でも一番大きいのは基礎属性四つの派閥だ。この四つの派閥とその下部組織で学会員の九割ぐらいを占める。
その派閥のトップたちがこの賢者会に参加する資格を得る。
それが今、僕の目の前にいる人たちだ。
下部組織に派生属性である毒魔法と氷魔法の派閥を持つ水魔法の『華水会』
土木事業や建築事業で使用されて一般需要が高い土魔法の『土魔会』
派生属性の雷魔法と共に応用力に富んだ風魔法の『風魔会』
そして、派生属性がないのにも関わらず魔法学会で最大の派閥である火属性の『炎魔会』
流石に政治的な力が働いてしまっているせいか、『炎魔会』以外の人たちは全員六十、七十歳ぐらいの老人の人が多い、それに対して、『炎魔会』の会長は四十歳ぐらいの女性で怖そうだけど、若い部類に入る。
政治的な要素は含んでいるけど、ここにいる人たちは一流の学者なのは間違いない。
どれぐらい凄いかって聞かれれば、この人たちが若い頃に求めた定理やら試験方法なんかがまだ現役で使われているぐらいすごい。
これから、そんな人たちに説明するのは少し緊張する。
「今日はよく集まってくれた。感謝する」
「サミュラス様の呼びかけを不快に思う愚か者はこの場にはおらんですわ!」
このドワーフみたいに豪快な人は『土魔会』のダリウス・クレイさんだ。老体とは思えない程しっかりした体をしている人だ。
「なぜ、お呼びされたのでしょうか? 学会はしばらく先ですが」
冷静に懐疑的な姿勢を示すのは『華水会』のセレーネ・リーヴァさん。派生属性の毒と氷の魔法も使える熟練の魔法使いだ。
「サミュラス様が仰ることは絶対。仮にお茶会であっても某らは喜んで参加する」
「ガッハッハ。それもそうだ。儂らは喜んで従いますわ」
特徴的な一人称なのは『風魔会』ゼルフィール・ガレアスさんだ。背筋が伸びていて紳士っぽい人だ。
みんなサミュに対する忠誠心は高いことは分かる。それだけ『賢者会』におけるサミュの立ち位置が重要か分かる。
「今日は二つの論文について査読と承認審議をしたい」
サミュは僕が書いた二つの論文を風魔法を使って配った。
賢者たちが紙を読み始めた。
ある程度読んだのかセレーネさんが手を挙げた。
「魔法陣は知っていますが、重力魔法? ですか。これはサミュラス様が書いたのでしょうか?」
「わたしではなく、ここにいるベルクが書いた」
「ベルク。もしかして、あの『炎の勇者』となった方ですか?」
論文を読む手が止まり、みんな僕の方を向いた。自己紹介をするなら今しかない。
「ご紹介に預かりました。図書館所属のベルクと申します。ギルケアスより『炎の勇者』の称号を賜っています。若輩者ではありますがよろしくお願いします」
「とても素晴らしい論文をお書きになりましたね。『炎魔会』は全面的に支持する所存です」
僕が自己紹介をするなり、『炎魔会』のエレオノール・イグニスさんが途中まで読んでいた論文を置いて論文を肯定してくれた。
「全文を読み切らずに評価するのは無礼に当たるぞ」
「勿論、全文は読みます。しかし、我々の立場は変わりません。仮にすべてが嘘であったり、兵器に転用可能であっても肯定します」
「話の途中にすまねぇ。何点か聞きたいことがあるんじゃが、ええじゃろうか?」
「はい」
派閥同士でも仲が良い悪いがある。例えば、火は土とは仲がいいけど。水と風とはあまり仲良くない。属性相性がそのまま派閥の繋がりになっている感じがある。
今も風のゼルフィールさんが指摘した後に言い合いにならないように土のダリウスさんが話を遮った。
「事故の可能性を調査するための魔法陣の使用実績のデータがあるがのう。貴族は最低限の素養があるから事故率が低いだけで、庶民が使うと事故率が上がりそうな気がするんじゃが」
「その懸念はあります。市場に回すのは小規模のものとはいえ、誤用を防ぐための機構は必要だと思っています。しかし、データを見る限り事故率という観点でいえば問題はないと考えています」
「道具単体ではそうかもしれんが、使う場所や状況によっては大きな事故に繋がる事例はあるだろうな。あと――」
その後は、賢者会の人たちから質問を受けた。
そのほとんどは予想していた範囲内だったけど、現場を知っている人たちだからこそ抱く特有の疑問や試験に関する助言が含まれていた。
「他にはありませんか?」
「最後に一つだけ。この二つの発表はどちらも学会の目玉になる。しかし、賢者会で話し合うような危険な要素はない。なぜ、我らを集めたのでしょうか?」
