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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
一章 分岐点

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八話 一方的な戦闘

 全く、お婆ちゃんは変なことをする。


「毒ナイフで切られて痛い。孫が手当してくれないと治らない」

「はいはい。毒魔法。《毒解析》。なるほど《毒中和》」

「あの一瞬で毒を消した? 治癒が難しい複合毒なのに!」


 さっき、手首を外した暗殺者の子が驚いている。


「このぐらいの毒。影の人たちなら簡単に作れるよ」

「何。この幼児。怖い」

「エヌ。この子は任せた。闇魔法を使うっぽいけど、それ以外はエヌより格下だから」

「分かりました」


 暗殺者には暗殺者を当てることにした。


「さて、僕はこの人たちの相手をしようかな。お婆ちゃんは後衛をする元気はある?」

「ある」

「よかった。じゃあ、僕が前線。援護よろしくね」


 まずは盾のおじさんをどうにかしよう。


「小僧。近接戦に自信があるみたいだな。だが、間が見えなければ相手にすらならないぞ」

「ごめんね。そこは僕の『間』合いだよ」

「何っ!?」


 意識の隙間を縫って、おじさんの背後に立った。

 全身鎧だと動きにくいし死角も多い。いくら熟練の戦士で『間』が分かるからって、僕の相手にはならない。


 膝の関節を蹴り、体勢を崩させてから、足を掴んで敵の方に向かって投げた。


「さてと、お姉さんたちはどうするの? このままだと負けるよ」

「何を根拠に言っている!? 魔力量で言えば、私たちの方が上だ。一人戦士が来た所でこの状況は変わらないぞ」

「あー。情報を伝え忘れてたね。僕は魔法使いでもあるんだ。中級水魔法《水刃ウォーターカッター》」


 圧縮した水を射出した。

 勿論、エルフのお姉さんたちは僕の攻撃を余力を持って防御した。


「これで分かってくれたかな?」

「この程度の魔法で――」

「やめろ。これは不味いぞ」


 鎧のおじさんは理解してくれたみたいだ。


「あの小僧は自力で魔法防御ができる。それであのスピード。ミスリルを着ないと余波で死ぬ俺と違って小僧は常に魔法使いじゃ対応できない速度で動き、流れ弾も対処できる。おまけにあの小僧。重いミスリルを着た俺を余裕で投げる怪力持ちで『間』を支配するほどの戦士だ」

「それがどうした! 同胞たちの為に私たちに逃げる選択はない!」

「やめろ。これじゃ死に戦だ」


 この状況を理解しているのはあのおじさんだけみたいだ。


「僕はおじさんと戦ってもいいよ。そっちの方がまだ希望があるんじゃないかな?」

「そんな戯言ざれごとに騙されるか! 私たちが優勢だったんだ。このまま攻めれば」

「乗った。俺たちは別の場所で戦う。それでいいな」

「うん。じゃあ、少し遠くに行こうか」


 おじさんはフルフェイスのかぶとを脱いだ。

 その顔は特徴的で立派な髭を生やして、体は隆起した筋肉に似合わない低身長。


「ドワーフだったんだ」


 大きな盾が分解され、剣と円形の小さい盾になった。


「分かれる武器なんて面白いね」

「行くぞ」


 お互いの間が競り合う。


 空間が歪んでいるのを感じる。

 こんなの近衛騎士団の人と遊んだ時以来の感覚だ。


 このおじさん。さっきより数段強い。


 戦士の戦いは間を制した方が勝つと言っても過言じゃない。


 『』は自分の領域を表す。『間』が相手を飲み込んだ瞬間、相手のすべてを支配できる。

 相手の『間』をこちらの『間』で押し返す。


 何とか互角で押し合えているけど、かなり劣勢だと思う。


「このやり取りで小僧がただの小僧ではねぇことは分かる。だが、年齢は五歳にも満たないな。ドワーフと対峙したという未知に対する経験不足が出ているぞ」


 おじさんは僕の足元を隆起させた。

 土魔法? いや、これは少し違う。


「終わりだ!」


 刃が近づく。


 景色がゆっくりになる。埃の一つ一つが良く見える。

 感情が高ぶっているのを感じる。


 これ。これを待っていた。


「空間魔法。《断空だんくう》」

「なに!?」


 命懸けの間の押し合い。僕の中の何かが感覚を掴んだ。

 実を言うと、この戦いの前は空間魔法と重力魔法はまだ実践に投入できるレベルじゃなかった。せいぜい、ちょっと物を傷つけたり、重たくさせたりするぐらいしかできなかった。


