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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
一章 分岐点

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十四話 残り時間

 戦闘が終わった。


 時間魔法は魔力の消耗が激しく、更に空間魔法の併用で魔力も集中力も限界だ。

 さらに戦闘で受けたダメージがまだ残っている。


「大丈夫? ゆっくり寝るといい」

「ごめん。お婆ちゃん。もう動けそうにないや」

「お婆ちゃんが背負う。魔力の交換する。楽になる」


 お婆ちゃんが非力なのに僕を背負ってくれた。


「僕。お婆ちゃんの魔力好きだよ」


 お婆ちゃんの魔力は例えるなら自然溢れる綺麗な川だ。

 昨日までサラサのドブみたいな異質な魔力を浴び続けたせいか、より一層お婆ちゃんの魔力に落ち着きを感じる。


 落ち着く魔力で疲れていた体は眠りへといざなわれた。


 ――――――


「ギルケアスの暗部の人。強すぎですよもう。なんとか退却させましたが、こっちもボロボロですよ。ベルク様はきっと無事……」


 エヌートが主人の元に戻った時に見た光景に呆然ぼうぜんとした。


「あ。あの。サミュラス様。何をなさっているのですか?」


 そこにはベルクを背負い、足を震えさせる女性がいた。年齢を考えると老人が孫を背負って筋力不足で一歩も動けないような状況だった。


「魔力の補給も兼ねている。わたしが運ぶ」

「その必要はありませんよ。ベルク様の回復力はすごいので少し眠れば全快します」

「ダメ。わたしが運ぶ」


 エヌートは引き離すようにして主人を回収しようとしたが、老人が意外と抵抗するので諦めた。


「では、エヌが胴体を持つのでサミュラス様は足の方をお願いします」

「……妥協する」


 二人はベルクを抱えた。


「それで、どこに向かえばいいんですか?」


 辺りは戦闘の余波ですべてが壊れた山しかない。生存者がいる場所は分からない。


「大丈夫。すぐに来る」


 地面に穴が開き、中からエルフやドワーフ、獣人の亜人族たちがぞろぞろと出て来た。

 各種族20人ほどで、合計60人ほどの人数。


 エルフはすぐに信仰の対象でもあるハイエルフのサミュラスの存在に気付き、近寄って来た。


「我らが長に挨拶申し上げます」


 エルフたちが一斉にひざまずいた。


「責任者は前に出て」

「はい! 各種族代表よ前に出ろ」


 エルフ、ドワーフ、獣人の代表者三人が出て来た。


「今回の件であなたたちが知っていることを教えて」

「はい。我々はギルケアスからの援助を受けていましたが、その対価としてサミュラス様か王宮魔法師団団長のサラサ・シュトル。そして、《賢剛》ガルロー・ザルゴルの殺害を要求されていました。暗殺隊として最高戦力を送り込んでしばらくしてから裏切られました」


 ギルケアス帝国はゼドアム王国に領土を切り取られた歴史があるが、現在では表向きは友好関係を築いていた。

 しかし、数年前に帝王が変わった事により、国上層部内での戦争を行う機運が高まっていた。


 サミュラスはそのことを知っていたが、それ故に分からないことがあった。


「なぜ、あなたたちはギルケアスに着いた? 理念を考えるならゼドアムよりもギルケアスの方が解放すべき仲間は多いはず」

「それが……」

「分かった。答えなくていい」


 サミュラスは代表三人が後ろめたそうにした態度からすべてを察した。


(ギルケアスの工作員。図書館でも獣人の暗殺者がいた。『異種族解放同盟』自体がギルケアスに作られた可能性もある。可哀そう。解散が妥当。でも、ベルクが……)


