十話 処理
エルフ四人。ドワーフ一人。獣人一人。合計六人の襲撃は鎮圧した。
全員を縛って、抵抗が出来ない状況にしておいた。
「ベルクはどうしたい?」
「このおじさんは見逃すことは約束したから、逃がすよ」
「分かった。他は?」
「そこの獣人の子以外は逃がしてもいいかな。国に渡すぐらいなら殺すしかないし、逃がしてあげてもいいよ」
この人たちは国家転覆を狙っているから、捕まえた方がいい。でも、そんな気持ちになれなかった。
「今までこの世界のいい所しか見てこなかったから、この人たちの主張は分からないけど、きっとここで殺したらいけない気がするんだ。お婆ちゃんを傷つけたのはダメだけど、この人たちはそうしないといけない事情があったんだよね」
「ベルクがそう言うならわたしも許す」
「でも、なんでこんな時にお婆ちゃんを狙ったのかな?」
この人たちの主張としては「亜人種にも権利を与えて欲しい」という事だったはず。
お婆ちゃんもエルフで亜人種だ。傷つける必要なんてどこにもないと思うのに。
それにこの時期に襲撃してきたのも意味が分からない。
国の警備が手薄になっている時期でもないし、王立魔法師団の団長だって王宮にいる。狙うなら少なくともあの人がいない時を狙えばいいのに。
「お婆ちゃん。ハイエルフになった。エルフにとってハイエルフはここ1000年は出ていない神話の存在。だから、人族の近くにいるわたしが邪魔だったから襲ってきた」
「扱いにくいから殺しに来たってこと?」
「うん。実は前々から勧誘はされていた。でも、孫と離れたくないから断った」
「本当の所は?」
「理想だけは大きくて叶えるのは大変そうだった。武力行使はリスクとリターンが合わない」
この人たちは理想は立派だけど、手段が武力行使。つまり暴力による革命をしようとしていたんだ。これは流石に賛同はできない。
でも、あのドワーフのおじさんは元々暴力に訴える組織じゃないって言っていた。
この時期に攻め込んできたのに理由があるのかな。
「じゃあ、仮説なんだけど、他の団体もしくは他国と協調して動いた?」
「正解。答えはこの子が知っている」
お婆ちゃんは黒髪の獣人の女の子を指差した。
暗殺者の子でエヌに倒された子だ。
「エヌ。戦ってみて何か分かった?」
「はい。この子の戦い方はギルゲアスの暗部に似てました」
「ギルゲアス帝国。ゼドアムに次いで国力が高い所だね。いろいろ見えてきたよ」
ギルゲアスは数年前に熾烈な皇位争いの末、帝王が決まったって聞いた。
どんな人かは噂程度でしか知らないけど、かなりの野心家で国土拡張を狙っているなんて聞いたことがある。
「じゃあ、この子は捕まえないといけないね。あと、異種族解放同盟は僕が支配したい。お婆ちゃん。表向きのリーダーをお願いしてもいいかな?」
このままだと、異種族解放同盟という団体は他国に利用されるだけ利用されて潰される。
せっかく、すごい理想とすごい人たちを抱えているのにそんな終わらせ方をさせたくない。
「分かった。麻痺で動けないだけだから聞こえてたはず。わたしが導く」
お婆ちゃんは迷うことなく僕の言うことを聞いてくれた。
「認めん。人族の子供が支配するぐらいなら、我々は貴様を殺す」
「残念だけど、それはオススメしないよ。お姉さんが何を言った所で大勢は強いリーダーについていくんだ。それがお姉さんたちが一番恐れていたことじゃないのかな?」
お婆ちゃんを殺そうとしたのは、万が一敵対した場合に一部の人が降伏して集団の士気が下がることを危惧したんだと思う。
「掲げる理想は同じでも、行動が同じとは限らないよね。暴力なんて過激なやり方についていく人は大体周りの同調圧力に飲まれただけだから、戻れる機会があったら戻ろうとするんじゃないかな。僕たちはそれを提供する」
ハイエルフが集団を引っ張ると言えば、暴力に傾いていた思想を変えることができる。
「安心して。理想は変えない。やり方が変わるだけだよ」
「戯言だ。結局は人族に支配されることに変わりないじゃないか!」
「そうだね。でも、僕は100年後には死んでいるけど、君たちの理想は死なない」
人族の寿命は長くても100年ほど。エルフなんかは1000年生きたと言う記録がある種族だ。僕が寿命で死んでも今日襲撃してきたお姉さんたちは生きているだろう。
