黒幕登場です!
「さぁいよいよ始まります!シロビワナ湖夏の恒例である地区対抗戦!今回は乙女たちのドッチボールで勝敗を競うことになっています!ボールがコートから飛び出さないよう、結界師によってフィールドを構築していますので、開始まで少々お待ちください!」
おぉぉぉぉぉぉ!
外での歓声が、俺たちのいる控え室にまで届いてくる。
事務所から会場まではそれほど離れていないとはいえ、かなりの熱量だ。
「す、すごい歓声ですね……」
「うん、夏の目玉イベントだからね。そんなイベントに危うく穴をあけるところで危なかったよ」
それはあれだけ必死になるわな。
はぁ……大丈夫かなぁ……
出場しない俺が緊張しているというのに、
「これは美味いな!ハンバーグの肉汁とソースをパンズが吸収していて、こってり濃厚でジューシーだ!」
「こっちのバーベキュー串も美味しいです!とってもアツアツでお野菜もたまりません!」
「おいしい。こんなにたくさんあってうれしい」
「力がモリモリ湧いてくるよ!」
当の本人たちはテーブルを囲んでバクバクと湖グルメを楽しんでいた。
「はい、あーん♪」
「じ、自分で食べられるから!」
「もうルース君ったら、照れちゃって♪」
ルースとマリーちゃんものんきにお食事中だ。
「いいんですか?こんなにしてもらって」
俺はスタッフさん、お互いに自己紹介を終えたタフトさんに話しかける。
「腹が減っては戦はできないからね。それに出場者には食事などはこちらが用意するものなので遠慮しなくていい。君も食べていいんだよ?」
「……イベントのことが心配で喉を通りそうにありません」
「ははは、心配性は損するよ」
「それはタフトさんも同じでは?」
「そうなんだよねぇ……」
担当者のタフトさんは苦笑いをしながら、肩を落とす。
「なんとか例年通り盛り上がりつつ、無事に終わってほしいなぁ……」
華やかなイベントの裏側は、結構大変なんだな。
どんなことでも裏方の仕事が一番重要です。
マスターもいろんな人への感謝を忘れてはいけませんよ。
当然私にもです!ふふん♪
ああ、感謝してるよ。
そ、そんなに素直に言われると……照れるじゃありませんか……
強気な発言をしておいて、すぐにしおらしくなるファーナを可愛らしく思っていたとき。
コンコン。
ノックの音が聞こえてきた。
「みんないいかな?」
「「「ほうほ」」」
「なんて……?」
「……たぶんどうぞだと思います」
「そ、そうか……」
俺が通訳すると、椅子から立ち上がりドアの方へと向かう。
「おや、ワダルさんじゃないですか」
「ふふふ……失礼するよ、タフト君」
部屋に入ってきたのは、でっぷりと太ったおじいさんだった。
頭は綺麗に禿げ上がり、華やかなシャツと短パンが怪しさを増幅している。
なんというか人相も……
悪人顔ですね。
そんなはっきり言わないの!
「出場者が来れなくなったと聞いて心配していたのだが、どうやら代理を見つけたようだね?」
ジロジロとフレアたちを舐めるように見渡し、ニヤリと微笑む。
「はい、ご心配をおかけしまして申し訳ございません」
「いやいや、気にしないでほしい。それにしても可愛らしい子たちだね……でゅふでゅふ……」
ひぃぃぃぃぃ!?
視線が脂っこいですぅぅぅ!
こ、こら!本当のことを言ったらダメじゃないか!
本当なんだから仕方ないでしょう!?
「しょ、食欲が……」
「ふぅぅぅ!」
「サリアちゃん!いけません!」
「毒々……いや独特な人だねぇ……」
食事をとる手が止まり、各々が負の反応を隠せないでいた。
「あ、あの……こちらの方は?」
「ああ、北地区の統括をされているワダルさんだよ。こちら出場を受けてくれた方々の一人で、カイ君です」
「……初めまして、カイと申します」
少し、というかかなり第一印象が悪いので、挨拶も恐る恐るになってしまった。
「これはこれは、今回は窮地を救っていただきありがとうございます。おかげでイベントを進行できそうです」
だが、そんな俺の非礼をなんとも思わないのか、笑みを浮かべる。
にやぁ……と非常に悪人顔ではあるのだが……
絶対にこの人が黒幕ですよ!
何かしらの妨害工作で南地区の人たちを陥れようとしたに決まっています!
……いや?たぶんいい人だぞ?この人。
はぁ!?
「こちらもちょっとしたことでご迷惑をおかけしましたので、お力になれて光栄です」
俺はワダルさんにそっと手を差し出した。
「ふふふ……若いのになんとも心が広い人だ。初対面で握手を求められるのはいつぶりだろう」
ワダルさんは優しく俺の手を包んでくれる。
「ワダルさんは本当に見かけで損している人なんですよね……愛妻家で家族思い。このシロビワナ湖のことを人一倍愛していて、朝早く起きてはランニングがてらゴミ拾いもしてらっしゃる。まさに紳士の鏡というべき方だと自分は思います」
「褒めすぎだよ、タフト君。私は自分の好きなことの為に生きているだけなんだから……ぐふふふ……」
相変わらず笑顔は恐ろしいと思う。
「それにしてもカイ君。私のことを気味悪く思わなかったのかな?」
「……正直、最初はちょっと思いました。ただ正面で向かい合ったとき、瞳の奥に光が見えたような気がしたんです。若輩ではありますが、自分の経験上そういった人に悪い人はいませんでした」
「むふふ、多くの良い人たちと出会ってきたようだ。そういった出会いが君を成長させ、人を惹きつけるのだろう。これからも良い出会いを、そして成長を願っているよ」
「ありがとうございます」
「でゅふふふ……君のことが気に入った。良かったら孫の婿にどうかな?」
「えっ……」
俺は想像してしまった。
でゅふふふ……と笑うワダルさんそっくりの女の子を……
「ははは、いやですねぇ。ワダルさんのお孫さんはまだ五歳じゃありませんか。いくらなんでも早すぎますよ」
な、なんだ……まだ子どもさんじゃないか……
「ぐふふふ……花嫁姿を見たくてつい焦ってしまったようだ。それでは私はこれで失礼するよ」
「はい、わざわざありがとうございます」
バタン。
ワダルさんは大きな身体を揺らしながら、部屋から出て行った。
「いやぁ……すごい人でしたね」
「いやいやカイ君もすごいよ。ほとんどの人はワダルさんの人柄を初見で見抜けないから」
「たまたまですよ」
俺がふぅ……とため息をつくと、フレアたちがぽーっとした表情で俺を見ている。
「どうしたんだ?まだ時間あるから料理を食べてもいいのに」
「い、いや……」
「もう、お腹いっぱいです……」
「うん……」
「ボクもごちそうさまでした……」
「それなら、いいけど……」
俺はみんなの変わりようを不思議に思う。
さっきまでもぐもぐ食べてたのに。
「ふふふ、モテモテだねぇカイ君?」
「はい?」
タフトさんの言葉の意味がよく分からないまま、首をかしげる。
マスター……
どうした、ファーナ?
心から悔い改めようと思います……
そこまではしなくてもいいんじゃないかな……?
俺は心底落ち込んでしまったファーナを励ましつつ、時がくるのを待つことにした。




