九話 ハイエルフ
戦場が分かれ、サミュラスのいる場所は魔法使いのみとなった。
「なぜだ! あなたはエルフでありながら、この世界の惨状に目を向けない!?」
「亜人種たちが迫害されていることは知っている」
「それを知っておきながら、傍観するとは。今の貴様は人族に飼いならされた犬だ!」
感情に任せた炎魔法は威力こそ高かったが繊細さが欠けていた。
「? 犬で悪いことがあるの?」
「エルフとしての誇りがないのか!」
「エルフに誇りなんてあったの?」
「貴様!」
攻撃をしようとしたエルフの女だったが、魔法が出ることはなかった。
「遊びはおしまい。ハイエルフとして相手する」
ハイエルフとなったサミュラスの周囲に魔力が集まりだした。
周囲の魔力が消え、エルフたちの魔力もほとんど奪われた。
「な、なにをした!」
「ハイエルフは周囲の魔力を奪い取る。氷魔法《氷花》。雷魔法《弱電流》。毒魔法《睡眠毒》」
喋っていた女だけ凍らされ、残りの三人は電気で気絶させられた上で眠らせる魔法で倒された。
「ば、化け物だ」
「どうする? 死ぬ? 捕まる?」
「やめろ。私たちは同族じゃないか」
「……同族は嫌い。でも、君たちの団体の理念は素晴らしいものだと思う。全種族が平等な世界。頑張って欲しいとも思う」
「だったら、なぜ、こちら側に着いてくれない?」
「わたしはわたしの周りを守るので精一杯。だから、何度も言っている。邪魔はしない」
「無責任だ!!」
同族でありながら、人間のことばかりを考える相手に怒鳴った。
「ハイエルフに進化したあなたさえいれば、我々の勝利は確実になる。それに、どっちつかずであってもあなたがいない我々の士気が下がる! ただ長生きなだけのエルフならば、どうにでもできた。だが、ハイエルフはエルフにとって信仰の対象だ! ここで仲間にしなければエルフは動けなくなる。だから、頼む。仲間になってくれ!」
「焦りすぎ。誰に唆された?」
異種族解放同盟についてはサミュラスは何度も勧誘を受けてきた。だが、その度に干渉をしない事だけを約束するだけで、互いに動きはなかった。
なのに、今日は対策を練った上で攻めて来た。
この戦力をぶつける相手と時期を見誤っている。サミュラスはそこが疑問だった。
「ゼドアムという国はあなたと英雄ガルローの二枚の看板で外敵から身を守っている。《叡智の司書長》。いや《戦場の悪魔》サミュラス・リッター。あなたのお陰で世界的に見てエルフの地位は高いものとなった。だが、あなたが死ねば世界が混乱する。我々はそれに乗じる」
「君たちは醜い政治の被害者。どこの国かは大体分かるけど、今は許してあげる。《麻痺毒》」
魔法で残っていた女の体を拘束し、他の魔法を解いた。
「今はわたしとガルローの二枚看板。でも、これからはあの子が世界の中心になる。あの子が信念を持って君たちに味方するのなら、わたしも協力する」
――――――
一方、暗殺者の二人は終始、一方的な戦闘が行われていた。
「あー。これだから、暗殺者って嫌いなんですよ」
「がぁ」
「もう、手足を動かすのも辛いでしょうに。殺意だけは一人前ですね。あなた。国で訓練を受けた暗殺者ですね」
黒い影を纏った獣人の女はエヌによって地面に倒された。
「なぜ見える?」
「闇魔法ですか? こんなのベルク様とのお遊びに比べたら隠れてないも同然ですよ」
再び獣人が背景と同化し隠れた。
「獣人のパワー。毒の短剣。闇魔法。全部無駄ですよ。あなたはエヌには勝てません」
「死ね」
「だから、何度言ったら分かるんですか?」
「がぁ」
短剣を避けられて今度は腹部を蹴られた。
エヌは追撃をしなかった。
「なんで殺されないか分からないですか? これは教育なんですよ。あなたは黒狼族ですよね。犬って序列に逆らわないってエヌは学びましたよ」
「犬じゃない。死ね」
「異種族解放同盟なんて初めて知りましたけど、そんなエヌにも今回の襲撃について一つ。分かっちゃったんですよ」
「ぐっ」
「それは、あなたが他国から派遣された工作員ってことです。先輩のアドバイスですけど、今から自害するか逃げた方が楽ですよ。まあ、あなただけは逃がしはしませんが」
「がぁ」
それは一方的な暴力だった。
ボロボロになった獣人の体は打撲跡が一つまた一つと増えていく。
「覚悟は決まりましたか? まあ、そう簡単には決まらないですよね」
エヌは獣人を地面に倒した後、両肩を外した。
獣人は目を血走らせながらも痛みに耐え、エヌを睨みつけた。
「まだ抵抗するんですか。その執念深さは認めます」
「死ね!」
腕が動かない代わりに噛みつきで殺そうとした。
しかし、そんな単調な動きがエヌに通じるはずもなく、首を掴まれて地面に叩きつけられた。
両腕が動かない状態で馬乗りされ、足を動かすことでしか抵抗ができなかった。
「かわいらしい牙ですね。あっ。これが毒ですか?」
倒れた獣人の口を開かせて、奥歯あった毒を取り除いた。
「それにしても獣人は頑丈ですね。打撃だけでは倒せませんでした。でも、もういっぱい動いたのでおねんねの時間ですよ」
獣人の少女の首を絞め意識を落した。




