プロローグ
午前3時26分。
幽かな錆の匂いとともに私は目が覚めた。
耳が騒がしかった。いつも家の外から聞こえる誰かの話し声に心なしかノイズが乗っている。
ベッドからコンクリート製の冷たい床に降り立つと同時に父が部屋に駆け込んできた。
私は間髪入れずに父は「音を立てずに逃げろ。上に行け」と言った。
寝起きということもあり、今置かれている状況が理解できなかった。
父に何が起こったのかを聞こうとした瞬間、父が閉めた機密扉が鉄が拉げる音とともに破壊され、耳を劈くほどの大きさのノイズを立てながら木賊色の巨大な触手が壊された扉から部屋に入ってきた。
恐怖で体が動かなかった。父は私の手を強く握り乍ら部屋の奥にじりじりと後退り、私はぎこちない動きで父に追従した。みるみる近づいてくる触手から逃れようと部屋の奥まで逃げ、奥の壁によりかかった。父自身の大きな背中で私を隠してくれていた。脳に響き渡るノイズは一向に収まる気配を見せず、寧ろ大きくなっていた。
遂にノイズに耐えられなくなり、私は呻き声を上げた。
すると、触手が目にも止まらぬ速さで槍のように私達に向かってきた。
「地下に...」
父が何かを言いかける。
次の瞬間、ノイズの乗った「ドスッ」という鈍い音とともに、私は父の重さを感じた。