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中編


 時は進み、年末近く。

 兄の死亡フラグを圧し折る為、双子はずっと考えた。

 そもそもの発端となるだろうアデリナと例の伯爵令息との婚約は回避できたとは言え、まだ完全ではない。両親や兄の言動から、例の伯爵夫人はまだ諦めていないっぽいのはわかっていた。となると、兄の死亡フラグもまだ防げていないと考えるべきだろう。


 あーだこーだ話し合い、最終的に出した結論は。


「「へんきょーはくさまに、おねがいがあります!」」

 いきなり会いたいと連絡が来た時、たまたま王都のタウンハウスにいた辺境伯。

 明日なら空いているよと伝えたところ、さっそく朝一番で双子がやって来たのだが。

「アデリナ、エリアス。どうやってここまで来たんだい?」

 護衛も共もなく二人だけで来たものだから、驚いて辺境伯が聞くと。

「おうちのちかくの、のりあいばしゃのりばまであるいて、そこからばしゃできました!」

「大至急、ミラン伯爵家に連絡を。あとで私が責任をもって送ると伝えてくれ」

 控えていた執事にそう指示を出し、辺境伯は溜息をつきたいのをぐっとこらえた。

 確かに、今日なら空いていると返事をしたのは自分だ。だからと言って、まさか二人だけで来るなど、誰が想像するのか。双子の思わぬ行動力に感心するやら呆れるやらだった。

 今頃、伯爵家では大騒ぎになっているだろうなという辺境伯の予想は当たっていた。

 朝食後、姿が見えなくなった双子を探して大騒動になっていたのだが、この時の双子が知る由もない。帰宅後は両親と、知らせを聞いて急遽帰宅した兄から滾々と説教を受ける運命が待ち構えている。

 取り合えず、勝手に出てきてはダメだ、来るのは構わないけれど必ず護衛と一緒に来なさいと注意してから、辺境伯は双子を応接室へと通した。

「それで、私に話があるんだよね?」

「「はい!」」

「なんの話かな?」

 促すと、双子は顔を見合わせる。

「へんきょ-はくさま、あのね」

「まて、エリアス。いつも通りおじさまでいいよ」

 今日は初っ端から辺境伯と呼ばれて、ちょっと違和感を感じていたので、そこは訂正してもらう。

「あのね、おじさま。ぼく、前にね、ゆめを見ました」

「夢?」

「はい」

 この時点で、辺境伯はミラン伯爵から聞いていた話を思い出した。例の某国の間諜と繋がっていると言う某伯爵夫人に関する事だ。

「あのね、ゆめだと、兄さまはらいねんの春に、どくでころされちゃうの。ぼくたち、アデリナのこんやくをそしして、兄さまがしなないようにがんばろうと思ったの」

 エリアスはたどたどしくはあったが、以前にベルナルドに話した内容をそのまま辺境伯にも伝えた。

 辺境伯は間諜の件と毒が持ち込まれるかもしれないと言う話はミラン伯爵から聞いていたので知っていたが、その毒によりベルナルドが殺されると言う話は初耳だった。

 普通は、こんな話など信じてもらえるわけがないのは、双子もわかっていた。それでも、兄を助けたくて何とかしたかった双子は、考えて考えて、最善と判断したのが辺境伯を巻き込むことだったのだ。

 そして一方の辺境伯も、ミラン伯爵から聞いた話を元に調査を開始しており、その結果、確かに怪しい動きをしているのを確認しているのだ。現在進行形で密偵に見張らせている。

