大ダメージを受けました……
前回と同じようにクリス先輩へ挑戦状を突き付けてから数日が経ち、闘技場の準備が整った。
一応、剣を使ってもいいですか?とルナ先生に聞いたところ、召喚獣と一体化したカイ君が扱う分には問題ないとのお墨付きをもらえ、一安心だ。
「それではクリスさんとカイ君の模擬戦を開始いたします!前回と同じ五分間で行われます!」
いよいよクリス先輩との再戦がやってきた。
審判はいつものルナ先生だ。
「カイ!クリス先輩といえど負けるでないぞ!」
「でも無理はしちゃダメですよ!」
「がんばれ」
「サリアも頑張ってって言ってるよ!」
観客席からは仲間の応援の声が聞こえてきたので、後押しされるようにやる気が満ちていく。
「クリス!俺も応援してるぞ!」
「俺だって応援してるからな!?」
「はぁ!?お前らは引っ込んでろ!」
クリス先輩側の方にも熱心な応援があるのは少し驚いたが。
「ボクへの対策は十分練れた?変わったところと言えばその大きな剣だけど、君に振るえるのかな?」
「もちろんです。俺も剣技の練習に取り組んでいましたから」
「……付け焼き刃でボクを抑えられると思ったら、大間違いだよ?」
俺を見る瞳に怒りの感情が宿っている。
再戦を楽しみにしていた分、安直な対策にがっかりしたのだろう。
以前の俺ならその気迫にビビっていたが、フレアの殺意溢れる瞳を味わった俺には通じない。
「ふふっ……そ、それはそうでしょうね……」
いや結構恐れていますよね?
足が震えてますよ?
これは騎士震いだ。
違います。
騎士震いとは強敵と相対したときに興奮状態で震えるのです。
マスターの状態と一緒にしないでください。
……まあ強者の迫力というものは一度や二度で慣れるものではない。
そう!肉食動物から逃げ切った草食動物が、再び肉食動物と相対したとき恐れずに立ち向かえるか!?
その答えは否である!
全力でカッコ悪いことを言っていますが、その感情は正しいものです。
マスターは私が守りますので、ご安心ください。
かっけぇ……
お姫様が助けてくれる騎士に一目惚れするのが分かってしまう。
「それではお二人とも指定の位置についてください!」
俺は抜き身の剣を両手で持ちながら、後ろへと下がる。
腕の筋力強化に努めたおかげで持ち運びはなんとかスムーズに行えてはいるが、満足に振るえるものではない。
入場してくるときのこんな俺の様子を見たクリス先輩が、不機嫌になるのも仕方ない話だ。
「始め!」
「ファーナ!全部任せた!」
はい!お任せを!
「ユニユニ、行こうか!」
闘いが始まった瞬間、先ほどとは違いクリス先輩のテンションは十分に上がっている。
そして前回と同じようにユニコーンに跨り、
「初めから本気で行くよ!ブースト全開!」
クリス先輩の補助魔法が自身とユニコーンの両方に発動すると、ほのかな輝きに包まれていく。
「突撃!」
馬上から剣を突き出すと、ユニコーンがいななきながら距離を詰めてきた。
「リンクメイル」
俺は剣をクリス先輩に構え、一体化のスキルを発動する。
さあ、おいでなさい!
前回と同じようにはいきませんよ!
ファーナを纏った瞬間に手にある剣の重さは薄れ、身体は温もりに包まれていく。
「あれ?召喚獣が剣を持つのってありだっけ?まあ、いいや!」
少し戸惑ったようだが、構わず突っ込んでくる。
負けじとファーナも走り出す。
その二人がすれ違いそうになる刹那。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
せやぁぁぁ!
クリス先輩の剣が振り下ろされ、ファーナの剣が迎え撃つように下段から振り上げられた。
ギィィィィィィィン!
