雨の日の過ごし方
パチン。
憂鬱ですねぇ……
パチン。
ホントだよなぁ……
ザァァァ……
俺はファーナと戦略ボードゲームをしながら、降り続く雨の音を聞いていた。
せっかくの休日だというのに昨日からついていない。
昨日は昨日で他人のラブシーンを見せられるという不運に見舞われたというのに。
むむっ。
そう来ますか。
お互いの王を騎士や召喚獣の駒で追い詰めていくゲームだが、意外なことにファーナは弱い。
なぜかというと、
さあ、騎士たる強さを見せなさい!
ファーナは大きく右腕を振り上げると、騎士の駒を盤に叩きつけた。
パチン!
後先考えずに突撃してくるからだ。
ほい、いただき。
パチン。
ああ!?私の騎士が!?
いくら強い駒だとしても、敵陣で囲まれてしまえば為す術がない。
よくそんなので騎士をやってこれたな?
実際の戦闘で相手の軍に合わせて対応したりしなかったのか?
騎士は騎士らしく全力突撃です!
そうして武勇を誇るものなのです!!
お父様!出撃ですよ!
パチン!
王様が前に出過ぎたらいかんだろ。
討ち取ったりぃ。
パチン。
お父様ぁぁぁぁぁぁ!?
うぅ……またしても負けてしまいましたぁ……
申し訳ございません……
がっくりと落ち込むファーナの鎧姿を見ると、何とも言えない申し訳なさがこみあげてくる。
つ、次は俺に剣を教えてくれよ。
外は雨で無理だから、集会場に行こうぜ。
はい!お任せください!
ファーナはウキウキで駒と盤を片付けると、俺の中へと戻っていった。
そして運動着に着替えてから部屋を出ると、集会場へと向かう。
普段は特に使う場所ではないが、雨の日の運動場として活用されている場所だ。
備品として木剣もそこに置かれている。
今さら俺が剣を練習したところでさして効果はないと思うが、少しでも強くなりたい。
だからこそ経験を積んでおこうと、空いた時間があればファーナに教えてもらうようにしている。
ガラガラ。
「ふっ!」
集会場の扉を開くと、先客がいるようだ。
声の方を見ると、運動着を着たフレアが木剣を振るっていた。
剣と同時に赤いポニーテールが元気に揺れている。
「おや、カイではないか?貴様も訓練をしにきたのか?」
「ああ、今日も精が出るな」
「あいにく身体に染みついたものでな。剣を振っていないほうが落ち着かんのだ」
「ははは、フレアらしいな」
うんうん、良い心がけですね。
「そうだ、私と一戦どうだ?オーレリア様に稽古をつけてもらっているのだろう?」
「いやいや、さすがに相手にならないって。最近習い始めたばかりで付け焼き刃もいいところだぞ?」
百戦やって全敗は間違いない。
もはや悔しいとも思えないほどだ。
「カイはクリス先輩と闘うのだろう?あの人ほどのレベルではないが、私も一応は剣を主体として闘う人間だ。何かしらのひらめきがあるかもしれんぞ?」
「なるほど……」
確かに何かをつかめるかもしれないな。
それに最初から負けると決めつけてしまえば楽だが、成長はしない。
一本でも取れるように頑張ってみよう。
マスターその意気です!
俺は立てかけてある木刀を手にすると、適度な距離を取って、
「それじゃあお手合わせをよろしくお願いします」
フレアへと一礼をした。
「こちらこそ、よろしくお願いする」
礼を終えて、お互いに剣を構える。
そして一瞬の静寂な後、
「はぁっ!」
強烈な横薙ぎのフレアの剣が俺の胴を狙ってきた。
ガツッ!
縦に構えた俺の剣がなんとか防ぎ、堅い木剣同士がぶつかり合う。
あ、あぶなっ……ファーナの剣筋を何度も見ていなかったら防げていない。
「良い眼に育ててもらっているようだ。しっかりと私の剣先を眼で捉えているからな」
「ギ、ギリギリだよ……!」
グググッ!
なんとか受け止めてはいるものの、力が込められている剣は易々と止まることはなかった。
ビリビリと手が痺れる中で、ファーナとレオン先輩との闘いを思い出した。
確かあのときは、滑らせるように剣を……
「おっと」
「あれぇ!?」
突然フレアの剣から力が抜けたせいで、前へと倒れこんでしまう。
どんどんとフレアの身体へと近づいていき、
ドンッ!
「あいたたた……」
俺は鼻に痛みを覚える。
どうやらぶつけたようだ。
「……柔らかくなくて悪かったな」
フレアの胸へと。
「そんなことは言っていない!」
確かにリーナやサリアならこれほどの痛みはなかったとは思うが、今思っただけだ!
それに……
「ちょっとした柔らかさは感じたぞ?」
マスターは火に油を注ぐのがお好きなのですか?
素直な感想をフレアに伝えたのだが、まずかったようだ。
「ちょっとしたもので悪かったな!」
「悪意ある捉え方はしないでくれない!?」
「死ねぇぇぇ!」
むっ!右に飛んでください!
「どっせぇぇぇい!」
天高くから振り下ろされたフレアの剣は木の床に突き刺さった。
あんな剛剣を受け止めていたら、どんなことになっていたやら……
「ふふふ……よけたなぁぁぁ……?」
ゆらぁ……
「ひぃぃぃ!?」
ギラッと光る血のように紅い瞳が俺を睨みつけてくる。
マスターは下がってください。
私が受け止めますので。
ま、まかせた!
ファーナを召喚すると、頼もしい背中が目の前に現れた。
「オーレリア様!そこをどいてください!」
これでも私のマスターですので、その願いは聞けませんね。
「ならば力づくでも!」
かかってきなさい!
ファーナは俺の持っていた木剣を拾い、フレアの木剣を受け止めた。
理屈は不明だが二人は普通に会話している。
魂が共鳴したとでも言うのだろうか?
「せやぁぁぁ!」
なんの!
お互いの剣がぶつかり合う中で、少しづつフレアが落ち着いていくのを感じた。
「これでどうでしょうか!?」
中々ですが、まだ甘いですね!
そしてさらに時間が経過すると、
「はぁはぁ……ありがとうございました」
フレアはファーナに向かって一礼をした。
良い太刀筋でしたが、怒りに任せてはいけませんね。
フレアに向けたアドバイスだったが、聞こえていないようだ。
「カイ、オーレリア様と闘わせてもらったこと、感謝する」
闘いでスッキリしたのか、フレアはすっかりと元に戻っている。
「い、いやぁ!凄かったよ!」
「そ、そうか?うん?そう言えばなぜ私はオーレリア様と闘っていたのだ?」
「クリス先輩との模擬戦のために剣の闘いを見学させてもらっていたんだ!」
うまい具合に小さな嘘を混ぜていく。
「そうだったか。どうだろう?参考になったか?」
「もちろん!プレッシャーに負けない精神力を身につけたよ!」
激怒したフレアのあのプレッシャーに勝てる者はいないはずだ。
「それならば良かった。汗もかいてしまったことだしこれで失礼する」
「あ、ああ!お疲れ様!」
フレアは木剣を片付けると、女子寮へと続く扉を開けて出て行った。
「ふぅ……助かったよ……」
何のことですか?
「えっ?」
フレアさんもどんどん強くなってきていますので、私は楽しみでなりません!
どうやらファーナもスッキリしたようだ。
ならば、今日のことは俺一人だけの胸にしまっておこう。
フレアのほんのり柔らかい感触とともに……