「おじさま、たくさんいろんなことを知ってるって、ききました。だから、兄さまを助ける方法をおしえてください」

「おねがい、おじさま。兄さまがころされたら、エリアスもころされちゃうの。わたし、ひとりになっちゃう」

 真剣な様子の双子の話を聞き入っていた辺境伯だったが、最後にアデリナが聞き逃せないことを言い出した。

「ちょっと待て。エリアスも殺されるのか?」

 確認すると、双子が頷く。聞き間違えではなかったようだ。

「なぜ、エリアスまで?」

「あのね、アデリナとこんやくさせたかったのはね、じなんをウチのとうしゅにするためなの」

 エリアスからの捕捉に、それだけで大体の事は察した辺境伯。

 要は、家の乗っ取りを企んでいるという事になる。その為に邪魔となるアデリナの兄二人を葬るつもりでいるという事なのだろうが、考えられない事ではなかった。

 辺境伯家が独自に調べた限りでは、例の伯爵夫人はすでに毒を入手している。母親と違い、自身は間諜としての活動は皆無の為、その辺りの管理がずさんなので確認が取れたのだが、母親の方はまだ調査中だ。こちらは一筋縄ではいかない。

 ただ、この件に気付くことが出来たのは、元をたどればミラン伯爵が話してくれたエリアスの夢だ。気づかずに放置していれば、結果的に辺境伯家もダメージを負っていた可能性が高いだけに、感謝している。

「なるほど。あの夫人は次男を溺愛しているようだからね。考えられなくはない」

「そうなの! はくしゃく夫人はね、じなんが大好きなの!」

「わたしはきらい。兄さまとエリアスをころそうとするなんて、ぜったいにゆるさない」

「ころそうとするのは、じなんじゃないよ。そのお母さんだよ」

「それでも!」

 ぷくっと膨れるアデリナに、エリアスが困ったような顔をしている。

 そんな双子を見つつ、素早く考えを巡らせる辺境伯。

 これまでに双子の言動を自分の目で見てきているからこそ、エリアスの話を完全に疑う事はしない。むしろ、そのおかげで結果的に我が家の失態ととられかねない事態を未然に防ぐことが出来そうなのだ、その点に関しては感謝もしている。そして何より、ミラン伯爵家の兄弟が害される可能性があると知っては黙っていられなかった。

「エリアス。他にも何かわかることはないかい?」

「ほか? えと…………あっ」

 何か思い出したようで、ちらりとアデリナの顔を見た。

「なに?」

「あのね、アデリナがやかいにでたときに、おじさまにしんせつにしてもらってね、仲よしになるの。でもね、はくしゃく夫人はおじさまをきらってたよ。アデリナにも、仲よくなっちゃダメっておこるの」

「え? なんで?」

「はくしゃく夫人のお母さん、おじさまがテンテキだって言ってたんだって」

「テンテキ?」

「うん」

「テンテキって、なに」

「わかんない」

 無言で顔を見合わせる双子。以前にも言ったが、言葉を知ってはいてもその意味までしっかり理解しているとは限らない。

 そのやり取りに、辺境伯は笑いそうになるのを何とか堪えていた。まあ、これも双子の魅力のひとつだろうと思っているので、可愛いとしか思わないのだ。

「天敵というのはね、わかりやすく言うと、虫と、虫を狙う鳥がいるとするだろう。この場合、虫から見た鳥は天敵、となるかな」

「? 食べられちゃうから?」

「そう、食べられてしまうと言うのも、理由のひとつかな。それ以外にも、ネズミから見ればヘビや猫は天敵だろうし、シカのような草食動物から見れば大型の肉食魔獣は天敵だろう。つまり、自分から見て勝てそうにない相手、という感じかな」

「「へー!!」」

 双子が目をキラキラさせながら聞いている。

 色々と大人顔負けの知識を持っている割には、こういった反応の一つ一つは年相応の子供だ。こんなところも辺境伯は気に入っていた。

「さて、二人が聞きたいのは、ベルナルドを助ける方法だったね?」

「「そうです!」」

 ぴしっと姿勢を正して聞く体制に入る双子。

 双子に次いで会う機会が多いベルナルド。その性格も優秀さも気に入っている辺境伯は、そのベルナルドが殺されるかもしれないと聞かされたら、何が何でも阻止してやると思う。むざむざ殺させるには惜しい若者だと。

