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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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二二話 帝国領

 僕たちは帝国との国境にある関門を通ろうとしていた。


 ゼドアム王国とギルケアス帝国は国交はある程度あるけど、昔戦争をやっていた名残で、かなり厳重な警備が敷かれている。


 まあ、僕はあちらから招待されている立場だし、公的な立場で向かっているから特に問題はないはず。

 ……と思っていたんだけど。


「こんな奴隷ばっかりの馬車が貴族サマだって? 本当かぁ?」


 ここの兵士たちは良く言えば用心深いけど、なんか低俗な感じがする。

 なんというか、こう僕以外を見る目が気に入らない。


 だけど、こういう時に相手が求めていることは分かる。


「これで、通してくれるんだよね」


 僕はお金を渡した。これで商会の人たちは審査を円滑にできると言っていた。


「話が分かるじゃねぇか。じゃあ、その従者を一人置いていったら通ってもいいぞ。特に黒狼族は男か女か知らねぇが置いていけ」

「ねえねえ。ベルクちゃん。こいつ殺しちゃっていい?」

「ダメだよ。国際問題になっちゃうから」


 護衛のサラサが、手を出そうとした所を止めた。

 僕だっていい気持ちじゃない。だけど、ここで殺せば戦争の引き金になりかねない。特にゼドアムの最高戦力の一人である宮廷魔法師団の団長であるサラサが手を出した日には非難は避けられない。


「しょうがない。帰ろう。皇女様には後でお手紙を出しておこう。無礼な人がいたせいで行けなかったってね」


 別に通して貰わないと僕らが困ることはない。こんな不快な思いをするぐらいなら国境前で帰るんだったと思うぐらいだ。


「おいおい。そんな脅しをされたら帰したくなくなるなぁ」

「囲まれましたね」


 エヌは気配の把握が上手で、周辺に人がいることが分かる。

 本当にここの門番の人たちは国際問題に発展することを恐れていないのだろうか?


