危機襲来です!
「私の故郷であるレリアントへは大体六時間ほどだな。何もなければ午後くらいには到着するだろう」
「そうか、それまでまだまだ時間があるな」
「それだけの長時間を警戒するのも大変ですね」
俺たちは二つのチームを作り、横と後方の異変がないかを確認しながらの旅路になっていた。
サリアとルースは後方組だ。
乗客には家族連れや老夫婦、若い男女の二人といった人たちが楽しく会話をしながら、外の流れる風景を見ている。
今は草原地帯のため、見通しがいい。
そのおかげで警戒するこちらとしても楽な気分だ。
舗装された道路を進んで行くと、たまにすれ違う車両もあり、その際に一時停止してアダルさんが情報のやり取りをしている。
その話を聞いたところ、
「あっちからきた馬車も異常は無しだとよ!気ぃ張ってるのも疲れるだろうから、少し休憩したらどうだ?全員とはいかねぇから交代で頼むぜ」
「分かりました。ありがとうございます」
とのことで少し休憩をさせてもらうことにした。
話し合いの結果、先に俺たちのチームが休憩となる。
「お疲れ様です。こちら冷たいジュースです」
「おお、ありがとうございます」
お姉さんは弱い氷の魔力が発動している箱の中から、冷えた果物のジュースを取り出すと俺たちに渡してくれた。
「ふぅ……生き返るな」
「ええ、とっても!」
そうして三人がのどを潤していると、
「三人ともお疲れ様。これクッキーだけど良かったら食べて」
隣に座っている老婦人からクッキーを頂いた。
「ありがとうございます」
「これはまたサクサクしていて美味しいな」
「はい!ベアおばさんのと同じくらいです!」
「あらあら、ありがとうねぇ。そうやって美味しそうに食べてくれると嬉しいわ」
「君たちは召喚師なんじゃろう?ワシも観戦するのが趣味でのう。君たちの試合を見られるのを待っているぞい?」
「あははは、まだ一年生なんでプロの闘技場に立つのは先のことですけど、頑張ります」
そんな談笑を繰り広げていると、
「にいちゃんたちがしょうかんし?」
「ねぇしょうかんじゅう、みせて!」
なんとも可愛らしい兄妹がとことこと近づいてきた。
「あっ、こら!二人ともダメでしょ!」
母親が慌てて止めに入るが、
「だってケシムにいちゃんやエンツにいちゃんが、しょうかんじゅうみたんだってじまんしてくるんだもん!」
「サーシャおねぇちゃんもみたって!あたしもみたいよ!」
うん?どこかで聞いた名前だな?
私の兜を奪った三人の子どもたちでは?
ああ、あの悪ガキどもか。
「わがまま言ってはいけません!」
「「ふぇぇぇぇぇぇん!」」
「あっ!す、すいません……」
「ほほほ、構いませんよ」
「子どもは元気に泣くものじゃからのう」
泣き出した二人に母親は丁寧に謝ってくれ、老夫婦も笑って受け入れる。
「こればっかりはなぁ……」
「うむ……むやみに召喚できんのでな」
「うぅ……可哀想です……」
そんなとき馬車が止まる。
「少しまずいことになってな。森の方から狼の群れがやってきたせいで馬が怯えて動かないんだ」
足早に客車にやってきたアダルさんは極めて冷静に、前方の状況を伝えてくれた。
「分かりました。召喚許可をもらえますか?」
「ああ、よろしく頼む!」
依頼主から召喚の許可が出た。
「にいちゃん……だいじょうぶ?」
「こわいよ……」
再び泣き出しそうな兄妹が、心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫だ。安心して見てていいよ」
「「うん……」」
俺が安心させるように答えると、二人は落ち着いてくれたようだ。
「わたしもいく。後ろはルースが見てるから」
「こっちは任せといて!」
「そうだな、狼ならサリアが適任だ」
「追い払いましょう!」
四人で外に出てみると、狼の群れは大体十数匹ほど。
これならサリアのみで大丈夫だな。
「俺たちはサイドの警戒するから、まかせたぞ」
「まかされた。きて、お兄ちゃん」
サリアがロゼルを呼び出すと、威風堂々とおすわりしている姿で現れた。
こちらに襲って来ようとしている狼よりも、一回りは大きい姿に威厳すら感じる。
だが、
「よしよし」
わふわふ♪
サリアに撫でられ、嬉しそうにしているのを見ると、急に威厳は損なわれていった。
「それじゃいくよ」
しかしサリアが跨った瞬間、ロゼルの顔が引き締まり、
わぉぉぉぉぉぉぉん!
痺れるような咆哮を上げて狼の群れに突進していく。
きゃうん!きゃうん!
その覇気に心底怯えたようで、狼たちは一目散に逃げだしてしまった。
まったく出番なかったな。
そうですね。
一応俺たちも召喚していたのだが、周囲には他の脅威はまったくないように見える。
「おお!さすがだな!」
危険な状況が終わりを迎えると、アダルさんが運転席から笑顔で声をかけてくれた。
「ありがとうございます。馬たちは動いてくれそうですか?」
「いや、ちょっと難しいな」
「それなら馬たちの休憩ってことで、俺たちは召喚したまま周囲の警戒してもいいですか?」
「ああ、もちろん頼みたいところだが?」
「わかりました」
というわけで、俺たちは引き続き周囲の警戒を任されることになった。
「わぁ!わんわんだ!」
「ふかふかなのにすこしつめたいんだね!」
わふぅぅぅん!
なでなでと幼い兄妹に撫でまわされるロゼルは、先ほどの威厳はどこへやら。
嬉しそうに撫でられている。
「あの、よろしいのでしょうか?」
「こんなことをしてもらって……」
兄妹の両親が申し訳なさそうに尋ねてくる。
「だいじょうぶ。かんだりしないから」
「いえ、そこを心配しているのではないのですが……」
「大丈夫ですよね?アダルさん?」
「まあ召喚許可は出してあるし、少しくらいいいんじゃないか?」
アダルさんはにっと笑う。
「それなら、私もさわらせてください!」
「あっ!私もお願いします!」
すると両親に続き、他の乗客も名乗り上げてきた。
「こうしてみると、かわいいものじゃのう」
「ええ、昔飼っていたわんちゃんを思い出します」
わふぉぉぉん♪
馬が落ち着きを取り戻すまでの間、ロゼルは撫でまわされていた。
「めちゃくちゃ喜んでるな……」
「うん、お兄ちゃんがたのしそうでわたしもうれしい」
そんな姿をほんわかした気持ちで見つつ、俺たちは周囲の警戒を続けるのだった。