「まず、ベルナルドが殺される時の状況は?」

 アデリナがエリアスを見る。

 エリアスは頷いた。

「えと、かがいじゅぎょうで、南にあるしせつに、けんがくに行きます。そのとき、しょくいんの女の人が出してくれたお茶をのんだら、兄さまだけ、たおれたの」

「施設というのは? 何の施設かわかるかい?」

「なんだろー? えとね、白くて長いのをきた人がたくさんいるよ」

「ああ、白衣か。となると……あそこだな」

 思い当たるのは、一か所だけ。

 騎士団御用達の薬学の研究施設だ。王都の騎士団に配布される薬品類はここで製造されているので、そんな場所で毒殺など起こったら後々問題になることは間違いない。

 さしあたって辺境伯としてやらなければいけないのは、研究所の全職員の身元を洗う事だろう。もしかしたら息のかかった者がすでに入り込んでいる可能性も捨てきれない。

「その施設は心当たりがあるから、私が調べておこう」

 その後も少し話をして、色々とためになるお話を聞かせてもらった双子。

 目をキラキラさせてすごいを連発する双子に気をよくした辺境伯に遊んでもらい、ご機嫌で帰路についた。



 **********



 辺境伯に送ってもらった後、両親と兄からたっぷりお説教を食らった二人。

 これまでにないくらいがっつり叱られてえぐえぐしていたが、こればっかりは双子の身の安全もあるので言わないわけにはいかなかった。双子がなぜそんな行動に出たのかは察していたし、双子の所在を伝えに来てくれた辺境伯の従者からも聞いていたが、それでも双子の身の安全を脅かしてまでやっていいことではない。

 そのことを滾々と諭し、双子にもう黙っていなくならないと約束させて収めた。


 しかし、今回の件で双子の思わぬ行動力を思い知らされた両親は、危機感を募らせた。


 普段は大人しいエリアスが暴走気味のアデリナを止めていたし、まだ幼いからそこまで大胆な行動に出るとは考えてもいなかったので油断もしていた。だが、今回の件で時としてエリアスも大胆な行動に出る可能性があるのだと知ることになったのだ。しかも今回、エリアスが辺境伯家のタウンハウスまでの行き方を事前に調べていたと知り、ますます危機感を募らせた。

 ミラン伯爵はこれを機に、二人に専属の護衛をつけることを決断した。

 長男ベルナルドの件は勿論心配だし、双子も心を砕いているのはわかる。だが、そうだとしてもまだ幼い二人が無茶をするのは見過ごせないし、それで何かあったら元も子もない。今後は行動範囲も広がっていくだろうから、監視の意味も込めて傍にいる人間が必要だと結論付けた。


 伯爵夫妻とベルナルドが意見を出し合い検討した結果、一人の青年が選出された。


「本日よりお二人の護衛を務めることになりましたアロイスです。よろしくお願い致します」

「「アロイスだ!」」

 双子、大歓迎。

 今年二十歳のアロイスは、本来はベルナルドの護衛だ。ベルナルドが学園の寮に入ることになったのでそれまでのような護衛が必要なくなり、ベルナルドが学園を卒業するまでは領地にあるミラン伯爵家お抱えの騎士団で鍛えなおしてくると、一時的に領地へ移動していた。

「お久しぶりです、エリアス様。アデリナ様」

「「ひさしぶり!!」」

 大喜びでアロイスにまとわりつく双子。ベルナルドが学園に入る前までは、これも見慣れた光景だった。

 十三歳で見習い騎士としてミラン伯爵家に来たアロイスは、十五歳の時にベルナルドの護衛に抜擢された。故に、双子にとっても顔見知りであり、よく遊んでもらった優しいお兄ちゃんなのだ。

 ベルナルドが学園を卒業すればまたその護衛に戻るが、それまでは双子の護衛としてこちらに戻ってきた。アデリナはともかく、人見知りするエリアスには顔見知りが傍にいた方が良いだろうと言うのが両親と兄の一致した意見だったからだ。双子の新しい護衛は、まずは数人の候補者を選び、ベルナルドが卒業するまでにゆっくりと慣らしてから決めようという事になっている。

