二八話 隕石の悪魔
エルと悪魔二体と共に夜の町に繰り出した。
建国記念ということもあり町は祭り状態で露店が並んでいた。
「普段は食べないようなものが多くて面白いですね」
エルは両手にイカ焼きや焼き鳥などの祭り特有の串物を抱えていた。
「本当に身分がバレていないのかな。みんな追加で一本くれるね」
「勿論、魔法は使っていませんよ。ベルが幼いからみんなサービスしてくれるんですよ」
人目につかないようにケルベロスに食べ物を分け与えている。
僕も自分が契約しているフェトラに物をあげようとしたけど、首を横に振って拒否された。
「私は食事ができません。ご厚意を無下にしてしまってごめんなさい」
「そんなことはないよ。何か欲しい物があったら言ってね」
悪魔たちは他人から見えない分、契約者から渡される物以外に触れることが出来ない。フェトラもケルベロスも僕らから物をあげないと触る事すらできない。
祭りには食べ物以外にも宝石の原石やアクセサリーが売っている。
「みんなへのお土産も買わないと」
エヌを含めて従者のみんなはお留守番をして貰っている。僕だけが楽しんでいるのは少し申し訳ないし、何か買って行こう。
「ギルケアスには星の加護という伝承があります。帝国で希少な鉱物が採れるのは昔落ちた隕石によるものだと言われています。伝承にあやかった星のアクセサリーが人気ですよ」
「そうなんだ」
ギルケアスは鉱物資源が豊富にあるけど、隕石が理由という考察は初めて聞いた。おそらく、迷信の中でもみんなが楽しめる種類のものだから、こんな風に残っているんだろう。
「じゃあ、せっかくだから星のアクセサリーを買おう」
エヌは金髪で明るい人だから、黄色で明るい石がいいかもしれない。
ブローチでいい物を見つけた。
「これを下さい……」
「何か来るぞ! 空を見ろ」
ケルベロスの注意で上を見ると、一つの星が近づいていた。
「もしかして隕石?」
「悪魔の権能による隕石だ。落ちるまで決して壊れない能力を有している隕石だ」
「こんなことができるのは悪魔序列三位の星の悪魔コメットですね」
まさか、隕石を降らせる能力がある悪魔がいるとは思わなかった。
それにあの隕石は物理的に壊すことはできないように何かで守られていた。あれは法則やらそう言った次元のもので僕の全力でも壊すのは無理だろう。
「壊れないのなら逃げるしかないよね」
「ここに我らと少年がいなければな」
ケルベロスはエルに指示を出し始めた。
「あの隕石に向かって手を伸ばして強奪の権能を使うんだ」
「は、はい」
エルは言われるがままに手を伸ばした。
「《強奪》」
はるか遠くにある隕石に牙が突き刺さり消えた。
「何か起きたの?」
「壊せないバリアが消えた。あれなら僕でも壊せる」
威力と大きさは変わっていないけど、ただの落石なら僕の敵じゃない。
「隕石を完全に消し去るにはかなり近くまで引き付けないといけない。だけど、町は混乱すると思う。この距離で壊せば誰も気づいてないだろうから、大丈夫だけど、頭ぐらいの大きさの石は見逃すかもしれない。僕は前者を採用したいんだけど、混乱が起きちゃうとここにいるのがバレちゃうから戻ろう」
「はい。そうですね。私は戻らないといけませんね」
もっと楽しみたかったけど、これは仕方がない。こんなことをした悪魔の契約者は探し出して、説教をしないと。
空間魔法でエルを部屋に戻した。
「お気をつけて。信じています」
「うん。仮にダメだったとしてもここだけは守るから」
僕はそのまま従者がいる部屋に向かった。
「みんな部屋に集まって」
僕の従者たちを連れて城の自室に集まった。
「みんな、今、隕石が落ちているんだ。ほら、あそこ」
「すごいですねー。あれを壊すんですか?」
「うん」
「エヌたちに手伝えることはありませんか?」
みんな僕の事を信用してくれているのか慌てる様子はない。
この距離だと隕石の大きさが分かっていないかもしれないけど、あれはこの町を軽く飲み込む大きさをしている。
「みんなは慌てず落ち着いてここで待っていて欲しいんだ。なんなら、観戦するぐらいで楽しんで欲しい」
「ハイエルフの力があれば手伝える」
「ありがとう。でも、今回は大丈夫。隕石は僕一人が対処するよ」
実は僕は怒っている。なぜなら、あの隕石は僕の大事なものを巻き込んでいるからだ。
あの隕石が僕だけを狙ったものならば、対処せずに受けてもいいとすら思う攻撃だけど、目の前に僕の大事な人たちに当たる可能性があるなら僕は本気で対処する。
これは一種の復讐だ。
相手のやりたいことをすべて否定してやる。
――――――
隕石が発生し、数十分が経ち、人々もその存在に気付き始めた。
後数時間もしない内に落下するであろう巨大な物体に町は混乱している。
「これは君たちがやったということでいいかな?」
僕は隕石が近づくまでの時間で主犯格らしき人物たちが集まっている場所に来ていた。
隕石が見える場所で、被害を受けないギリギリの場所で潜伏していたのがこの人たちだった。
