8. 常時身体能力超向上
修行回ですので、さらっと流し読みしていただければと思います。
無属性魔法・身体能力超向上の修行をするにあたって、マクベインはまず手始めに剣の修行から行った。
それは何故か。…当初は、身体能力超向上を剣士などの優れた肉体を持った近接戦闘職に使用し、所謂『補助魔法』として役立てる予定だったが、この魔法はどうあがいても自分以外には使用できないことが判明してしまった。
マクベインは自分の身体を見下ろした。ガリガリとは言わないものの、腕力・持久力・敏捷性どれをとっても凡庸の域を出ない自分が、身体能力超向上を使ったところで、行き詰まるのは目に見えている。
ならばどうすれば良いのか。
マクベインが出した答えは、自らを一流の剣士と遜色無い屈強な肉体に作り上げる事だった。
貴族の嗜みとして、幼少期の頃にある程度の剣術は学んでいたので、それなりに下地はあった。
しかし、魔法の才能が抜きん出ていたため、十歳を超える頃には魔法の修練のみに時間を割くようになり、今の自分は最後に剣を握ったのがいつかも覚えていないほどだ。
マクベインは静かに目を閉じると、幼少の頃の記憶の糸をたぐり寄せた。
あの頃に習った基本の型を繰り返す。すっかり剣を振るうことがなくなった手の平の皮が、数日剣を振るうだけで剥けてしまう。それでもマクベインは、どんなに皮が剥けようと、いくつもの豆が潰れようと、血が滲もうとひたすら剣を振るい続けた。
両手で抱えきれないほどの大岩を背中に抱え、毎日限界を超えて走る。抱える岩は徐々に重さを増していった。
毎日気を失うように眠りにつくその瞬間まで肉体を虐め抜き、いつしかマクベインの手は、ごつごつとした厚い皮に覆われ、腕や足、肉体は倍ほどにも厚みを増していた。
苛酷な生活はマクベインの精神と肉体を、人並み以上に鍛え上げた。修行を始めてから一年が経つ頃には、マクベインの全身は鋼の鎧のような筋肉に覆われていた。
マクベインは身体能力超向上の改良にも着手する。
身体能力超向上を自分以外の人間に使用することができないのなら、わざわざ魔力球を作り出して再び体内に戻すという手間は必要ない。
敵が眼前に迫る切羽詰まったような状況で、そんな時間を与えてくれる敵はいないのだから。
では、どうすれば良いのか。
マクベインは体内に直接、高密度の魔力を生み出すことはできないかと考えた。
これならば、体外に魔力を放出、圧縮し、再度体内に取り込むという無駄の多い行程を大幅に削減することができる。
マクベインは意識を集中し、体内の膨大な魔力を肉体から溢れないように少しずつ圧縮し、密度を高めた。
わずかな精神の乱れも許されない。失敗すれば体内で魔力が暴走し、下手をすればレッサーウルフの二の舞いになりかねない。
「慎重に……焦るな……」
グラスに一滴ずつ水を落とすように少しずつ、細心の注意を払って体内に高密度の魔力を産み出す。この「高密度の魔力を直接体内に生み出す」スタイルの身体能力超向上は、一度使用状態に達するまで、はじめは丸一日がかかった。
体内が高密度の魔力で満たされ長く息を吐いたマクベインは、額にびっしりと張り付いた汗を袖で拭った。足元に視線をやると、水溜りができている。………マクベインの汗が、窪んだ地面に溜まっていた。
十八歳の誕生日を迎えた頃、マクベインは遂に身体能力超向上の極みともいえる領域に達した。
魔力が常に体内を巡り、常時圧縮、消費、生成が繰り返される。全ての調和が保たれ、フィジカルブーストが継続される黄金比。
それは、伝説に謳われる神級魔法に比肩しうるものかもしれない。
マクベインはこの魔法に
常時身体能力超向上
と名付けたのであった。