「旦那様から聞きましたよ、お二人とも。お二人だけで辺境伯様のタウンハウスへ行ったそうですね」

「「そ-だよ!」」

 双子、元気いっぱいに肯定。

「でもね、父さまと母さまに、おこられちゃった」

「兄さまも、こわいかおしてたの」

 しゅんとしてエリアスが言い、アデリナも俯いている。両親はともかく、滅多に怒らない兄にガッツリ叱られたのはショックだったようだ。

「それだけお二人の事を心配していたという事です。この辺りは治安は良い方ですが、人攫いなど、どこにいるかわかりません。お二人だけで出かけるのはもう止めてくださいね。今後お出かけになる時は、必ず私も一緒に行きますので」

「アロイスがいっしょなら、お出かけしてもだいじょうぶ?」

 エリアスに聞かれ、アロイスは頷いた。

「必ず、とは言えませんが。私が同行すれば旦那様も許可してくださると思いますよ」

「そっかぁ。じゃあね、アロイスもおてつだいしてくる?」

「ベルナルド様のことですね?」

 双子は頷くとアロイスの手を取り、エリアスの部屋へと連れて行った。

 部屋につくとアデリナは廊下をキョロキョロと見回してから扉を閉めて、双子はそろってベットに座る。

「あのね、ぼくたちね、兄さまのしぼうふらぐをへしおりたいの」

「兄さまね、こんどの春に、どくでころされちゃうの」

「アデリナのこんやくしゃがオスカーになったから、もうへいきだって思うけど」

「おじさまが、いってたの。はくしゃく夫人、まだあきらめてないから気をつけなさいって」

 真剣な顔で双子が説明するのを、アロイスは黙って聞いていた。二人が辺境伯の事をおじさまと呼んでいるのは聞いていたので、そちらからも注意するように言われたのだろうと察していた。

 この辺りの事情は、すでにミラン伯爵から聞いて承知している。エリアスが夢で見た内容、それがただの夢ではないと証明するかの如く一致する出来事の数々がすでに起こっていることも。

 この双子には元から不思議な所があるのはアロイスも知っていたし、今回の件を引き受けるにあたっては上司である伯爵家の警備隊長からも説明を受けている。前回のお出かけ騒動は、伯爵夫人である母親が本当にちょっと目を離した隙にいなくなったらしい。

「でしたら、尚の事。お二人も気をつけなければなりません。ベルナルド様を亡き者とするために、お二人を利用することも考えられるのです。兄君を守りたいのであれば、お二人もご自身を守らねばなりませんよ」

「ぼくたちも?」

「そうです。例えば、アデリナ様が人質に取られてしまったとします。犯人は解放する条件として、ベルナルド様に一人で来るようにと要求するかもしれません。そうなったら、どうなると思います?」

 アロイスの問い掛けに、双子はそろって顔色を悪くした。元々年齢にそぐわない賢さも備えている二人だ、そうなった場合の事を想像できてしまったのだろう。年の離れた弟妹が可愛くて仕方ないベルナルドが、幼い妹を見捨てるようなことが出来るわけがない。周囲が止めようと、一人向かうのは容易に想像がつく。

「ご理解いただけたようで何よりです。私にできる事であれば、協力は惜しみません。ですからお二人も、今後は今まで以上に注意して行動することを心がけてくださいね」

「「はい!」」

 真剣な顔で、頷く双子。

 これなら大丈夫だろうなと、アロイスは内心ほっとしていた。

 今回の護衛の件を打診された時、正直に言えば迷ったのだ。期間限定とはいえ、伯爵家が溺愛する幼い双子の護衛だ。通常の護衛よりもはるかに気を使うし、子供の扱いにそう慣れているわけでもない。果たして自分に務まるだろうかと。

 ベルナルドの傍にいたので双子が自分に慣れているという点では適任と言えるかもしれないが、それでも不安はあった。ベルナルドから直接頼まれていなかったら、辞退していたかもしれない。

 その後も少しアロイスと話をした双子は、完全に味方に引き込めると判断した。そこで、アロイスの手を引いて父の執務室へと行き、仲良くなれたよと報告。アデリナはともかくエリアスの人見知りを心配していたミラン伯爵は、双子の様子に一安心。一年近く会っていなかったので、もしかしたら拒絶されるのではとちょっと心配していたらしい。


