十一話 魔法師団長
「ねえねえー! なんでボクちゃんは罪人みたいに目隠しの上、縛られちゃってるのぉー?」
僕たちは今、トンネルを通っている。
「なんで無視するのぉー! ボクちゃん縛られるなら首輪もして欲しいだけどぉー! ついでにベルクちゃんと気持ちいいことしたいんだけどぉー!」
うるさいのは一旦無視をして、トンネルの様子を眺める。
「襲撃する時はドワーフの能力でトンネルを作ったんだね」
「ああ。ドワーフの能力は魔力を使わない。だから魔法使いには感知できない」
「地上が少し沈下していたのはそのせいだったんだ」
王都の外から図書館までトンネルが通じていた。
トンネルの外には複数の馬が繋がれていた。
「ここから拠点まで数日は掛かるが、大丈夫か?」
「問題ないよ」
実は馬に乗るのは初めてで、ちょっと楽しみだったりする。
「ボクちゃん。目隠しした状態じゃ乗れないよー! でも、ベルクちゃんが支えてくれるなら乗れるかもー」
「エヌ。悪いけどサラサをお願いしてもいい」
エヌは露骨に嫌そうな顔をした。
うん。気持ちはすごく分かる。
「ベルク様も一緒に乗ってくれるのでしたらいいですよ」
「ちょっとそれは嫌かな――」
「これでよし! ほらエヌちゃん。馬の操作お願いねー」
サラサは拘束された腕で僕を抱きかかえてから馬に乗った。
僕が乗ってしまったこともあってエヌは諦めて前に座って手綱を握ってくれた。
「ベルクちゃんさ。移動中暇だから重力魔法教えてよ。代わりに他属性の極大魔法まで教えてあげるからさー」
サラサは僕が知る限り一番強い魔法使いだ。魔法のみに限ればハイエルフの婆ちゃんや英雄扱いされているお爺ちゃんよりも強い。
彼女から教えて貰うことは多い。
それに魔法について話していた方がサラサはまともになる。
「まだ感覚のレベルだけどいい?」
「うんうん。ボクちゃんも天才だから全然感覚でいけるよー。それにこれだけ密着していれば、三人でいっぱい楽しいことできるねー」
「エヌは遠慮しておきます」
「えー。まあいっかー! ベルクちゃんと二人気持ちいい世界に行ってくるねー!」
サラサはその膨大で異質な魔力を僕の体内に入れて来た。
普通の魔法使いなら死んでいても可笑しくないレベルの質と量。
体が密着しているせいで、前にやった時よりも衝撃が強い。
独りよがりで自分勝手なやり方。でも、僕も魔法を研究する身としてこういった魔力の与え方には慣れがある。
最初は一方的な魔力の授受を自分の魔力でゆっくり押し返す。
「もうちょっとゆっくりやってよ」
「ごめんねー。でも、この前より魔力の操作がすごい上手になったねー」
さっきまでは魔力の接続を行うためのやり取りだった。
魔法使いが魔法を教える時は基本的にこうやって魔力を接続させることから始まる。
互いの魔力を循環させることで相手と一体化し、魔法の使い方を教えてもらう。
理論を理解することでも魔法を使うことは出来るけど、効率は非常に悪い。上級魔法を超える魔法は基本的にこうやって使える人から教えて貰うことが基本になる。
だから、魔法は貴族とかの金とコネに優れた人間にしか使えない。
僕みたいに才能があっても結局はこうやって格上の魔法使いに教えて貰った方が圧倒的に楽に魔法を習得することができる。
「あー。このまま一生過ごしたいー」
サラサは体の力が抜けて、僕に寄り掛かって来た。
乗馬している状態でこれをされても困るけど、サラサは軽いからそんなに負担にはならない。
それはそうとして、僕はちょっと心臓辺りがムズムズし始めて来た。
魔力には相性がある。
というか、そもそも魔力とは何なのか。
世間一般的には魔法を使う力。それを魔力というなんて人がいる。魔法使いの中でも一部の人はそう言ってしまうけど、それは少し違う。
魔法を使う為の力だけじゃなくて、体を維持するのに必要な空気の役割もある。そして、体に吸収された魔力はその人の匂いみたいなものが付けられて、その匂いがあるうちは魔力を支配することができる。
