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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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二五話 進化

 朝、目覚めると世界が変わっていた。


「なにこれ」


 寝ているエヌの体に青白い炎が纏っている。

 炎といっても本物の炎じゃない。熱はないし、エヌに変わったことはない。


 別の部屋にいる人の炎が透けて見える。

 周りを見て複数の炎を見ると僕に感覚が伝わって来た。五感とはまた違った感覚だ。


 すぐに原因が分かった。


「これは魔眼だ」


 魔眼は後天的に授かることはない。だけど、僕が感じているそれは魔眼を持っている人が言っていたのと同じように感じる。


 僕の中では新たに得た感覚の正体よりも疑問があった。


「なんで、今日なんだ?」


 激しい戦闘をした後だったり修行をしていたのなら分かるけど、そんなことはしていない。

 したことと言えば……


 エヌに実質的に告白したんだった。


 思い出すと恥ずかしい気持ちになるけど、後悔はしていない。


 だけど、それが魔眼と何が関係しているんだろう?


「おはようございます。朝からどうしましたか?」

「僕の目を見てくれない?」

「あれ、昨日まで髪色と同じで黒かったのに金色と青い眼のオッドアイになってますよ」

「両目で違うの?」

「はい。エヌにはそう見えますよ」


 《水鏡みずかがみ》の魔法を使って、鏡で自分の顔を見た。


 エヌの言う通り、僕の目は片方が金色に片方が碧眼になっていた。


「寝ている間に目を交換された? 侵入者はいたのかな?」

「いえ。エヌの感知を抜けられてもベルク様にそんなことをできるのは神ぐらいしかいないですよ」

「神か……なら、少し聞いてみようか。フェトラ。見ているかい?」

「はい」


 僕の目の前にフェトラが出現した。

 彼女は悪魔だけど、時に関係する神でもある。


「僕の変化について何か知っているかな?」

「はい。それは人族の進化系であるハイヒューマンに備わる『世界の眼』と『魂の眼』です。現象としてはハイエルフの覚醒と同じです。しかし、効果は大きく違います」


 種族進化。

 サミュがハイエルフになった時も変な時期だった。いつも通り僕と一緒に本を読んでいる時に突然、進化した。


 条件は分からないけど、あまり考えない方がいい。もし、知ってしまったら世界を動かしてしまう。

 種族進化については触れない方がいい。


「種族進化なら良かった。戻ることができるからね」


 心を落ち着けて、昨日までの自分を思い出す。


「目の色が戻りました」


 戦いとかになったりして興奮してしまったら、進化した状態になってしまうけど、これならバレないだろう。


「この帝国での用事が終わったら、使い方を確かめてみよう」


 魔眼は感覚を伝えてくれる。だから、使わなくてもやれることは大体分かった。


 『世界の眼』はこの世界のあらゆる現象を認知することができる。この眼があれば、発想力次第でどんな属性の魔法でも使える様になる。

 はっきり言って、今の僕には無用というか、魔法属性について困っていることはない。


 そして、もう一つの『魂の眼』はその名の通り魂を感知できるようになる。世界の眼を補完する形で現象じゃないものを認知することができるという眼だ。

 この眼の扱いは難しい。現状だと寿命を見るぐらいしか使い道がない。研究する価値のある魔眼だ。


 『魂の眼』で見るとフェトラの魂は既に消えかかっていた。あと数年でフェトラは消えてしまう。

 僕にとってフェトラは大事な友達だ。


「フェトラ。ありがとう」

「わたしは何もしていませんが」

「いや、フェトラがいたから僕は大事な人を守れているんでしょ?」


 僕の人生において一番重大だったのがエヌを専属侍女に選んだ事だとするなら、次に大事だったのがお爺ちゃんと喧嘩することだった。


 あの日。お爺ちゃんに善人になれって言われて、フェトラがそれを否定したことで、僕は自分で考えることができた。


「いえ、わたしは何もしていませんよ。ここの所、能力も使っていませんし、すべてベルクさんが頑張った結果ですよ」

