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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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二七話 ケルベロス

 部屋に戻ろうとしたら、廊下に騎士らしき人たちが並んでいた。その中心には派手なドレスを着たお姉さんがいる。


「あなたがベルク・ザルゴルね」

「え、ええ。そうですが」

「私は第一皇女のカルチュア・フォン・ギルケアス。貴方。私の従者になりなさい」


 一瞬、冗談が好きな人なのかなと思ったけど、この人は本気だ。

 この国では皇族がフルネームを名乗ることはほとんどない。その立場や役職で呼ぶのが普通だ。皇族が名乗る時は儀式の時か決闘時ぐらいしかない。


「面白い提案ですが、今はお断りしておきます。私の地位では皇女様の隣に立つには足りませんから」

「地位なんてどうでもいいわ。お父様が貴方を手に入れた人間に皇位を譲って下さるのよ」


 あの帝王様はとんでもないことを考える。

 他国の人間を引き抜いた人間に跡を継がせるなんて普通は考えないし、そのことをこの場で堂々と言う皇女も普通じゃ考えられない。


 でも、僕はそういうのは嫌いじゃない。


「そうですか。なら、僕に傷を負わせられたら従者になりましょう」


 条件を提示した。

 これは優しさなんかじゃない。明確な条件を示すことで、変な手を使わせないためだ。


 皇女様は目的の為ならどんな手を使うタイプの人間に見える。その矛先が僕に向くならば、問題はないけど、周りに向かったらそれは困る。


「どんな手を使っても構いませんが、皇女様の手で私に傷を与えられればいいです」

「ええ。分かったわ」


 皇女様の魔力が動いている。初手で不意打ちを狙うなんてね。


「失礼するわ。必ず私の従者にしてあげるから《炎線ファイアレーザー》」


 すれ違うと同時に魔法が飛んできた。

 火属性の上級魔法。おそらく皇女様が撃てる最高火力の魔法だろう。


 容赦のない魔法を魔法の盾で防いだ。


「《マナシールド》。下級の魔法で防がれるとは思わなかったわ。でも、諦めないから」


 諦め悪そうだけど、このぐらいなら対処は難しくはない。


 ――――――


 日が沈んで夜になった。


 町は明るくなり、建国の祭りが開かれていた。


 僕は第二皇女様の場所に転移した。

 皇女様にあげた包帯に僕の魔力を込めておいたから自室であっても転移ができる。


「いらっしゃいましたか」

「今は包帯は外しているんだね」

「二人っきりの時は外させて頂こうかと。ベルク様が嫌なら隠します」


 月明りに照らされる魔眼はより神秘的に見える。

 灰色の髪も相まって魔女という表現が似合う。


「このままでいいよ。じゃあ、早速なんだけど。フェトラ」


 僕の隣に悪魔の女性が現れた。


「この人の事が見えるかな?」

「いえ。見えません」


 悪魔の姿は契約をしたか、魂の魔眼がある場合にしか見えない。


 だけど、例外が一つある。

 それは他の悪魔だ。


 フェトラが来てから、数刻おいてから三つ首の犬が現れた。


「確かにそこにいらっしゃるみたいですね」


 犬の視線を見て、皇女様もフェトラに気付いた。


「この子は僕の友達のフェトラという名前の悪魔です。これで確信しました。その三つ首の犬は悪魔です」


 犬の首がぐるぐる回り、こちらを睨む頭が真ん中になった。


「誰だ貴様は?」

「私は契約の悪魔フェトラと申します。あなたの事は存じております。悪魔序列五位の『強奪の悪魔』ケルベロス様」

「我は知らぬぞ」

「私は一応新人なので」


 悪魔序列とは、百体の悪魔たちが神になる為の一席を奪い合った際にできた生き残り順だ。

 ケルベロスは最後の五人まで生き残っていたらしい。


 そして、神となった一体の代わりに入って来たのはフェトラだ。


「小僧の強さは貴様の能力によるものか?」

「いえ。私の能力は一切関与しておりません。私の契約者は素でこれだけ強いのです」

「現状で前回の王者よりも強いではないか」

「そんなことより、ケルベロスさんは悪魔ということでいいんだよね」

「ああ」


 悪魔二人で話されても皇女様が会話が聞こえていないっぽいから僕が話を替えた。


「皇女様。この子は悪魔らしいです」

「そうですか」

「ま、待て。この子にはいい悪魔だと伝えてくれ」


 犬が皇女様にすり寄った。


「おい。頼む。力を分け与えてやってもいい」


 皇女様は屈んで犬と目線を合わせた。