この匂いは人によって個別差がある。
サラサの匂いは生き物という枠を超えた異質そのもの。
こうやって魔力の渡し合いをするときは相手によって感じるものが違う。
サラサは異質な魔力を暴力的に叩きつけて来る。
イメージとしては、変な触手の生えた化け物に全身を締め付けられるような感覚だ。
生命の危機すら感じる魔力の暴力を受け入れる。
僕は自ら体を差し出し、触手に体を溶かす。
こうすることで、サラサと繋がることができる。
「エヌちゃんはこの気持ちいい魔力と毎晩繋がっているんだよねぇ。うらやましいなぁー」
サラサの魔力と繋がれるのは世界でも僕か会ったことはないけどサラサの双子の姉しかいない。
お婆ちゃんですら、サラサの魔力を拒絶した。
「あ、あの。その子、大丈夫ですか?」
エルフの人が近づいてそう聞いて来た。
こんな魔力を受け入れていたら魔法使いであっても死んでしまう。サラサの異常な魔力を浴びただけでも息が出来なくなるほど怯えていたエルフの人は僕の事を心配してくれているみたいだ。
「……じゃまだなぁ」
拘束されているにも関わらずサラサが殺す気で魔法を使おうとしている。
今は相手の魔力でどの程度の魔法を使おうとしているかが分かる。
複雑かつ莫大な量の魔力の放出。一瞬でそれが極大魔法であることが分かった。
魔法は複雑さと威力に応じて等級が分かれている。
基本的に初級、下級、中級、上級の種類に分けられ、ほとんどすべての魔法がこの枠内に収まるように定義されている。
一つの属性でも中級魔法が使えれば、魔法使いとして好待遇で仕事ができるレベルで、さらに一個でも上級魔法が使えれば王宮魔法師団に入ることも夢ではなくなる。
でも、歴史に名を遺す人たちはたまにそれらの枠を超えた魔法を創り出す。
それが上級魔法の枠を超えた極大魔法だ。
極大魔法が使えるのは世界で10人もいない。
魔法の権威として有名なエルフのサミュラスお婆ちゃんでも二つの属性の極大魔法しか使えない。
それに対して、サラサは基本属性と派生属性の極大魔法をすべて行使することができる唯一の魔法使い。
本人の凶暴さと異質さ。そして、世界の枠を超えた強さから名付けられたサラサの二つ名は《最凶の天災》。種族関係なしに戦闘魔法使いの頂点に立つ人間。
そんなすごい人なのにちょっと話しかけられただけで人を殺そうとする所が難点だ。
「風極大魔法《死神の大鎌》」
魔法を発動させる寸前でサラサの魔力を強引に奪い僕の物にする。
そうすることで僕を通り道に魔法が発動し、その制御は僕が握ることができる。
上空に向かって放たれた極大魔法は黒い風の刃となり上空の雲を両断した。
「はあはあ。うっ」
他人の魔力を一度に受け入れたせいか、気分が悪い。
「ベルク様! 大丈夫ですか?」
「大丈夫。馬は止めないで。少ししたら落ち着く」
視界が大きく揺れているみたいで気持ちが悪い。
自分の許容量を超えて魔力を出すと魔力酔いという現象を起こす。例えるならたくさん走った後の気分に近い。
「ごめん。魔力酔いさせちゃったね」
「僕じゃなくて、あの人に謝って」
サラサ強くてすごい人だけど、ちょっと傲慢で倫理観とか大事なものが欠けている。
「ご、ごめんね。びっくりさせちゃったね」
「い、いえ。こちらは気にしていないので大丈夫ですよ」
嫌々言わされているみたいに謝った。
その日以降、エルフの人たちはサラサに近寄ろうとすらしなかった。
僕たちは上級貴族と魔法師団の護衛ということで途中途中にある町に宿泊しながら、目的地に向かった。
異種族解放同盟の本拠地近くに来た時に山から大量の黒煙が上がった。
「何かの合図かな?」
「それはない。我々は山の中に拠点を構えている。あんな大規模なのは火事ぐらいしか――」
「お姉ちゃんの魔力だ!」
サラサが拘束をすべて壊してから、一瞬にしてこの場から消えた。
「まさか、そんなことが」
全員が嫌な予想をし、急いで馬を走らせた。




