誕生
一人で魔力調整の練習をしていると集中し過ぎて昼食も食べずにいつの間にか既に夕刻になっていた
演習場を片付け部屋に戻るとマーサが既に風呂の用意を整えてくれていた
「マーサ、母上は、その…… まだなのか?」
あ~、なんて言ったらいいんだ~!
「もう少しのようですございますよ
お生まれになったらリル様にもすぐご連絡が入るはずです」
練習が終わり、母と赤ちゃんのことを思うと急にそわそわしてきた
ソワソワしているのは、俺だけではもちろんない 夕食時、平静を装うが明らかに落ち着きのない父は先程からナイフとフォークを置いたり、持ったり
「父上、本日は父上の大好物ばかりなのに 先程から全然食事がすすんでおりませんがお口にあいませんか? それとも何か問題でも? 料理長呼んでまいりましょうか? 」と少しからかってみた
「コホン、大丈夫だ 問題ない美味しく食している」少し耳が赤い……
コンコン 「お食事中恐れ入ります
先程お生まれになられました」
とシーアスが報告にきた
食事をやめすぐに母の部屋に向かう
扉の前で父と二人呼吸を整えて入ると母が小さな赤ちゃんを抱いている
「フィ お疲れ様そしてありがとう」そう言って父は赤ちゃんごとそっと抱きしめた
「母上、おめでとうございます!あの、男の子ですか? 女の子ですか? 」
「リルありがとう、この子は、女の子なの」
(この子は?)
「それで、べビーベッドで今寝ているのが男の子」
「え ? もしかして双子ですか? うわぁ!すごい」
小さな顔立ちの整った銀色の髪をした赤ちゃんがふたり母の腕の中と、ベビーベッドでスヤスヤ眠っている
ベッドに眠っている赤ちゃんの頬をそっと人差し指で撫でてみた
すると小さな手がぎゅうとおれの指をにぎった
うわあああああ!可愛すぎてぞくっとした
「兄上がお前たちのことずっと守ってやるからな」
思わず声に出してしまった
「おい、俺がいることも忘れるな お前は俺が守ってやる
お前はもっと強くなってこの子達を守ってくれ」と笑顔で父が言う
半時ほど和やかな時間を過ごしたあと、部屋に戻り、テラスで出る
日が落ちるのが早くなってきた。空を見上げながら少し冷たくなってきた風を感じる
何かあった時は、「北斗」の時から夜空を見上げる 星と対話しているようなそんな気持ちになるからだ
なんとなくもう顔も忘れそうになってきた実父を思い出していた
実の父親も今日の父のように俺の誕生を喜んでくれたのだろうか
そして、先程の父の言葉と笑顔が蘇る
もちろんだよ、俺はあなたに返しきれないぐらいの沢山の恩があるんだ 父上
血がつながっていなくても、何があっても俺には最高の父親だ
父上絶対に、この子達を守れるよう強くなるよ
改めて、心の中で空に明るく光る宵の明星に誓った
ご覧いただきありがとうございます。
このお話で第一部完結です。
次回から第2部いよいよ学園編が始まります。
引き続きご覧いただければ幸いです。
そして、沢山の方にご覧いただき感謝しております。これからも宜しく御願い致します。