 こうして無事に双子の護衛が決まり、出来ることが増えると喜ぶ双子。その結果、ますます行動範囲を広げる事になるのだが、この時は誰もそのことには気づいていなかった。



 **********



 週末になり学園から戻ったベルナルドは、アロイスから報告を受けて苦笑していた。

「ああ、うん。あの子たちの事だから、そうなるだろうね」

 この一週間で、周囲が驚くほどの行動力を見せている双子。当然、振り回されるアロイスはたまったものではないが、それでも双子が兄を助けるために必死だと言うのはわかっていたので、あまり強くも言えずにいた。

「アデリナ様は元から活発でしたが、エリアス様も本当にお元気で。正直、あのおとなしかったエリアス様かと目を疑いました」

「エリアスはアデリナと婚約したオスカーと気が合うみたいでね。一緒になって遊ぶようになってから少し腕白になってきた。それでもアデリナと比べたらまだ大人しいけれど」

 男の子だから、あのくらいでもいいかなと思ってるよとベルナルド。

 それに関してはアロイスも同意するが、それでも一年前と比べると別人かと思うくらい活発になっているエリアスには、かなり驚いたようだ。

「この一週間で、辺境伯家のタウンハウスへ二回お出かけになりました。オスカー様との交流目的が半分、辺境伯様への相談が半分といったところです」

 それ以外にも、やれ買い物だの敵情視察だの、色々と付き合わされたアロイス。ひっきりなしに動き回る双子の護衛で、疲労困憊の一週間だった。ただ、こうまで疲れるのも慣れるまでだとアロイスは考えている。今はまだ双子の行動が読めないので全神経を使って監視するような感じだが、ある程度行動パターンが読めるようになれば改善するだろう。

「私の為に一生懸命なのは嬉しいんだけどね。それであの子たちになにかあっては本末転倒だ」

「はい。その点は私からもお二人へお話させていただきました。ご納得いただけましたので、今後は黙っていなくなることはないかと」

「助かるよ。本当に、母上なんて半狂乱だったらしいから」

 双子の失踪事件。

 あれは、母親が本当に僅かに目を離した隙に出て行ってしまい、しかも家を出て少し歩いたところで見回り中の街の警邏に見つかって、迷子として保護された。その時に双子が咄嗟に辺境伯家のタウンハウスへ行きたいと伝えたことでそちらの関係者と思われ、乗合馬車の待合所まで案内されて、警邏の騎士が御者にくれぐれもと頼んで辺境伯家へ送られたと言う経緯があったのだ。

 一方家では、しばらくして姿が見えないことに気付いた夫人を中心に屋敷中を探すも見当たらず、使用人総出で敷地内の捜索を行っていた時に辺境伯家から至急で連絡があり、所在が確認できたのだ。

 ある意味、とても運が良かったのだ。何処かで少しでも何かがズレていたら、今無事にいるとは限らなかったのだから。母が泣きながら大激怒したのは、ある意味当然だった。

「それよりも、ベルナルド様」

「うん?」

「エリアス様の夢の話、本当に起こり得るとお考えですか」

「そこは疑っていない」

 きっぱりとベルナルドは肯定した。

 エリアスの夢の話は、アデリナが辺境伯家の分家と縁を結んだことで、父であるミラン伯爵から伝えられている。俄かには信じられない話ではあったが、意外にも辺境伯側は頭ごなしに否定せずに聞いてくれたらしい。

 内容が内容だけに確認する必要があると判断した辺境伯家が動いた結果、エリアスの夢の通りある家が他国の間者に乗っ取られている可能性が浮上するという結果になった。

 それを、ベルナルドはかいつまんで説明した。

「なるほど。では、毒の件もすでに確認が取れていると」

「ああ。ついでに辺境伯閣下が手を尽くしてくださって、解毒剤も入手済みだ」

 そう言って、懐から小瓶を取り出してアロイスに見せた。

「効果のほどは確認が取れているのですか?」

「辺境伯家で確認済みだそうだ」

「なるほど」

 それならば、安心だろうとアロイスは頷いた。

 自分の主が殺されるかもしれないと聞かされた時は居ても立ってもいられない気分だったが、対処できるように準備を整えているのであれば少しは安心できる。そして、そんな未来を防ぐには双子の側にいた方が有利だろう。

