2話 社会性を身につけよう!
2話です。
帰りたい。
今すぐ帰ってひなのちゃんと一緒に劇場版ミラクルマジカルガールズ見たい。
可愛い女の子見ながら可愛いひなのちゃんとキャッキャしたい。
ひなのちゃん今何してるかな、、、。
あぁ、帰りたい。
月愛はそう思った。
隣に座って話しかけてくる男の面白くもない話に、笑顔で頷いたりテキトーに相槌を打ちながら月愛は強くそう思った。
はぁ、ひなのちゃん夜ご飯何食べたかなあ。もうお風呂入ったのかなあ。何も悪いこと起きてないと良いんだけど。1回電話しに行こうかしら、あ、もしかしたらゲリラ配信やってるかも。あぁ、確認もできない、、、。早く帰りたい、、、ひなのちゃんに会いたい、、、そもそもなんで私がこんなくだらない集まりに来なきゃいけないの、もうイライラしてきた、てか話が長ーーー
「月愛ちゃ〜ん?話聞いてる〜?」
やべ。
「ん〜ごめんねぇ、るな酔っちゃったかもぉ」
「えぇ〜月愛ちゃんお酒弱いんだ〜可愛い〜」
嘘に決まってんだろ早く帰りたいんだよこっちは。
話を聞いてないことがバレそうになって月愛が適当に酔ったフリをすると、その場にいた奴らが、全く脳ミソ経由してなさそうな口調と顔で「可愛い〜!」と口々に言った。
なんでるながひなのちゃんとの時間犠牲にして、こんな脳ミソ下半身についてそうな男ばっかの集まりに行かなきゃいけないわけぇ?本当に帰りたい、、、。
話は3時間前に遡るーーー
「本日の撮影以上となります!お疲れ様でしたー!」
とあるファッション雑誌の専属モデルをしている月愛は今日、朝から秋服の撮影ということで都内のスタジオにいた。
撮影が終了し、解散となったのは17時頃だった。
よし!今日はたくさんひなのちゃんといれる!早く帰らなきゃ!
月愛がそう考えてマネージャーの元に向かっている時だった。
「月愛ちゃん!今日ちょっと早めに撮影終わって皆この後大丈夫みたいだから打ち上げ行くことになったんだけど行くよね?」
はぁ????
声を掛けられて振り向くと雑誌の編集者が笑顔で立っていた。
「ごめんなさいちょっと今日疲れちゃってて、、、」
月愛が断ろうとすると編集者は困った顔をした。
「あんまり、こういうこと言いたくないんだけどねぇ、、、月愛ちゃん、もっと周りと関わった方が良いと思うよ??それに、今日編集長も来るからさぁ。出来れば来て欲しいんだけど、、、」
つまり選択肢は無いという事なのだろう。
(嫌だ〜〜〜!!!るなはおうち帰るの〜〜〜!!!ひなのちゃんと一緒にアニメ見るの〜〜〜!!!か〜え〜る〜〜〜!!!おうち帰るの〜〜〜!!!)
月愛の脳内ではスーパーで床に寝そべって反抗するイヤイヤ期の子供の如く、この場でひっくり返って暴れる月愛の姿が浮かんだ。なんなら、一瞬実行しかけたが、月愛が今着ている服は私物でなく、撮影用に借りているものであるためしょうがなく暴れたい気持ちを抑えたのだった。
少し離れたところで立っているマネージャーである叔母に一縷の望みを賭けて視線を送ったが、呆れた顔をして「社会性」と口パクで言ってきただけであった。どうやらこの場に月愛の味方はいないようだった。
「、、、分かりました。行きま〜す!」
月愛がそう口にすると編集者はほっとした顔をした。
「ごめんね!ありがとう!」
そう言って逃げるように月愛から離れたのであった。
その10分後には店も決まり予約も完了し、月愛は逃げられないことが本決まりしたのだった。
(ひなのちゃんとの大事な時間が、、、。)
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時は戻って現在20時。
飲み会が始まって1時間が経っていた。
今日は雑誌のメンズモデルもいたため、半ば場の雰囲気は女性モデルとメンズモデルの合コンの様な雰囲気になりつつあった。
隣に座ってずっと話しかけていたこの男も雑誌のメンズモデルの1人である。
(帰りたい、、、帰ってひなのちゃんに会いたい、、、なんで可愛くもない男なんかと話さなきゃいけないんだろうか、、、せめて女の子と話したい、、、可愛いが足りない、、、)
酔ったフリをしてからはずっと話しかけられるということは無くなったが、それでもこの場から帰れるわけでは無かった。
月愛はビール良いなあ私も飲みたいなあとビールを豪快に飲む人達を羨ましげに見たり、妃奈乃に着せたい衣装を考えながらぼーっと過ごしていた。
(どうにかして帰る方法はないか、、、どうにか、、、)
結局月愛の渾身の演技、というよりただぼーっとしてたらめっちゃ酔ってると勝手に勘違いされたことにより、3時間予約していた所を月愛は2時間で帰ることができたのだった。しかし次の日
「社会性を!!!!身につけて!!!!くれよ!!!!頼むからさ!!!!」
と、マネージャーから電話で叱られたのであった。
頑張れ。マネージャー。
ちなみに月愛ちゃんがマネージャーと立てた今年の目標は「社会性を身につける」です。なお、7月になっても身についた様子はない模様。