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More Songs...  作者: alIsa


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七月十五日(金)

 七月十五日(金)

 梅雨の時期にあまり降らなかった分の雨がずれ込んだのか、既に夏になったにもかかわらず、昨晩から降り始めた雨は更に勢いを増してなおも降り続けていた。空のダムが決壊してしまったかのような激しい雨が、大学の法経第十二講義室の窓を強く叩き震わせる。室内灯は点いておらず、空調も停止していたため、聞こえるのは雨が地面や窓にぶつかる音とシャープペンシルを紙の上に走らせる音だけだ。教壇の近くに掛けられた電波時計は十五時を指している。床に固定された長机の上には男のスマートフォンが置いてあるが、一時間ほど前に電源を落とされていた。洪水に関する避難警報が攻撃的な音とともに、不意を突いて何度も送られてきていたためである。男は警報音の度に、心臓発作でも起こったかのように、ビクビクする羽目になり、これでは試験勉強に集中できないと思ったのだった。

 金曜日はこの教室では講義が行われないため、他の学生がやってくるのではないかと気を揉む必要がなく、携帯の電源を切った後にはしっかりと自習に専念することができた。ふと、男は顔を上げて大きくため息をつき、シャープペンをノートの上に置いた。集中力の限界だろう。椅子の背もたれに体を預け、上を向いて目を瞑った。いつも鬱陶しくて目障りな学生たちは雨と一緒に地面へと吸い込まれてしまったのだろうか?男がそう思ってしまうほど、構内は静寂に包まれている。実際には、この大雨に立ち往生して構内に残っている学生はたくさんいたのだが、彼にとって、そんなことはどうでもよく、少なくとも今はそうだと思い込んでいたかった。

 そろそろ帰宅しようと思い、雨の具合を確認するために立ち上がろうとした。その時、彼の左太腿に鈍い痛みが走る。男は慌てて太腿をさすりながら座り直した。

 


 今朝の出来事だ。激しい雨の中、男は傘を差して歩いていたせいで、普段より前方への注意が足りていなかった。同じように傘を差しながら、自転車を運転していた学生と道角で衝突してしまったのである。自転車のスピードがそれほど出ていなかったのは幸いで、前輪が男の太腿にぶつかり、軽く尻もちをつく程度で済んだ。大腿骨には特に問題は無く、また、自身の前方不注意もあったため、彼はその事故自体には大して何も思っていなかった。しかし、その学生が男をちらりと見ただけで、何も言わずに立ち去ろうとしたことに非常に腹が立った。非は明らかに相手の方が重いにもかかわらず、あたかも自分が悪いかのような視線に納得がいかなかったのである。よほどその自転車の荷台を掴み、骨が折れたとか警察に通報するとか言って財布の中身をふんだくってやろうかと思ったが、すぐに考え直して止めたのだった。



 厚い雲がカーテンのように空を覆っていたせいで時間の感覚が掴めず、夕方になっても電波時計を見るまで十七時を過ぎていたことに気づかなかった。その頃には太腿の痛みも普通に歩ける程度には引いていたため、男は雨が弱まるのを見計らって大学を出た。



 アパートのワンルームに着くと、男はびしょ濡れになった衣服を全て脱いでシャワーを浴びた。ユニットバスから出た後、部屋の湿気がひどかったため換気をしようと部屋の窓を開け放った。いつの間にか雨は再び強くなっていて、雨粒が開いた窓から無遠慮に部屋へ飛び込んでくる。彼は下着以外何も着ていなかったため、冷たい水滴が素肌に当たって心地よかった。路地に視線を下ろすと、高校生たちが、突然勢いを取り戻した雨に戸惑って猿のように大声で喚きながら、走っている。彼らが見えなくなってようやく、男はずっと指に挟んであったタバコに火をつけた。タバコの煙は、時折雨粒にぶつかりながらも、器用に身をくねらせて空へ上っていく。こんな嫌われ者の煙でも、しっかり上昇志向を持っているんだな、立派なもんだ。男は顔をゆがめて小さく笑った。

 煙を見ることに飽きて持て余された彼の目は、自然と比叡山に焦点を合わせる。比叡山は相変わらず貫禄深いが、雨に打たれて普段より黒く重い緑色を背負った姿には、そこはかとない寂寥が潜んでいる。空は、怒っているのか、悲しんでいるのか、分からないが、黒い雲から大量の涙を、声もなしに絶えずこぼし続けている。

 煙が見当たらない。男が慌てて視線を落とすと、雨に濡れてしまったのか、タバコの火はいつの間にか消えてしまっていた。


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