 今なら戦えるレベルで使える。


「当たると思ったんだけど」


 おじさんが咄嗟とっさに回避したからミスリルの鎧に大きい切り傷をつけることしかできなかった。


「それはあの紫髪のエルフが使おうとしていた特殊魔法なのか?」

「あぁ。お婆ちゃん。間の支配もできないのに無理しちゃって。だから、不意を突かれたんだよ」

「まさか、お前があのエルフの孫なのか!?」

「うん! さあ、楽しもうよ!」


 僕はこの半年で自分の事を少し理解した。僕は成長が好きなんだ。


 こうやって、成長しないと死ぬような環境で戦うことが好きなんだ。

 お爺ちゃんと戦って以降はこうやって、僕を殺しにくるような相手との戦闘はなかった。


「《ひれ伏せ》」

「重くする魔法か。だが、まだ未熟だな」


 重力魔法で攻撃をしたけど、剣で魔法の()を切られた。

 魔法に対する対抗策は立てているって訳だね。


「また間の押し合い?」


 ドワーフのおじさんは僕の事を知らないらしい。


「くっ! なんだこの成長力は」


 さっきまで押され気味だった間の支配を今度は僕が上回った。


 また、おじさんは地面に何かをしようとしたけど、強引に土魔法で上書きをすることで阻止をした。


「ドワーフの能力を封じるか」


 相手の気が動転をした一瞬で、相手の間を支配した。


 僕が高速で近づくとおじさんは抵抗するように剣を振るった。

 間を支配した相手の行動は手に取るように分かる。


『僕が剣を躱した所に盾で押し出し距離を取る』


 行動が分かった後は剣を持つ手を掴んだ。身長の差の都合上、相手は下に叩きつけるよう剣を振り下げていた。これは投げるのに丁度いい角度だ。


 自分より何倍も重たい男を地面に叩きつけた。


「僕の勝ち。だね」


 倒れた時に別の小型のナイフを突きつけて来た。

 当然、間を支配している僕がその行動を許すはずがない。


 ナイフを持つ手を掴み、もう片方の手を首に向けた。

 この距離なら発動の早い初級魔法でも殺せる。


「……俺の負けだ」


 よし、あとはこの人を縛れば――


「油断したな」


 男の持っていたナイフの刃が分離して、僕の首元に刺さった。


「これは、お前と同じぐらいの歳の俺の娘が作った()()刃だ。人は勝ったと思った瞬間が一番油断する。ほんとは殺したくはなかったんだが、殺さなきゃ殺される。悪く思うなよ」


