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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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二九話 英雄

 僕は魔法で隕石を消し去った。


 魔力としてはまだ余力がある。


「最後に少し演出でもしよう。《回復の尾》」


 炎の翼を破裂させ、広範囲の回復魔法を掛けた。

 魔力効率は最悪だけど、出血程度の傷なら治せるだろう。


 翼の爆発と共に転移をして、僕は部屋に戻った。


「ごめん。最後の回復魔法ですごい疲れたから寝るね。何かあったら起こしてね」


 流石に激しい魔力消費で疲労感がある。

 大騒ぎになっている中で申し訳ないけど、僕はベッドで横になった。


 サミュもサラサもいるし、軍隊が攻め込んできても一晩は確実に耐えられる。


「おやすみなさい」


 僕は安心しながら目を閉じた。


 ――――――


 翌朝。予想はしていたけど、帝都は大騒ぎだった。

 隕石が落ちて、それが目の前で破壊されたんだから当然と言えば当然の反応だ。


 当然ながら、あの時に名乗りを上げた僕の元に人が来ることも想定通りだった。


 呼び出しを受けた僕は昨日行った小さな謁見室ではなく、パーティーでも開けそうな巨大な謁見室に通された。


 そこで多くの人たちが見守る中、僕は《炎の勇者》の称号と褒章として『希少金属』の共同採掘権を貰った。


 称号についてはそれほど嬉しくはなかったけど採掘権は貰えてよかった。ドワーフのツクリを連れてきているし、彼女も喜ぶだろう。


 帝国としての礼を受け取った後、今度は小さい謁見室に呼び出された。


 昨日はいなかった皇子皇女たちが揃っている。

 友達である第二皇女のエルと少し目を合わせるとあっちも反応してくれた。


「公式的な礼はあれだけだが、それ以上の褒美を用意してある。それは将来的なこの椅子だ」


 要らないと言おうと思ったけど、これはこれで利用できる。


「皇子たちがいる場でおっしゃる意味はどのようなことでしょうか? 権力闘争込みでは褒賞にはなりませんが」

「ああ、こいつらは表向きの皇帝職を行う者を選定するための人員に過ぎない。ベルクが気に入った者を皇帝にして貰って構わない」


 昨日は僕を引き入れた人に皇位を譲るという話だったのに、今度は僕が皇位を選べる立場になってしまった。僕がいない所で勝手に決められるのは困るけど、この力を持つ以上は仕方がないと受け入れるしかない。


「じゃあ、第二皇女様は僕の友達なので、自由な行動を許可してください。もし、その自由に干渉する方が居れば、その人には皇位を渡しません」


 ここにいる人たちは皇位を欲している人たちしかいない。みんな目から野心が溢れ出ている。脅しとしてはこれ以上ないだろう。


「第二を気に入っているのか。それなら、嫁がせてもいいぞ」

「いえ。そういった関係ではありません。ただ、時々遊びに行く機会を頂けると嬉しいです」

「当然、許可しよう」


 この人たちの中で友達はエルしかいない。それ以外の人たちに関しては興味もない。


「個人的な話はこれまででしょうか?」

「ああ」

「では、これにて戻ります」


 内政干渉をしていいことがあるはずがない。あまり関わらない方がよさそうだ。

 だけど、皇位争いなんて血が飛び交うようなことをするよりは僕が適当に選んだ方が平和的に決まるかもしれない。


 ――――――


 ベルクが去った後。皇女たちが王室を出て、すぐに第二皇女に全員が詰め寄った。

 特に態度が厳しかったのは第一皇女のカルチュアだった。


「メドニア! あんた。何をしたのよ! またその忌々しい目で何かやったんじゃないの!?」


 怒声を浴びせられたメドニアは口に手を当てて首を傾げた。


「何をおっしゃるかと思ったら、そんなことですか」

「魔法もろくに使えない出来損ないが逆らおうっていうの!?」

「出来損ない……ですか。今まではその言葉に言い返すことは出来なかったでしょうね」

「今は何が違うって言うのよ! あんたはクズのクズニアなのは変わりないでしょ!」


 明らかに反抗するような態度に周りの皇族たちも苛立ちを覚え始めていた。


「みなさんご存じでしょう。帝王閣下、もといお父様が皇帝になれたのはキトラとカトナに権力を与えることを条件に兄弟を殺させたからです。実はあの二人の武力だけで国は取れるんですよ。なら、あの二人よりも強い人間がいたらどうなるか。それはお父様がよく知っている。だから、どんな手を使っても彼と敵対したくないんですよ」

「それがどうしたの? あなた自身は無能のままじゃない。ふざけないで頂戴!?」


 カルチュアはメドニアの胸倉を押し、壁に叩きつけた。


「服は引っ張らない方がいいですよ。彼は細かい所を見るので、みなさんの命はありませんよ」

「くっ」


 その他力に頼った警告の効果は高く、カルチュアは手を離した。


「他人の力で傲慢になるなんて、やっぱり卑しい血から生まれただけはあるわね」

「傲慢ですか。それは否定しません。ただ、勘違いして欲しくないのは、彼は友達です。友達の力で威張りたい訳じゃないんです。私は一連托生になりたいだけなんです。彼が失墜すれば、私はむごたらしく殺される。だから、みなさん私を嫌って下さい。憎んで下さい。憎悪を溜め込んで、彼が死んだ時に恨みの限り私を殺してください」