 他国の政治に巻き込まれた同族と他の種族を見てサミュラスは同情をした。


「若い子たちでよく頑張った。新しい衣食住はわたしが提供する。あとの事はこの子がどうにかしてくれる」

「人間の幼児ですか?」

「うん」

「わ、分かりました。それでは我々は移動の準備をします。サミュラス様。少しエルフの種族的なお話がしたいので二人きりで話せませんか?」


 サミュラスは少し嫌そうに眉をひそめたが、可動域があまりに狭く誰もその表情の変化に気付けなかった。


「分かった。ベルクは任せる」

「ええ。勿論です」


 ベルクを預けた後、二人は少し離れた場所に行き、他は穴に荷物を取りに戻った。


 残ったベルクとエヌの元に鎧を着た中年のドワーフとその娘の五歳の幼女が話しかけて来た。


「その怪我は大丈夫なのか?」

「ええ。ベルク様は死にさえしなければどんな傷でも一度の睡眠で治りますので」

「そいつはすごいな」

「おとーさん。この子服がボロボロだよ」


 父親の男は自分の服を脱ぎ、ベルクに羽織らせた。


「この坊主は命の恩人だ。敬意を持って接するんだぞ」

「うん!」

「じゃあ、嬢ちゃん。俺たちも引っ越しの準備をしてくるぜ」


 エヌは一礼して、二人を見送った。


「良かったですね。ベルク様。いろいろありそうですが、純粋に感謝してくれる人もいるみたいですね」


 ――――――


 目が覚めると、帰りの馬車の中だった。外は夕方になってしまっている。

 エヌとおばあちゃんしか乗っていない。きっとみんな配慮してくれたんだろう。


 おばあちゃんは疲れ切っていて、僕に寄り掛かって眠っている。エヌは正面に大人しく座っている。


「エヌ。首尾は?」

「敵は撤退しました。異種族解放同盟は当初の計画通り、引っ越しをしています」

「よかった」


 どうやら、僕はキトラを退かせることに成功したらしい。

 あの時に使った時間魔法の副作用か、記憶がはっきりとしない。


「二人とも。ごめん。僕の予測が外れていた。相手を甘く見てた」


 キルケアスが何かしら仕掛けてくることは予測していたけど、あんな強い人が来るとは思ってもいなかった。おばあちゃんが削っていてくれたおかげで何とか倒せたけど、僕一人じゃ歯が立たなかった。


「僕は強くなるよ。みんなを守れるぐらいに」


 今回の件で僕は実感した。

 この世界は強さがないと相手に理不尽を押し付けられる。


 今すぐ世界最強の人たちを追い越そうなんて傲慢な気持ちはない。いくら才能があったとしてもそんな早さで強くはなれないし、何かしらの手段で強くなったとしてもそれは土台のないおぼつかない力だろう。


 だから、決めたんだ。守れる範囲を少しずつ増やしていく。

 両手が届く範囲から広げていくようにしてみんなを守れるようになるのが理想だ。


「従者の立場としては無理はなさらないで欲しいです。でも、エヌは応援していますよ。一緒に強くなりましょうね」

「エヌも疲れたでしょ。寝てて」

「いえ。大丈夫です。この程度の疲労は――」

「《スリープ》」


 僕は魔法でエヌを眠らせた。


「フェトラ」

「なんでしょうか?」


 フェトラが馬車の中で立っていた。


「時間魔法について少し教えて欲しいことがあるんだけどいいかな?」

「私に答えられる範囲ならば」

「あれを使うと君の寿命か何かを削るんじゃないのかな?」


 表情は変化していないけど、姿勢が少し乱れて疲れていそうだ。これまで大気中はビクともしなかったフェトラが馬車の揺れとは別に姿勢を揺らしている。


「肯定します。時間魔法を使うほど私の体は消滅に近づくようです」

「髪の色が指標って思ってもいいかな?」

「はい」


 フェトラは毛先が赤い白髪をしている。その髪の色の比率が1:1だったのが1:2ぐらいになっている。

 これまでの一日で数ミリほど白い部分が増えていたが、あまり気にしていなかった。


 髪が完全に真っ白になる時がフェトラとの別れの日になるんだろう。


「もし、時間魔法を使わなかったら何年一緒にいられるのかな?」

「ベルクさんが二十歳になるまでです」


 あと十七年ぐらい。いや、十六年ぐらいかな。


「そうなんだ。じゃあ、君の不安を取り除けるように頑張らないとね」

「それは、お子さんのお顔を拝見させてくれるということですか?」


 フェトラが頬を緩ませた。


「子どもがいるほど、一人前の男になれってことだよね。それで君が安心してくれるなら、僕は頑張るよ」

「冗談ですよ。ベルクさんの好きに生きて、楽しい人生を送って下されば私は満足です」


 フェトラの真意は分からないけど、友達との別れを後悔で終わらせたくはない。


 とにかく、家に帰ったら異種族解放同盟の人たちに仕事をあげてから修行をしよう。


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