「色々と準備はしているし、そんなに心配しなくても大丈夫だよと二人にも言っているんだが、中々ね。私としては、エリアスこそ気をつけてもらいたいのだけれど」

「は?」

 アロイスが怪訝そうな声を上げた。

「あれ、聞いてないか?」

「……何を、でしょうか」

 その様子に、聞いていなかったのだなとベルナルドは理解した。

「エリアスの夢では、あの子は私が殺された後、父上の名代として視察に訪れた先で、物取りに見せかけた暗殺者に殺されたらしい」

「ころ……され、た?」

「ああ。成人を向かえる直前だったそうだ」

 夢の中の話とは言え、可愛い弟が殺されるなど許せないものがあるのだろう。ベルナルドの声には明らかな怒気が含まれていた。

 そして、ベルナルドはエリアスから直接聞いた話をアロイスにも聞かせた。話を聞き、双子が大好きな兄を救うためにいかに奮闘していたのかを察したアロイス。幼い頃からあれだけ慕っていた兄を失うかもしれないと思って、必死に色々と考えて行動してきたのだろうと容易に想像がついた。


 なんとしても守らなければ。


 そんな決意を新たに、覚悟を決める。

「私がお側にいる限りは、何人たりとも手出しはさせません。必ずお守りいたします」

「アロイスなら、安心して任せておけるよ。ここだけの話、アデリナの護衛に関しては辺境伯家から出していただけることになっているんだ。候補が数名、近いうちに来ると思うから少しずつ二人に慣らしていってほしい。その時にエリアスにもと言われたんだが、さすがにそこまでは甘えられないと父上が一度は断ったんだけど……辺境伯閣下はあの子たちを随分と気にかけてくれているからね。今回は甘えようと父上が決断された。なので、エリアスの護衛候補も近いうちに紹介していただけるかもしれない」

「武人としても名高い辺境伯様の紹介でしたら、間違いはないでしょう」

「そこは信頼できる。それに、例の家に関しても包囲網が整いつつあるようだよ。エリアスの夢の話がなければ確実に見逃していたのは事実だから、その礼もかねてって事らしい」

 あの子たちの功績はすごいよねと、ベルナルドが苦笑する。

 昨年までベルナルドの護衛として常に側についていたアロイスは、当然のことながら双子の功績は知っている。家の発展だけでなく、領地に暮らす人々の生活を向上させるような知識や道具を提案し、それは着実に浸透しつつあった。現に領地の騎士団で鍛えていたこの一年、領民たちは自分たちの生活環境を改善し、豊かにしてくれつつある領主一家にそれは感謝していた。