「私はこの子が悪い存在には見えません。それにベルク様にも悪魔のお友達がいらっしゃるのでしたら、問題もなさそうですね」

「悪魔は邪悪な存在とされる中、それでも受け入れられるのですか?」

「はい。この子は幼い時から一緒にいた私の大事な友達です」


 皇女様は心優しい人なんだろう。だから、この犬も皇女様の隣にいる。


「私もこの子の声が聴きたいです。どうすればいいでしょうか?」

「……契約をしよう」


 犬は悩んだ素振りを見せた後に口から紙を差し出した。


「これは?」

「それは契約書です。悪魔との契約には自分の意思の元で契約を行う必要があります。僕には内容が見えませんが、そこに名前を書くと契約が成立します」

「この子が望んでいるってことですよね」


 皇女様は悩むことすらなく名前を書いた。


 契約書が光となって、皇女様の体に入っていった。


「答えられたらでいいのですが、どんな内容でしたか?」

「『略奪の悪魔ケルベロスと契約する。契約時に略奪の権能を得る』って書いてありました」

「なるほど、権能があの光だった訳ですね」


 僕が契約をしたときはあんな感じではなかった。権能を得る場合はあんな事になるんだろう。


「権能は悪魔の固有能力を人間が使えるようにしたものですね。ケルベロスの権能は略奪とのことなので、それに準する能力でしょう」


 基本的に権能の強さは序列に比例する。五位のケルベロスともなれば、使いこなせれば強大な力になるだろう。


「改めて、私はメドニア・エル・ギルケアスと申します」

「我はケルベロス。好きに呼んでくれ」

「では、ケルちゃんって呼びますね」


 ケルベロスは照れているが、嬉しそうに尻尾を振っている。その当たりはうちの犬であるメツと同じ仕草だ。


「私の事はエルって呼んでください。実はメドニアと呼ばれるのはあまり好きではないんです」

「あの性悪な姉のせいだな。あの女も我の権能があれば怖くはないぞ」


 ずっと一緒にいたのに名前すら知らなかった二人が会話できるようになって少し微笑ましい。


「ベルク様もぜひ、エルって呼んでください。同じ秘密を共有する者同士で友達になりましょう」


 友達。人から初めてそう言われた気がする。

 僕の事を仲間だって言ってくれた人たちはいっぱいいるけど、友達と言われたのはこれが初めてだ。


「うん。友達になろう。僕の事はベルって呼んで」

「これからよろしくお願いしますね、ベル」


 皇女を呼び捨てにするのは少し躊躇ためらいがあるけど、あっちが呼び捨てにしてくれたんだから、こっちも呼び捨てにしないと。


「エルもよろしくね」


 悪魔と契約した者同士での交流は初めてだ。


「少年よ。君はその悪魔を神に押し上げるつもりはあるのか?」

「フェトラにその意思はないみたいだから僕にもないよ」

「それならばよい。敵対することはなさそうだな」

「それは良かったよ」

「その、神とかってなんの話なんですか?」


 ケルベロスがエルの疑問に答え始めた。


「説明をしていなかったな。五百年に一度、悪魔たちは神の座を狙って競争を行う。権能を分け与えた生物がどれだけ人間の血を集めたかで勝負を分ける」

「人の血を?」

「ああ。五百年前の戦争はその争いが火種となった。恐らく、今回も同じようなことが起きるだろう」


 神の座を狙う争いは通称『悪魔の戦争』と呼ばれる。


 五百年前も悪魔と共に戦った人間や魔獣がいたらしい。その結果発生したのが大陸中を巻き込んだ大戦争だ。


 あの大戦争はいくつもの国を消し去り、新たな国をいくつも誕生させた。そのうちの一つが僕の祖国である大国のゼドアムだ。

 それほど広範囲を巻き込んだ戦争が悪魔たちの手によって起こったのだ。


「それは嫌ですね。だって、戦争をしても困る人の方が多いですから」

「そうだね。戦争が起きれば不幸が増える。僕もそんなのは止めたい」


 戦争になれば、多くの人が被害を受ける。

 僕が守れるのは僕の手が届く範囲しかない。他人の権能がどれほど強力かは分からないけど、守ろうと思ったらせいぜい町一つ分の規模が限界だろう。


「少なくとも、僕らは人を殺さないようにしないとね。こんな暗い話をしても仕方がないから、一緒に町に行こうよ。空間魔法ならこっそり抜け出せるから」

「それはいいですね。でも、町を出歩く為の服がなくて。どれも無駄に装飾があって……」

「大丈夫、僕の従者の服を貸してあげるよ」


 エルの体格はエヌとほとんど同じだ。


「では、折角ですからみんなで行きましょう」


 ということで、エヌから服を貸して貰ってから町に出て行った。



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