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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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三一話 家出

 僕は家出をした。


 ただ、僕にとって家出と同じようなことは修行と称してここ二年間で繰り返していた。


 まず、一番近い図書館に行くことにした。

 あそこは職場でもあるし、寝泊まりすることも難しくはない。


「――ということで、しばらくここに泊まっていいかな?」


 館長であるサミュに事情を話してみた。


「うん。事情がなくても問題はない。ザルゴルが嫌ならリッターを名乗ってもいい」


 サミュの本名はサミュラス・リッター。一応、貴族の位を持つが、男爵や公爵といったランク付けはされていない。いわば番外序列と言ってもいいかもしれない。

 権力としては国王に並ぶレベル。サミュは内政に関わる気はないみたいだから権力の行使が行われたことはあまりない。


 リッターの姓を貰うのも悪くはないけど、それは最終手段だ。


婿むこに来てくれればすぐに名前をあげられる」

「そこは養子で十分だよ」


 婿になるということはサミュと結婚することになる。流石にお婆ちゃんと呼んで慕っていた相手と結婚するのは僕にはできない。


「まだお婆ちゃん扱い? 歳の差はあるけど、肉体的には問題ない」

「それは……」


 元々、サミュの事はお婆ちゃんと呼んでいたけど、サミュに今の呼び方をお願いされたからそう呼んでいる。

 サミュの年齢はゼドアムが建国をした戦争に関わっているから最低でも五百年は生きているはず。もう世代が違うとかいう次元の話じゃない。


 でも、女性に年齢のアレコレを言うのはいけないってエヌが昔言っていたし、そこは触れないでおこう。


「まだ僕は五歳だからそこまでは決められないかな」

「知ってる。だから何年でも待つ」

「はは。それは嬉しいね。それで、ここで寝泊まりできる場所ってあるかな?」

「使っていない部屋もあるけど、準備が出来ていない。しばらくわたしの部屋で寝泊まりするといい」


 よし、あんまり心配はしていなかったけど、これで寝床と職場は確保できた。


「さてと、落ち着ける環境も整ったから、エルに書いてもらった絵でも見ようかな。サミュも見る?」

「うん。ちょっと待って。鑑賞の準備をしてくる」


 ソファと机。さらに紅茶を淹れてくれた。


 僕は亜空間から布に守られた絵画を取り出してキャンバスに掛けた。


「鑑賞は環境も大切。安心できる場所で少し明るいぐらいが丁度いい。飲み物も大事」

「そうだね」


 絵が凄いのは理解しているけど、鑑賞するこちら側の準備が必要になる。なるべく静かで落ち着いた環境で見た方がより良く感じられるはずだ。


「エヌ。申し訳ないけど、護衛をお願いするね」

「はい。勿論です」


 エヌが布を外してくれた。


 その絵は事前少し見ていたから何が描かれているかは知っている。


 僕を中心としてあの時いた従者のみんなが護衛してくれている所を描いてくれたものだ。


「これは……」


 中心に僕がいるのは分かるけど、みんなの顔の姿をこんなに見たことはなかった。

 普段、会っている相手人たちなのに絵の世界にいるとなるとまた違った感覚になる。


 現実では人をこんなに見る機会はないから、絵になったことで相手の全身を理解しようと何度も見直しているのが原因かもしれない。


 こうしてみると、普段のみんながどれだけ美人で可愛いか再認識できる。

 女性を女性として見る機会はあんまりなかったから、少し新鮮で面白い。


 そして、面白いという点でいえば、僕は絵の中にいる自分に少し嫉妬してしまったことがある。あの絵の中心にいる男はこんなに可愛い子たちに囲まれながらも別の場所を見ている。かなり贅沢な奴だなと感じた。


 自分に嫉妬というか、こんな感情になるのは初めてだ。やっぱりエルの絵は僕の感情を揺さぶってくれる。


「すごかった。今後、個人的な画廊を作りたいって思ったよ」


 僕は絵に興味を持ってしまった。お金持ちの人たちが自分だけの画廊を作る気持ちが痛いほどわかってしまった。僕も絵を集めてみたいと思った。特に僕に関連するものをテーマにする絵に関してもっと欲しい。


「サミュ?」


 サミュが僕の肩に寄り掛かって来た。


「わたしはもっと近くにいたい」


 訳が分からないことを言っているけど、サミュの顔がこんなに近くに来て少し驚いてしまった。

 エルフの容姿は整っているという通説はあるけど、サミュを見ているとその通説がこの顔から生まれたと確信させられた。


 薄紫の長い髪に整った容姿、更にジト目から見える金色の目。そんな見た目の存在が僕の目の前にいる。


 あの絵を見てから、僕の認識が変わってしまったみたいだ。


「ありがとう。みんな可愛かったよ」


 この絵は被写体のみんなの前では見れない。だって、いつも通りの対応が出来なくなりそうになるから。今も、サミュを抱きしめたいし、もっと見たいという気持ちに駆られてしまっている。

 まだサミュだからいいけど、他の人にそんなことをすれば軽蔑されてしまうかもしれない。


「じゃあ、抱きしめて。好きって言って」


 サミュの髪色が変わり金色になった。これはハイエルフに進化したときの状態だ。

 僕も種族進化ができるから分かるけど、あれは意図的に進化するか自制が効かなくなるほど興奮していないと勝手に戻ることはない。


 サミュはほとんど無意識で進化した状態になってしまっている。声色や表情からは読み取れないけど、それほど興奮している。


「目の色が違う。この時のベルクも好き」


 僕も種族進化してしまっているみたいだ。それだけ意識が高まってしまっているんだろう。

 まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった。


 エヌ以外には種族進化したことを隠そうと思っていたけど、ここまで見せてしまったら隠せない。


「実は僕も種族進化しちゃってね」

「上位種族。おそろい」

「そ、そうだね」


 サミュが体を密着させてきた。

 今まで、体が密着することなんて何度もあったのに今日はいつもと違う。


「……ごめん。もうちょっと待って貰ってもいいかな。僕。まだそういうことはしたくない」


 僕はサミュを振り切って立ち上がった。

 支えを失ったサミュはソファに倒れた。


「分かった。わたしは十年でも二十年でも待つ。だけど、ほかの人間はそうはいかない。老いて見た目も悪くなる。女の子は()()()()()()()()()()()()()から」


 サミュは通常の状態に戻った。


「ごめん」

「謝ることじゃない。ベルクは五歳。子どもに手を出す大人の方が問題」


 確かに、いくら貴族でも五歳児に手を出す大人はいない。いてもそれは軽蔑の対象になる。


「あの絵は危険。他の人には見せない方がいい」


 確かに、あれが原因で今の気まずい状況になってしまった。絵としては凄いけど、他の人がいる所で見るものじゃない。


「うん。そうするよ」


 僕の家出生活は少し気まずい状況から始まった。



今後は三日に一話の更新になります。よろしくお願いします。

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