人数は五人。全員、魔力は一般人より少し多いぐらいだけど、悪魔が隣にいる。
みんな比較的に若い人たちが多い。十代か二十代ぐらいだ。
「答える気はないみたいだね。まあ、いいや。じゃあ、あの隕石を落としたコメットっていう悪魔と契約した人は誰かな?」
「おい。お前は誰だ?」
「あの子どもはなんで僕らの存在に気付いたの?」
「お前も悪魔使いなら悪魔を見せてみろ」
誰も答えてくれなかった。完全に敵対をしているのか、質問を投げ合うことしかしていない。
「フェトラ。どれがコメットか分かる?」
「はい。あの少年の隣にいる悪魔です」
海にいるヒトデのような姿の悪魔がその少年の隣に浮いていた。あれがコメットなんだ。
「町じゃなくて、僕単体を狙っていたらまだ生きていられたのにね」
風魔法で相手に感知される前に首を刎ねた。
あの人物は僕以外を狙った。だから、容赦せずに殺した。
「な、何が起こって……」
みんな今起こった現象が分からずに口を開けたり、腰を抜かしたりしている。
「僕の名前はベルク・ザルゴル。もし、戦いたいなら正面から来ることをオススメするよ。なるべく、君たちの土俵で相手をしてあげるから。もし、周りの人たちを狙ったら君たちを殺す」
ここで皆殺しにはしない。彼らがどんな関係性で繋がっているかは知らないけど、僕に勝てないということは刷り込めただろう。
「じゃあ、この一撃を受けても殺しはしねぇってことだよな!」
腕の筋肉が膨張した男が僕を殴ろうと拳を振り上げた。
そこそこ早いけど、避けるのは余裕な早さだ。
僕はその拳を受けた。
威力は申し分ない。落石を想起させるような拳だ。
拳の影響で体が地面を擦った。
「狙撃。《マナバレッド》」
魔力の弾丸が僕の側頭部に当たった。
「よし。分厚い鉄板すら撃ち抜ける狙撃の悪魔の補助付きの弾だ。人間なら……」
他の人間が動く様子はない。仲間が殺されてすぐに動けたのは二人だけ。
「いい連携だけど、力が足りない。もうちょっと頑張ってみて」
殴って来た男を力で放り投げてから、狙撃手の頬に魔力の弾丸を掠らせた。
「こんな風に僕を狙ったものなら殺しはしないし、土俵で戦ってあげる。だから、正面から来てね」
僕は空間転移で町に戻った。
城壁の上から町を見ると、逃げ惑う人々で地獄絵図が起きていた。
人は命の危機が起きるとどんな手を使っても助かろうとする。それは生命として至って普通の行動原理である。
特に今日は他国からやって来た人たちも多い。帝都での土地勘もないような人たちは最早、暴徒と化している。
本当に周りが見えていないのか各地で衝突が発生している。
隕石が落ちる前に死者が出るんじゃないかな?
隕石は雲の上にあってまだ遠い。せめて雲の下に来てくれないと魔法が使いにくい。
流石にこの町の人間を押さえつける為の魔力の余力はない。だけど、このまま傍観したくない。
「あれは……」
城から兵士たちが出てきて誘導を始めた。
あの兵士たちは魔法によって軽微な精神支配を受けている。
エルの洗脳魔法によって、恐怖を打ち消し強制的に動かしているのだろう。
かなりいいアイデアだ。
ただ、やはり人数が足りない。
あんまりしたくなかったけど、エルが頑張ったんだから僕も覚悟を決めないといけない。
「みなさん聞こえますか?」
僕は風魔法を応用した魔法である《拡声器》を使い町中に声を届けた。
「僕の名前はベルク・ザルゴルと言います。あの英雄ガルロー・ザルゴルの孫です。今、現在、見ての通り隕石が落ちてきています。この隕石は僕が破壊します。破片が落ちるかもしれないのでみなさんは落ち着いて避難指示に従って下さい。以上です」
名乗りを挙げたくはなかったけど、この場で一番安心できるのがお爺ちゃんのガルロー・ザルゴルという名前を出すことだった。
僕の発言は少しは効果があったみたいで、英雄の現役時代を知っている歳を取った人たちの動きは少し落ち着いたように見える。
まだ、足りない。もっとみんなを安心させないと……
「《炎の羽》」
空を飛ぶのに派手な魔法を使う必要はないけど、僕は身長の何倍もある炎の羽を展開した。
これはあくまで演出でしかない。
隕石の落下地点まで空で待機する。
魔法使いたちは僕の姿を見て格の違いを理解して、望みを賭けるようになった。
使う魔法は火属性の極大魔法《バーンノヴァ》。炎を極限まで圧縮してすべてを蒸発させる魔法だ。
極大魔法と言っても今の僕だと準備もなく発動させることができる。だけど、今は演出が求められる。
帝都のどこからでも見える巨大な火球を上空を覆いつくすほど発生させ、徐々に合体・圧縮させる。
望みを託せる存在が現れれば、みんなの動きは多少は変化する。
隕石が近づいて来た。魔法の準備は整った。炎は僕の手に収まるほど圧縮された。
おそらく地上からでは隕石の全体を見ることは出来ないだろう。
それほど大きい隕石だった。
――予測の範囲内だ。
「消し去れ! 《バーンノヴァ》」
炎の玉が隕石に触れた。
瞬間。爆発音と共に隕石が消滅した。




