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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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二十話 欲

 ネフィの護衛を終えてから、僕は誰もいない荒野に来ていた。


 転移をすればどこでも一瞬で行けるからこの二年間の修行は僕の行動範囲を一気に広げてくれた。

 誰もいない場所にすぐに行ける。


 僕は昨日感じたことをある存在に相談するためにこの人気のない場所にやって来た。


「フェトラ。見ているかい」

「はい」


 この二年間、他人と約束事をすることがなかったから契約の悪魔であるフェトラと話す機会はあんまりなかった。自主練での半年でいろいろ話を聞いたぐらいだ。


「今、僕が抱えている感情の正体を教えてくれないかな?」

「ふふ」


 僕は真剣に聞いたつもりだったけどフェトラは口元を抑えて笑った。


「失礼しました。ベルクさんのその感情は言葉や理性で分かるものではありません」

「二年前、君が言っていた自分で理解しないと意味がないってやつかな?」

「ええ。それと本質的には違いはありません」


 僕が三歳になって動き始めた時にエヌに抱いた感情と本質は同じらしい。


「じゃあ、どうすれば理解できるんだ?」

「それは簡単な話です。歳をとって下さい。そうしたら本能でその感情を理解できるようになります」

「ただ歳を取るだけ?」

「はい。少なくとも十三歳ごろには理解できると思います」


 十三歳ってことはあと八年か。


「どうすれば、短縮できるかな?」

「簡単な方法ですと、もっと女性の方と関わって、好きって言って貰えればいいと思います」

「意図が分からないけど、しばらくは難しいってことだね。まあいいや。いつかはこの気持ちを理解できるって事でしょ」

「はい。それでは失礼します」


 フェトラは一礼した後に消えて行った。


 僕にとってこの感情が善か悪かは分からないけど、きっと人生において大事な感情だと思う。

 少なくとも大人は知っている感情なら、僕の知っている一番最年長の人に聞けばいい。


 ―――――


 今日は図書館に一人で来た。


「サミュ。いや、おばあちゃんに相談があるんだ」

「どうしたの? おいで」


 おばあちゃんは年長者で僕が信用している大人の内の一人だ。


「僕。同い年の子に好きって言われたんだ」

「それは良かったね。とにかく、おいで」

「その時、僕の中だとエヌと一緒に居られると知った時と似た感覚だったんだ。おばあちゃんはこの感情が何か知っているかな?」


 おばあちゃんは無言で腕を広げていた。対面で相談したかったけど、密着していないと会話になりそうにない。

 いつもやっていることだし、僕は黙っておばあちゃんの膝の上に座った。


「それはね。性欲だよ」


 おばあちゃんから聞きたくないような答えが返ってきた。


 性欲? 

 あんまりピンとこないけど、なんとなく間違いだとは否定できない。


 でも、そんな言葉で終わるような感情ではない気もする。

 僕にとって性欲が大事だとするならば、サラサみたいな行動が最適解っぽくなるから、それはちょっと嫌かな。


「やっぱり、言葉じゃ分からないものみたいだね。ありがとう。すっきりしたよ」


 帰ろうとしたけど、おばあちゃんが離してくれなかった。


「……ベルクはどんな子が好み?」


 いつも冷静で落ち着いた口調とは違うように感じた。


「容姿はよく分からないけど、一緒にいて気が楽な人かな」

「巨乳はやめておいた方がいい」

「ん? うん。分かったよ」

「約束」


 サミュの言っている意図はよく分からなかったけど、重要そうじゃないからあんまり考えないようにした。


「そうだ。あと、今月あるギルケアスの建国記念日に招待されたから行ってくるね」

「ギルケアス? なんで、あんな所に?」

「この前、目の綺麗な皇女様に招待されちゃってね。断ったら申し訳ないから行ってみようかなって」


 僕の誕生会に来てくれた皇女様の好意を無下にできないのもあるけど、移動の時間を誤魔化して、魔物の生態調査をしてみたいと思っている。


 今は図書館所属の人間だから、上司が反対していることを堂々とやることはできない。

 だけど、それは仕事の話で、個人的にこっそり行けばいいんだ。


「……じゃあ、わたしも行く」

「えっ? 国外に出ても大丈夫なの?」


 僕が驚いたのには理由がある。

 はっきり言えば、サミュは国にとって巨大な爆弾みたいな扱いを受けている。


 ゼドアムが建国初期に起きた戦争の時代において、軍師かつ魔法使いとして《戦場の悪魔》とまで言われた人で、自国を含めて国の上層部に恐怖を与えている。

 そして、今は学者として、主に魔法関係についての研究の第一人者でその道に進もうとする人たちは必ずと言っても知っている存在。


 少なくとも、他国、それも同盟国でもない国の建国記念の式典に行くのは問題になる。


「ベルクが行くなら、わたしが保護者としていく」

「政治的にちょっと難しいんじゃないかな?」


 一緒に行くとなると、こっそり抜け出す計画がなくなってしまう。


「大丈夫。ベルクの方が大事」

「何か対策でもあるの?」

「……ない」


 僕が行くから行くのは感情だけっぽい。

 こんなに感情で動く人じゃないんだけど、今回は計画性すらない。


「なら、辞めておいた方がいいよ。多分、国家間の緊張も高まるだろうし、サミュにとってもいい影響はないと思う」

「またしばらく離れるのは嫌。あのメイドだけ一緒は不公平」


 こんなに聞き分けが悪い人じゃないんだけど、今日はやけに強引になっている。

 何か僕に言えないような事情でもあるのかな?


「うーん。じゃあ、僕の従者のフリをしてついてくればいいのかな? 館長として行ったら大変だけど、これならいいかな?」


 従者になれという不躾な提案をしてみた。上司に対する扱いじゃない。

 これなら、断ってくれるはずだ。


「流石、ベルク。これまでの活動にも合っている」

「異種族解放同盟の話はかなり挑発になると思うんだけど……まあ、大丈夫かな。本当にいいの? 従者なんてやったことないよね」

「大丈夫。知識はある」


 こうなるなんて思ってもみなかった。

 だけど、ここまで言われたら断れない。いろいろ計画が崩れるけど仕方がない。


「じゃあ、どうせなら、異種族解放同盟の獣人の人とドワーフの人を連れて行こう」

「分かった」


 こうなったら帝国に喧嘩を売ろう。

 二年前に異種族同盟を使ってゼドアムを転覆させようとしたことに対して少し威圧を与えてやる。


 表沙汰になっていないから、政治的には対立しないだろう。


 一緒に連れて行く人はひと悶着あったけど、獣人とドワーフからも一人ずつ決めることができた。



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