「わたしもベルクが死んだら、後世にベルクの凄さを伝える本をいっぱい作ってから死ぬから最終的にはあなた達がリーダー」
「死ぬ? ハイエルフは寿命がないはず」
「だから、自殺する。もしかして、首吊りの森を知らない?」
「首吊りの森? なんだそれは?」
「ごめん。今の若い世代は知らない。よかった。悪習がなくなった」
寿命の長いエルフは人生に飽きたら自殺していたとお婆ちゃんから聞いたことがある。
あと、その時に冗談っぽく僕が死んだら死ぬなんて言っていたことを他の人にも言っちゃった。
「安心して、理想が叶うかは分からないけど、僕は君たちを守る。その証拠にここでのことはなかったことにしてあげる」
リーダーらしきエルフのお姉さんはまだ抵抗するような目つきだったけど、他の人たちは見逃して貰えて、更にハイエルフのサミュラスが仲間になってくれると知って目に鋭さがなくなっていた。
あと一押しかな。
そう思った矢先、異質な魔力を感じた。
それと同時に壁を突き破って、魔導師の服を来た女の子が入って来た。
「じゃじゃーん。異常な魔力を感じて魔法使い最強のボクちゃんがやってきたぞー!」
この人は王立魔法師団の団長。サラサ・シュトル。
15歳にして世界最強と呼ばれるゼドアムの王立魔法師団の団長。すごい人ではあるんだけど、ちょっと言動がアレな人。
腰まである長いブロンドカラーの髪と元気そうな感じで美人なんだけど、言動がちょっと変なんだ。
「やっぱり、愛しのベルクちゃんの魔力も一緒にあったんだね。あれ、なんかカッコよくなった? なったよね。早く子供作りたいねー」
僕はエヌの後ろに隠れた。
「サラサ様。主が怖がっているのでやめて下さい」
「えー。エヌちゃんも一緒に子ども作ればいいじゃん。ベルクちゃんは男の子だからみんなと子供つくれるよねー」
「今。大事な所。黙って」
「あれれー。見た目だけはいいおばさんがなんの用ですかー? ベルクちゃんはお婆ちゃんに欲情するわけないのに変な夢ばっかりみちゃって。老人は可哀そうですねぇー!」
僕がこの人を止めないといけない。
「サラサ。少し黙ってくれるかな?」
「ご、ごめんねーベルクちゃん。ボクちゃん思ったことなんでも言っちゃうから迷惑だったよね。ベルクちゃんにハグしたら黙れるかもしれないから。ねっ。ちょっとだけちょっとだけでいいから」
「分かったから、少し大人しくしててね」
「うん。ぐへへ」
身長差があるから、膝を地面につけて僕を撫でまわして来た。
ちょっと気持ち悪いけど、これで黙ってくれるならマシな方だ。
「さて、話を戻すけど、僕が異種族解放同盟を支配する。これで異議はあるかな?」
「あっ。あ」
エルフのお姉さんたちが麻痺しているはずの体を震わせた。ああ、この人たちはサラサの魔力にやられてしまったんだろう。
「魔力を抑えて。サラサ」
「んにゃ。いいよぉ」
エルフのお姉さんたちはしばらく息が吸えてなかったのか呼吸を荒くした。
魔法使いはサラサの出す圧倒的でかつ異質な魔力を感じ取ってしまう。
初めて出会った時は僕も緊張するほどの魔力をしていた。この人たちには息すら吸えない状況になってしまったのだろう。
「可笑しい。なぜ生きている? 魔法師団の団長はエルフの里で最強だと呼ばれた長老と獣人の暗殺者数人が殺しに行ったはず」
「無駄だよ。サラサは特別な魔法使いだから。この感じだと、今頃死体も残っていないと思うよ」
「何!? 我らの切り札を殺したというのか!?」
気の毒だけど、サラサは倫理観が欠如している。
邪魔だと思った相手は食事をするよりも気軽に殺す。
殺しに来た相手は魔法で遊ばれて殺されたと思う。
「こ、降参する。人族にこんな化け物がいる限り我々に勝ち目はない」
なんか、サラサに全部もっていかれた感じがして少し気に食わない。
でも、諦めてくれたのなら好都合だ。
「じゃあ、君たちのこと教えてくれないかな? 構成人数とか」
「分かった」
異種族解放同盟についていろいろ聞いた。
構成人数、種族数。過去の活動。ある程度の事が分かった。
「ありがとう。一週間だけ時間を頂戴。一応、三人ぐらい案内してくれる人を残して欲しいな」
「分かった」