 お金を渡すだけなら僕も許容した。別にそのお金じゃいけない理由なんてないし、費用対効果として悪くなかった。

 だけど、人を渡せと言われるのはかなり不愉快だ。


 それに、あの人はみんなの事を奴隷って言った。

 奴隷の証である首輪や腕輪はしていないのに種族が違うからってそんなことを言う人間は嫌いだ。


 こうやって、わざわざ逃げ道を塞いで僕から大事な人を奪い取ろうという態度は許せない。


「みんな。ちょっと、耐えてくれるかな?」


 物証が残らなければ、相手を攻撃しても問題はない。それはあくまで他人の感覚に過ぎないから。


 僕は間と魔力を混ぜた威圧の領域を周囲に巡らせた。


「《威圧領域(フィアーゾーン)》」


 ここら数キロは魔法使いも戦士も僕の威圧を感知してしまう。

 この威嚇の弱点は敵味方関係なくこの領域の効果を受けることがある。


 だけど、この威圧という行為は僕の事を味方だと信じている人には効果が薄い。


 というのも、この領域内では僕に命を握られている錯覚に陥るらしいけど、僕の事を信じてくれる人は命を握られることに抵抗感はそれほどないらしい。


「このぐらいでいいかな?」


 馬車の外を少し見てみると、みんな倒れていた。一部の強い人たちは膝を地面につけながらも頑張っている。

 少し、感情的になりすぎたかな。


 ここまでやるつもりはなかったから、少し反省しないとね。


「じゃあ、帰ろう」

「待って」


 馬車の近くに女性が魔法で転移してきた。

 空間魔法を使える人間はこの馬車の外の人間では一人しかない。


 サラサが馬車から出て行き、その人物に抱き着こうとした。


「カトナお姉ちゃん」


 サラサの双子の姉であり、ギルケアス帝国の保有する最強の魔法使いカトナ。

 彼女はサラサを避けて、僕の所でひざまついた。


「この度は我々の末端がご迷惑をおかけしたことを謝罪いたします」

「今後気を付けてくれたらいいよ。別に気にしてはないから」

「ありがとうございます。では――」


 領域内の魔力が激しく動いている。カトナが魔法を使おうとしているんだろう。僕たちへ向けているわけではないことは分かる。


「《風の断頭台(エアーギロチン)》」


 風で作られたギロチンの刃が帝国の兵士たちの頭上に出現した。

 本気で殺す気だ。


「そこまでしなくてもいいよ」


 僕はカトナが使おうとした魔法をそのまま複製して、反対方向に発動させることで相殺をした。


「……承知いたしました」

「それで、なんでカトナさんが来てくれたのかな?」

「帝国にいる間の護衛を私が担当することになっております。重ねてこの度は申し訳ございませんでした」


 すごい大物が護衛に来てくれた。一応、役職ではサラサと同格だけど、他国のトップクラスの人が来るとは思わなかった。

 でも、護衛というのは建前で、監視の意味の方が強いんだろうね。まあ、それだけ重要視されていると考えれば悪い気はしない。


 だけど、ここは苦言を呈して立場を示さなければならない。


「《断罪者》って言われるカトナさんがいれば、今後はこんなことが起きないんですよね。信用していますのでよろしくお願いします」

「はい。これから帝都からこの関所に戻るまでよろしくお願い致します」


 ということで、カトナを護衛に加えてから帝都に向かって進み始めた。


 ――――――


 町に着くまでの馬車は少し気まずかった。

 関所に行く前は実質身内だけだったらから、話題があったけど、部外者のカトナが入って来てみんな喋ることがなくなってしまった。


 カトナと関わりがあるのはサラサぐらいしかいないけど、サラサは無視されたことを怒って、何も喋っていなかった。だけど、サラサは時間で怒りを忘れるタイプの人間だから、少ししてからちょっとイライラを感じられるような口調で喋り始めた。


「ねえねえ。お姉ちゃん。さっきの無礼な人たちはなんなのさ」


 不機嫌なお陰か、サラサにしてはまともな質問が出て来た。


「それは僕も気になる。明らかに誰かに指示されてやっていた気がするんだ」

「……お恥ずかしい話なのですが、帝国も一枚岩ではないのです」

「なるほど。これ以上は聞かないでおくよ」


 帝国も帝国で政治的にややこしいことになっているだろう。カトナも困るだろうし、別にそこを深堀りしようなんて思っていない。

 だけど、関所の人たちで少し気になったことがあった。


「少し聞きたいんだけど、さっきの人たちはメツを。この黒狼族の子を連れて行こうとしていたんだけど、それはその政治に関わっているの?」


 誰か一人を差し出せと言ってきたのに、メツだけは個別に差し出させようとしたのが気になった。

 あの人たちの品性のない視線からして容姿を重視していたと思うけど、みんな容姿は優れていて、客観的にみれば、誰か一人が飛び抜けているとかはないと思う。


 その中でメツを選ぼうとしたのは気になってしまった。


「おそらく関係はないと思います」

「……」

「誤解を招く言い方になってしまうのですが、現在、黒狼族は性の対象として見られているんです。奴隷の価値としても高いですし、個人での需要も高いです」


 性の対象だからってそんなに需要が生まれるのか僕にはよく分からないけど、確かにこの耳と尻尾は高値で取引されても変じゃない。

 毛の手触りだったら、醜美とは違って個人差は出にくい。


 だけど、大人たちはこの手触り以上に性にお金を出しているって訳なんだよね。


「うちのメツは可愛いけど男の子だよ。それでも高くなるの?」

「……実はオスの方。いえ、オスにしか需要はありません」

「なら、買っているのは女性の人が多いのかな?」

「……いえ。男性の方が多いそうです」

「ん?」


 僕は首を傾けることしかできなかった。男の人が男を性の対象にするの?


「それ以上は教育に良くないからダメ」


 サミュが会話の流れを止めた。


「理解しなくてもいいこともある」

「その声。もしかして、サミュラス・リッター様ですか?」

「違うよ。この子はサミュ。僕の従者だよ」

「……承知いたしました。人違いでした」


 サミュがここにいることを公言してはいけない。カトナさんもそこの所は分かっているのか、追及をしたりはしなかった。


「ねーねー。サミュちゃんは何歳なんですかー? イテッ」


 サラサが余計なことを言って頭を叩かれた。


「それで、黒狼族の件だけじゃなくて、帝国ではどれだけの異種族奴隷がいるの?」

「担当官ではないので数値は分かりませんが、獣人の奴隷は一般的ですね。ドワーフは職人として雇っている場合もありますし、エルフはとても高値で取引されてますね」


 奴隷といえば獣人みたいな感覚だろうか?

 統計的な奴隷の数については知っているけど、それ以上の事はあんまり分からない。特に奴隷の扱いについては国によって違う。


 母国であるゼドアムは奴隷自体を歓迎しておらず、王都で販売することは禁止されていて、奴隷を見たことはあまりない。

 それに対してギルケアスは大陸で一番と言ってもいいほど奴隷産業が盛んに行われている。


 一応、種族間の問題を解決しようと頑張っている身として、ここの奴隷たちがどんな扱いを受けているか直接見てみたいという気持ちがある。


「ご興味があれば、奴隷を何体かお渡ししましょうか? 丁度、次の町に大規模な奴隷市場があります」

「……折角だけど辞めておくよ」


 みんなは行きたくなさそうにしているから言葉ではそう返した。


 だけど、僕としては気になる。ここまで来たついでに奴隷市場を見てみたい。


 大きい町に着いた。

 活気という点から見ればゼドアムの王都と引けを取らない。


 僕らはここが目的地じゃないから、安全を取って馬車から出ることなく宿に向かった。

 今回の旅では男女で寝室を分けている。だから、僕の行動を監視できるのはメツしかいない。だけど、メツは僕のしたいことを拒否したりしない。


「外に出たいんですか? ぼくが盾になります」

「じゃあ、二人で行こう」


 僕たちは魔法で姿を隠してから奴隷市場に向かった。


 そこで、僕はおぞましい光景を見ることになった。



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