 その発言と共にメドニアの口角が不自然なまでに吊り上がった。その狂気を掘らんだ言動に取り囲んでいた皇族たちが一歩下がった。


「それではごきげんよう。彼の言った通り、私は皇帝に興味はありません。彼の言った私の自由を侵さなければ敵対はしませんよ。勿論、今までさんざん可愛がってくださったカルチュアお姉さまもね」


 その場の人間たちは各国の人間と関わって来た経験からメドニアの状況に既視感があった。その状態の人間を一言で表す言葉を知っていた。


「狂信者め」


 誰かがメドニアの背に向かってそう吐き捨てた。


 ――――――


 僕たちは帝国で希少鉱石を貰ってから、国に帰ることにした。

 そもそも、建国記念日で呼ばれていた関係でそんなに長い間滞在することは想定していない。


 城を出ていく前にエルに挨拶をする為に部屋に向かっていた。


 昨日は二人っきりだったけど、今日はそのまま城を出る予定だからみんなで行くことにした。


「あっ。ベルではないですか。今日は従者の方々もご一緒なんですね」


 部屋に着く前にエルに出会った。護衛がいないみたいだけどどうしたんだろうか?


「エルに挨拶してから帰ろうと思ってね。護衛がいないけど、どうしたの?」

「自由を手に入れちゃったので、こういったことも出来るようになりました。最早、護衛は要らないですから」

「? まあ、エルがいいならいいのかな」


 護衛がいない? 僕があれだけ牽制したはずなのにエルを雑に扱っているのかな? って一瞬思ったけど、エルの表情を見る限り、自ら望んで護衛を外しているみたいだ。

 ケルベロスの能力がそれほど強いかは分からないけど、エルがいいのなら僕が口を出すことじゃない。


「そうだ。絵を描いたんですよ。ぜひ見に来てください」

「絵? 昨日描いてたもの?」

「いえいえ。ベルの知らない新作ですよ」


 エルの書く油絵は一日二日で完成するような作品はないはずだけど、新作と言われれば気になる。


「じゃあ、折角だから見せて貰おうかな。みんなも見ても大丈夫かな?」

「ええ。大衆に見られても絵は劣化しませんから。でも、一番最初にベルに見て欲しいんです」

「それは楽しみだね」


 僕は芸術についてあまり詳しくない。せいぜい頭でっかちの知識しかない。


 エルに案内されて、部屋の一室に案内された。

 その部屋は真ん中に布を被せられた一枚のキャンバスだけがあった。


「絵のタイトルは『炎の勇者』です」


 エルが布を引き上げた。


 巨大な隕石とそれに立ち向かう炎の鳥。見上げるような視点で迫力で圧倒されてしまう。

 この絵には不思議な力があった。


 あの場面は僕が良く知っている場面だ。


「……これ、昨日の僕だよね」

「ベルしかこんな事できないでしょ」


 はっきり言って、あの中心にいた時は別にそんな感情は動いていなかった。

 当事者のはずなのにこの絵に魅了されている。


 もっと、この絵を見たい。


「みんなごめん。今から無防備になるから護衛をお願い」


 初めてこんな気持ちになった。


 絵の全体を見てから細部の技法を感じ取り、また全体を見て新たな細部を感じ取る。

 この絵に終わりが見えない。


 この絵を表す言葉は一つ『迫力』。


 あの光景を生み出した片割れだから言える事としては、現実よりも圧倒される光景だ。


 絵の達人が巨匠と呼ばれる所以ゆえんが分かった気がする。


 時間の感覚がなくなった。

 僕は吸い込まれるようにその絵を鑑賞していた。


「……すごい迫力だったよ」


 初めて絵で感動した気がする。

 楽しいことをずっとやっていた時みたいに心地よい気分だった。


「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいな」

「本当にこれを貰ってもいいの?」

「うん。そのために描いたから。あと、ベルが絵を見ているうちにみんなの絵を描いたからこれもあげるね」


 いつの間にか今の状況を表現した絵が完成していた。従者のみんなに焦点が当たっている作品だ。


 いくら時間感覚を奪われていたとは言え、せいぜい数時間程度しか経っていないのに僕を含めた六人の絵が完成していた。


「タイトルは『ちゅうしん』。臣下の忠臣と真ん中の意味の中心の意味があるよ」

「すごいね。その絵は帰りに楽しむよ。今、見ちゃったら多分帰れなくなっちゃうから」


 言葉にしたらいけないけど、エルを誘拐したいと思ってしまうほど、エルの絵は僕の琴線に触れる。エルが皇族じゃなかったらお金で雇いたいぐらいだ。


「じゃあ、僕はこの絵を貰っていくね」

「『炎の勇者』は要らない?」

「それは、帝国で飾って欲しいな。エルの絵をみんなに知って欲しいから。だから、この『ちゅうしん』だけ貰っていくね」


 『炎の勇者』も欲しいけど、あれは帝国にあった方がいい。

 できれば、図書館で厳重に保管したいけど、それは世界的な損失になる。


「僕が帝王にお願いしてみるね。あの人の事だから多分、拒んだりはしないと思うから」

「ありがとう」


 エルは画家の才能がある。こんなすごい人と友達になれて僕は嬉しい。


「また、遊びに来るね」


 なんだかやる気が湧いて来た。


 ゼドアムに帰ってからお仕事を頑張ろう。


 初めて人間の友達ができたし、僕なりに収穫の多い帝国旅だった。


 悪魔たちが動き始めた。その一点だけは気が掛かるけど、問題はない。



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