 何がなんだか分からなかった。


 首が熱い。

 血が止まらない。


 体が動かない。


 ああ。これが死ぬって感覚。


 ……いや、なんか違う気がする。


 死ぬって感覚じゃない。まだ、なんか平気な気がする。


「嘘だろ。あれは致命傷だったぞ!」

「あー。魔力ごっそり持っていかれたし、ちょっと耳が聞こえにくいかも。でも、今はそれでもいいや」


 僕を殺しかけた刃を見る。


「すごい綺麗な刃だね。きっと娘さんはすごい人なんだろうね」

「ば、化け物」

「あっ。それは分かった。化け物って言ったんでしょ?」


 今はその呼び方も悪くない。


「空間魔法。《不等価交換トレード》」


 刃とおじさんの剣を空間ごと交換した。

 離れた場所の転移。何度やっても実現するかも分からなかった空間魔法の極致。


「重力魔法。《乱調場らんちょうば》」


 重力魔法は上下の変化しかできなかったけど、今は全方位を変化させることができる。

 対応できない重力で重心をずらし、体を地面に叩きつけた。


「なんだか、魔法に対する理解が深まった気がするよ。ありがとう」

「た、頼む。殺さないでくれ! 俺には帰りを待つ娘がいるんだ!」

「何言っているかはよく分からないけど、僕はおじさんを殺したりはしないよ。むしろ、見逃してあげてもいいとすら思っている」


 今、僕の中で魔法の極致が見えた。

 最高に気分がいい。


「僕はベルク・ザルゴル。お爺ちゃんはガルロー・ザルゴル。これで僕の身分は分かるかな?」

「こ、公爵家」


 お爺ちゃんの知名度は世界でも相当なレベルで一般人ですら知っている。仮にザルゴルの名を知らなくても僕がかなりの地位にいることは分かってくれただろう。


「この被害規模なら事件をなかったことにもできるし、犯人の一人や二人を見逃すこともできる。そのぐらいの我儘を通す力は今の僕でもある。おじさんには感謝しているんだ。だから、おじさんが望む通りにしてあげるよ」

「本当に約束を守ってくれるのか?」

「フェトラ」

「はい」


 おじさんの言っていることは何となくしか分からないほど体が弱っている。でも、なぜかフェトラの声だけはなぜかしっかりと聞こえる。


「これは内緒なんだけど、僕は契約を結ぶ悪魔と友達なんだ。彼女が契約を作ってくれる。そうだね。僕が負うペナルティは悪魔の契約者であることを口外することを許すとかはどうかな? まあ、とりあえず、おじさんの願いを教えてよ」


 悪魔と聞いて少し反応していたけど、そのことを質問する権利が自分にないことを悟ったおじさんは大人しく願いを言い始めた。


「娘を預かってくれ。今の異種族解放同盟は過激に走り過ぎた。このままじゃ、国に対して無謀な戦争をしてしまう。娘さえ幸せになってくれれば、俺はどうなってもいい。英雄ガルローの孫なら安心して預けられる。頼む。俺はどうなってもいい。娘だけは娘だけは好きに生きられるようにしてくれ」

「娘さんの名前は?」

「その子の名前は?」


 フェトラの質問を伝えた。


「ツクリ・モノだ。俺の見立てが正しければ、エルダードワーフになる可能性が高い。どうだ? 物作りという点ではあんたレベルで化け物だ」


 フェトラが名前を質問をする必要が分からなかったけど、フェトラは何か納得した表情で契約書を作って取り出した。


『【養育権の譲渡契約書】


【譲渡物の詳細】

契約者の娘であるツクリ・モノの身柄と養育権


【契約内容】

1.契約者はベルク・ザルゴルに養育権を譲渡するものとし、契約者はその受取を承諾する。

2.15年間大切に扱うことを約束する。

3.ツクリ・モノが15年以内に故意の行為によって死亡した場合、罰として契約者が悪魔と契約している事実の口外が許可される


【口外の禁止】

契約者は、本契約に基づく変換に関する情報を第三者に口外することを固く禁じられる。この口外の禁止は契約期間中および契約終了後も継続するものとし、違反した場合は契約者は即座に死亡する


【契約の有効期間】

この契約は契約締結日から15年間有効である


【契約解除】

双方の合意により契約を解除することができる


【合意事項】

本契約に同意した契約者が署名することで、本契約は有効となる


契約者の署名                         』


 フェトラにしては長い文章を出してきた。


「長いけど、要は成人である15歳までは育ててあげるという感じかな。大事にとかはちょっと曖昧だけど、分かりやすくていいでしょ?」


 おじさんはどこから現れたか分からない契約書を見て、僕が悪魔と契約していることを信じてくれたみたいだ。


「分かった。従おう」


 おじさんは名前を書こうとしたけど、紙には何も書けなかった。


「あー。ごめん。これ、本人が納得していないと書けないんだった。じゃあ、とりあえず、この場は見逃す代わりに悪魔について口外しない契約書を作ろう」

「作りました」


 命乞いまでして気にしていた娘の事をあっさり渡せるはずはないよね。

 おじさんに別の契約書を渡した。


『この場を見逃す代わりに悪魔と契約していることを口外しない。罰は死亡』


 今度はしっかり署名を書いて契約書を成立させてくれた。


 さて、他の場所はどうなっているかな。


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