激しい金属音がぶつかり合った後、
「うっ!?」
クリス先輩の剣が後方へ吹き飛んでいく。
ファーナが打ち勝った上に、手のしびれも以前よりは感じない。
これも剣の重さのおかげだな。
光の剣は強度はあれど、重さはない。
だからこそ衝撃がもろに伝わってきたのだが、今のファーナの剣は十分な重さがある。
いくらクリス先輩とはいえ、片手では抑えきれなかったのだろう。
「いったん退くよ!」
剣を失ったクリス先輩はユニコーンを反転させ、剣を拾いに向かった。
だが、そうしてくるのは予想通り。
ピキピキ……
ユニコーンが踏みしめた場所には罠を仕掛けてあり、一瞬で前脚を凍らせる。
「くっ!」
クリス先輩は自分から飛ぶことで転げ落ちるのを回避するが、着地しようとした場所には、
光の剣よ!我が敵を討て!
ファーナの光の剣が襲い掛かる。
完全に捉えた!
クリス先輩は背中を向けているし、防ぐ手段は……
ヒヒーン!
ユニコーンのいななきが聞こえると同時に、クリス先輩の身体を結界が覆っていく。
倒れこんでいたユニコーンが展開したのに間違いない。
ピシィッ!
ファーナの剣は結界を貫いたが、クリス先輩の身体まで達することはできなかった。
くっ……ダメージが浅かったか。
とはいえユニコーンの反応も相当早いものだった。
自分の主を護るため、即座に危険を感知しスキルを発動させるなんて簡単な芸当ではない。
よほどお互いを大切にしている関係なのだろう。
「ありがとう、ユニユニ。助かったよ」
無事着地を済ましたクリス先輩は振り返り、結界に突き刺さった剣を見ると自分の召喚獣へ感謝の言葉を述べた。
そして剣を拾い上げると、
「ユニユニ……仇は取るからね!」
剣の柄を両手で握りしめて凄まじいスピードで突っ込んできた。
こうなったら小細工は無しです!
真正面から迎え撃ちますのでついてきてくださいよ!
できるだけ足を動かさないでくれる!?
腕は我慢するから!
そんなことは不可能です!
「ボクの怒りの一撃!受けてみろ!」
気持ちが定まらない中、クリス先輩が攻撃を仕掛けてきた。
横薙ぎの剣がファーナの胴を狙っている。
くっ!
後方へバックステップで距離をとることで回避するが、
いたたた!
意識してない身体が強制的に動かされるのは、中々辛いものがある。
「あははは!楽しい!楽しいよ!リビングメイルさん!」
ふふふ……!やるではないですか!
プリンセシオンを手にした私とここまで対等に渡り合うとは!
クリス先輩とファーナは俺そっちのけで楽しそうにしていた。
は、はやく……終わって……
達人同士の闘いに素人の俺の意識と身体がついていくには限界がある。
きもちわるい……
素早い動きで平衡感覚が……
「そこまでです!試合終了!」
「あれ?もう終わりかぁ……」
少し消化不良気味ですが、これくらいにしておきましょう。
おや?マスター?
「グルグル、回るぅ……ぐへぇ……」
マ、マスター!?
「おっと、大丈夫?」
ファーナの召喚が解け、倒れこむ俺を抱きとめてくれたのはクリス先輩だった。
あっ……めっちゃ良い香りがするぅ……
フレアと同じだぁ……
「クリス先輩……良い香りですぅ……すんすん……」
「きゃぁぁぁ!?何嗅いでるのさ!ボク汗まみれなんだよ!?」
バシバシバシバシ!
「ほげぇぇぇぇぇぇ!?」
思いっきり往復ビンタをされてしまった。
めちゃくちゃ籠手が痛い。
「クリスさん!ストップです!救護班!担架を急いで!」
「あ……ごめん……」
その謝罪に俺が言葉として答えることはできなかったが……
いいですよぉ……
クリスさんには届いてはいませんが、マスター、お見事です。
魂で答えることはできたのだった。