「……ありがとう。これからもよろしくね」


 フェトラは悪魔だけど僕の友達だ。


 僕ができることは日ごろから感謝を伝えるぐらいしかない。


「これから……はい。短い期間になるとは思いますがよろしくお願いします。それでは、またのお呼びを待っています」


 フェトラが消えて行った。


「じゃあ、エヌ。今日も移動だけど楽しもうね」

「はい!」


 エヌの返事はいつも以上に元気だった。

 その声は僕にとっては嬉しかった。


 ――――――


 馬車に乗って移動を始めた。


 今日はメツとツクリに隣に座って貰った。


「じゃあ、今日はメツの武器を考えよう」

「なんであの犬っころの武器を作ってやらないといけないんだ?」

「そんなことを言われなくたってお前みたいな小人なんかに作って貰った武器なんか使うか」

「ツクリ。種族の特性に合わせたオリジナルの武器って面白いと思わない? メツは武器の幅を広げてみてよ。僕の為だと思ってさ」


 二人は犬猿の仲だけど、それはお互いの事を知らないからだ。

 相手を知るには相手の立場と近い場所に立たないといけない。


「それは確かに面白そうだ」

「主の為ならば、ぼくは何でもやります!」


 これまでは、自然と一緒になる事が最善だと思っていたけど、それは僕がいる限り無理だ。だって、二人は僕への対応で対立しているんだから。


 はっきり言って、僕への対応で二人が理解し合うことはない。


 僕が獣人を虐待する人たちを見て理解が出来なかったのと同じで、個人の感情が関わる部分で理解し合うのは難しい。


 なら、お互いが理解できる場所をより知っておくのが最善だと僕は思った。


 幸いな事に僕は二人の『好き』を知っている。


「尻尾とか耳とか体の構造なんかも武器の印象を変えるよね」

「お前のそれはどれだけ動くんだ?」

「メツ。実験させてよ」

「あ、主にしか触らせませんよ」


 木の枝で疑似的にいろいろ作ってみたりして、楽しかった。

 この日以降の移動はあっという間でむしろ移動時間がもっと欲しいとすら感じるほどだった。


 ――――――


 帝都に着く前日の夜。僕はエヌと寝ていた。


「ベルク様の悩みが解決したみたいで良かったです」

「うん」


 あの日の奴隷市場の事は忘れない。


 感情として否定するという気持ちを論理で何とかしようとしたこと自体が間違いだった。


 僕にとって悪なら悪だ。そこに社会規範などの他人の感情を優先させてやる必要はない。

 それから先は他人の立場で考えてみて、多角的に考える。


 僕は寝ている間にあそこの場にいた人達の立場に立ってみて感情を予測してみた。


 実を言うと、奴隷市場を見た時も同じように多角的に見ていたけど、理解できなかった。それは『性欲』と『愛』をごっちゃに考えてしまったからだった。


 どっちの概念も近いけど、明確に違う。言葉で説明するのは難しいけど、僕はあの日の夜『愛』を理解することができた。


 僕は『愛』と『性欲』が近いものと思っていた。そして、『性欲』は汚いモノ。隠さないといけないモノと認識して、『愛』も同様に隠さないといけないモノだと思っていた。


 僕の見解と前置きすれば、『性欲』はたくさん種類のある『愛』の一種に過ぎない。だから、『性欲』は『愛』の一種に過ぎないんだ。


 そして、その違いを理解した上で奴隷市場の状況を理解しようとした結果、僕じゃ理解できないことを知った。


 悩んでいた時と同じだと思うけど、理解できない理由は分かった。


 あのお金を払っていた大人たちは『性欲』の中に『愛』が内包されていると思っているんだ。

 だから、性欲が先に来て愛は後になる。


 メツとツクリが僕への対応で理解し合えないように、僕は彼らの事を理解できない。


 だけど、理解ができないからってすぐに攻撃はしない。だって、僕だって彼らになる可能性があったんだから。僕はあくまでエヌがいたお陰で『愛』を先に知ることができた。でも、世の中の大半の人がそうじゃない。

 体の成長に合わせて『性欲』を知り、その後に『愛』を知る。


 理解できない理由が分かれば、もやもやはなくなった。


「エヌ。大好き」


 僕はもっと社会を知って成長して、エヌを愛せる男になろう。



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