「それは根回しのためです。私は異種族解放同盟という組織と共に魔法陣と重力魔法を商品展開する予定です。それも早急に普及させるつもりです」
「異種族……つまり、既に用意があるという話ですか?」
僕が先に賢者会に話を通したのには理由がある。
それは、先行者利益を独占するための大量生産と流通網の確保である。そして、流通関係を異種族解放同盟の仲間たちと共に行い。莫大な金銭を得られれば、組織として活動を本格的にすることができる。
だけど、そんなことをすれば反発が起きる。
「時代が変わると確信しています。そこに関係する利益はかなりの量になるはずです。当然ながら軋轢が生じるのは予想するまでもないです。そこで、みなさんに協力して欲しいことがあります」
「協力とな。ガッハッハ! サミュラス様が支持すれば、それだけで儂らは従わざるおえんというのにわざわざ話を通しに来たというのか!? 最近の若者。いや、幼児とは思えん根性じゃなぁ!」
何が面白いかは分からないけど、ダリウスさんが豪快に笑っている。
確かにサミュを通せば、有無を言わせずにこの人たちを従えることができる。今日の応対からしてもこの人たちはそれだけの忠誠を持って動いていることが分かった。
だけど、僕は直接説明することにしていた。
「実はみなさんとの質疑応答をしてみたかったという気持ちがあって。研究をする上でみなさんの功績や論文は知っていました。せっかく館長が場所を用意して下さったので、僕が直接来ました。今日はありがとうございました」
「そうかそうか。それは嬉しいことを言ってくれるな! こっちも楽しませてもろたわ! 本当なら一番鋭いのはイグニスの魔女さんなんやがな」
『炎魔会』のエレオノールさんは僕の論文を絶賛した後は発言をしていない。
「風の噂で聞いたのだが、ギルケアス帝国に飾られていた『炎の勇者』を見た時から様子が変わったと。某もあの作品を見たが、絵で誇張されているとは言え、迫力だったのを記憶しております」
「私もあの絵は見た。確かに引き込まれる絵だったけど、所詮は絵。現実とは違う」
「あの絵は帝国の第二皇女様が描いて下さったものなんです。被写体になった僕から見てもあの絵は現実以上の迫力があると思いますよ」
ゼルフィールさんとセレーネさんがエルの絵について言及していたから、ついつい口を挟んでしまった。
あの絵はかなり史実に近い。隕石の大きさとか火球の大きさは周りの背景から算出できる縮尺から見立ててほとんど相違がない。
ただ、あの絵は現実以上の迫力がある。話が出たついでに少し説明してあげよう。
「これが僕が使った《バーンノヴァ》という魔法です」
僕は手に小さい火球を出した。
「あの時は周りを安心させるために大きな火球を出したりしましたが、本来はそんな手間なことをしなくても使えるんですよ」
あれ、可笑しいな?
さっきまで和やかな空気間だったのに一気に張り詰めたような空気になった。この人たちは極大魔法の一つぐらい使えるレベルの魔法使いのはずだけど……
みんな、首にナイフでも当てられたみたいな表情をしている。
ああ! いくら和やかな空気でも急に魔法を出したら攻撃されるかもって身構えてしまうね。
「あっ。これは攻撃用じゃないので安心してください。脅しの意味とかはないので。すいません」
僕は急いで火を消した。
「あ、あの絵は真実を描いていた。ご、ごめんなさい。イグニスの魔女が正しかった。『華水会』は全面支援を約束します」
「某ら『風魔会』も同様に」
場が凍り付いてしまった。僕はあの絵について話したかっただけなのに。
「ガッハッハ! 流石に生で魔法を見ちまうとブルっちまった。その魔法とあの日の事について話してくれ。隕石はどんな火力なら焼き飛ばせるんだ?」
「それなら私も質問させて下さい! 炎の温度が上がると自傷リスクが上がるのですが、そこはどのようにカバーしているのですか? あと――」
「イグニスの嬢ちゃんも気になっているみたいだな。あとさっきの論文を聞いた時から決めていたが『土魔会』も支持するぜ。面白そうな話じゃねえか」
ダリウスさんはドワーフみたいな人だ。僕を一人の子どもとして見てくれている。豪快に笑って場の流れを変えてくれた。
「ダリウスさん。ありがとうございます。では、あの日に関する事と魔法について話し合いましょう」
「では、私からも――」
「某も――」
さっきの論文よりもみんなの活気がある状態で僕としても楽しい時間を過ごすことができた。