 不意に、扉をノックする音が響いた。


 アロイスが扉へ近づいて開けると、入って来たのはお皿を抱えた双子。その後ろには侍女がワゴンを持ってきていた。

「兄さま、おやつのじかんです!」

「ぼくとアデリナで、おかしつくったよ!」

「「アロイスもいっしょに、おやつしよう!」」

 おやつの時間帯に双子が兄のところへ押しかけるのはいつもの事。

 その時に同じ空間にいる侍女や護衛達も巻き込んでのティータイムになるのも平常運転。稀に手の空いた伯爵夫妻が乱入してくるのも想定内。

 こんな感じなので、ベルナルドはくすっと笑うとアロイスにも座るように言い、ワゴンを持ってきてくれた双子付きの侍女にもお茶を入れたら同席するように促した。

「今日は何を作ったのかな?」

 ベルナルドが尋ねると、双子はそれぞれ持ってきたお皿をテーブルに置いた。かぶせてあった布巾を、さっと退ける。

「お、綺麗なケーキだね」

「あのね、これはニンジンでね、みどりはね、ホウレンソウなんだよ!」

 ニコニコとアデリナが説明する。

「野菜を使って色を付けたんだ。これもアデリナが考えたの?」

「うん!」

「兄さま、これも! アデリナにね、おしえてもらったの!」

 エリアスが見せたのは、カラフルなクッキー。

「これも野菜で色を付けたのかい?」

「そーだよ! むらさきいろの、おいも見つけたの! きれいでしょ!」

「うん、綺麗に色が出てるね。ふたりとも、ありがとう」

「「兄さま、どーぞ!」」

 笑顔でお菓子を勧められ、楽しいティータイムが始まる。当然のことながら、双子は兄の両隣を陣取って離れない。そして、これが始まるとお世話係と称して人が集まってくるのもいつも通り。

 可愛い双子が大好きな兄に甘えまくるティ-タイムは、ミラン伯爵家の面々が一番ほっこりする時間でもあった。



 兄とアロイスとの話に割り込み、強引にティータイムを決行した双子。もちろん、大切な話をしているとわかっていてわざとである。

「兄さまとアロイス、ぼくたちのお話してたね」

「アロイス、おじさまからもお話きいてたから、兄さまにおしえてたのかも」

「兄さま、ちゃんとちゅうい、してくれるかな?」

「してくれなかったら、どうしようか」

「どうしたらいいかな」

「うーん……」

 ベットの上で額を突き合わせるようにして、唸っている二人。

 ティータイムの後、まだ話があるらしい兄に部屋に戻っていなさいと言われ、大人しくアデリナの部屋で待機中の双子。しかし、ただ大人しく待っているわけでもない。

「あとで、アロイスからも言ってもらおう!」

 ベットの上でスクっと立ち上がったアデリナを、エリアスはちょっと冷めた目で見てる。アデリナが気合を入れて行動を起こす時は、だいたい碌なことにならない。

「アロイスから言ってもらうのは、さんせいだけど。それだけだと、いままでとかわんないんじゃない?」

 双子としては、まずは自分の身の安全を第一に考えてもらいたい。しかし、うっかりエリアスも殺されるという話をしてしまったが為に、兄の一番の関心は如何にエリアスの安全を確保するかに偏っている節が見て取れる。双子からすれば、エリアスが危険になる可能性がるのはまだ先なのだから、今は兄の安全が第一だ。


 しかし、ベルナルドの考えは違う。


 本当にミラン家当主の座を狙っているのであれば、自分とエリアス、始末する順番はどちらでも構わないはずだ。むしろ、まだ幼いエリアスの方が危険は大きいのはないかと危惧している。実はこの辺りは父や辺境伯も同意見だった。

 アデリナがオスカーとの縁を結んだ時点で、エリアスの夢からは反れていると言える。であれば、この後に起こるだろう出来事は夢の通りに進むとは限らないわけだ。

 そんな兄の考えなど思いつかない双子は、今もどうやって兄に注意を促すかに頭を痛めているわけだが。

「じゃあ、おじさまから言ってもらおう!」

 良いこと思いついたとばかりに、アデリナが言うが。

「おじさま、もうちょっとしたら、りょうちにかえるって言ってたでしょ。いそがしくなるから、あえなくなるかもって」

「むー……」

 国防の一角を担う辺境伯家の当主ともなれば、何かと忙しいのは当たり前。それでも、王都にいる間は出来るだけ双子の会いたいという要望に応えるべく時間を捻出していたのだから、破格の待遇を受けていたと言えよう。


 その後も何かいい手はないかと知恵を振り絞る二人だったが結論が出ず、考えすぎて疲れたのか、いつの間にやら寝てしまった。

 話を終えたベルナルドとアロイスが様子を見に来た時、二人で仲良くお昼寝している姿にくすりと笑いをこぼすと、体が冷えないように毛布をかぶせてから部屋を後にした。



 数時間後。

 うっかりがっつり寝てしまったが為に、せっかく大好きな兄とたくさんお話しできるチャンスだだったのを自ら棒に振ってしまったと、あまりにもしょんぼりする双子。見かねたベルナルドが、今日は一緒に寝ようかと提案したことで、あっという間にご機嫌になるのだった。

 

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