スキル発動します!
「では、授業を始めます」
今日も今日とて見目麗しいルナ先生の授業が始まる。
パンツスーツが色っぽい……
これだけでも俺にとって幸せと言って間違いない。
「今日は魔力についてです。魔力は誰にでもあるものですが、規定値以上を持つ人以外はこの学園に入れません」
「何故魔力が必要かというと聖霊界にいる召喚獣を具現化させている為、維持コストが必要だからです」
「そして自分でも攻撃魔法を使うためにも魔力は必要ですし、召喚獣のスキルを使うためにも必要です。召喚獣は自分が具現化した存在なので召喚士を通してしか魔力を使えないからです」
「以上のことから魔力がどれだけ大事か分かりましたか?」
「「「「はいっ!」」」」
「よろしい。では魔力を増やす方法はあるのかと言われればあります」
「魔力をギリギリまで使いそして回復させる。超回復というのですがこれにはリスクもあり、やり過ぎてしまうと体調を崩してしまいます」
「魔力というのは体調とも綿密な関係があり、せっかく最大値を増やしても使えないということになります」
「ですので、ほどほどにするトレーニング方法だと覚えてください」
「次に有効なのは慣れることです。同じ魔法やスキルを使用し続けると魔力コストが減っていきます。
それは召喚獣も同じです。信頼性や経験によって維持コストが下がっていきます。これはどうすれば効率よく動かせるかを無意識の内に学んでいくためだと言われています。コストを数値化することは出来ませんので感覚を頼りにしていってください」
「分かりましたか?」
「「「はいっ!」」」
「では午後からは、軽い戦闘訓練を行います」
「防御魔法を展開し地面に突き刺した木材を召喚獣で破壊することを目標とします」
「それが出来れば本日は終了となるので、早く終わると自由時間です。ではこれで午前の授業は終了となります」
「「「ありがとうございました!」」」
ルースと昼食を食べに行く。
「いやぁまいったなぁ」
「どうしたの?カイ?」
「俺の召喚獣、武器ないじゃん?」
リビングメイルというだけあって鎧しかない。
夢では剣を持っていたのだが今は手ぶらだ。
「あっそういえば……」
「ひたすらパンチするしかないんだよなぁ」
「召喚獣に武器を装備させるのは駄目だからね。元から持ってるなら別だけど」
昔は武器や防具を持たせていたのだが、強力な武器や防具をもつ上のランクの人が上位を独占するようになった。そのため召喚獣に関しては武器や防具の持ち込みは反則となったのだ。
「そうなんだよな……まっ、何とかするしかないか」
「うん!頑張ろう!」
「おうよ!」
……拳で木材を破壊しようとする女騎士を想像する。
少しシュールなその姿に笑ってしまった。
その後、昼休みも終わり、グラウンドに集まる一年生。
「皆さん揃いましたね。木材が立っていますが、朝言った通り結界で覆っていますので見た目よりは耐久性が高いです。そのため破壊することはそう簡単ではありません。皆さん頑張ってくださいね。では各自バラけてください」
ルナ先生の言葉で各々が場所を決めていく。
ここでいいや。
俺は適当に空いている場所に立つ。
「では始め!」
来い!ファーナ!
召喚に成功し、見慣れた鎧が現れる。
「前の木を折ってくれ!」
ファーナはのしのしと歩き出し、木材を殴り始めた。
ガキィィィン!
だが鉄と鉄がぶつかり合ったような音が響き、びくともしない……
マジで硬いな。
「まあ、何度も殴ったらその内折れるだろう!頑張れファーナ!」
気合と魔力を込めて命令を出した瞬間。
「終了しました」
「ふぅ……終わりました!」
「おわった」
同時に聞こえる終了のお知らせ。
ばっと振り返ると女子三人組だった。
燃えカスになっているもの。
真っ二つになっているもの。
氷で粉々になっているもの。
様々だが完全に破壊されていた。
「合格です。この後は自由にしてください」
「はやっ……」
圧倒的な早さに驚きを隠せない。
その間もファーナは頑張って正拳突きをするが、少し震える程度だ。
そうして時間は過ぎていくと他の合格者も出始める。
合格者は増えていき、最後に残されたのは俺だけだった。
ルースも早めに終わり俺の隣で応援してくれており、ルナ先生も残ってくれている。
「カイ君、彼女にはスキルが無いのですか?」
「初日にリーディングした時は、何もなかったんですよ」
「その後彼女と何か進展はなかったですか?」
なんだか意味深な言い方に聞こえるのは気のせいだろうか。
「進展って何ですか?」
「彼女を宿したことで変わったことがありませんでした?召喚獣によっては繋がりを深めることによって身体能力を補助してくれる効果があるのです。体が軽くなったり、力が増したりと。こうしたことがあればスキルが芽生えたとしてもおかしくありません」
「身体能力はよくわかりませんが、変わった夢を見ましたね」
「夢?」
「ええ、ファーナの過去の様なものが見えました。あと声が聞こえる様になりましたね、たまにですけど」
「なるほど。そこまでお互いの信頼性が上がっているのなら、何か習得しているかもしれませんよ?もう一度リーディングしてみてはどうですか?」
「分かりました。ファーナ、一旦ストップで戻ってきて」
ファーナが戻って来ると、彼女に触れて唱えた。
「リーディング」
攻撃 155
防御 255
素早さ 65
魔力 60
スキル 光の剣 耐久性補助スキルLV1
称号 騎士
「あっ!光の剣っていうのがある!」
確かこの部分は解読できなかった部分だったと思うが、今ははっきりと頭に浮かべられている。
それに耐久性補助まで増えているということは、自然と守ってくれていたんだな。
そういえば今日の朝、部屋で寝ぼけてベッドの角に頭をぶつけたとき、痛かったは痛かったけど大分マシだった気がする。
なんだか嬉しいな。
ありがとう。
「使ってみなよ!」
「そうですね」
「分かりました!」
初めてのスキル発動だ。
なんだか興奮するな。
「ファーナ!光の剣であの木を切れ!」
イエス・マスター……
ファーナは右手を前に出した。
すると右手が光りだし、光が形を成していく。
そして一本の剣を持っているファーナの姿があった。
そして素早い動きで斬りかかる。
ヒュンッ!
光の剣は確かに木の杭を通り過ぎたはずなのだが、変化は全くなかった。
しかし少しの静寂の後、斬られたことを思い出したかのように木は斜めに両断されていく。
「やったぁ!すげーじゃん!ファーナ!」
「すごいね!カイ!」
はしゃぐ俺たちをしり目に、ルナ先生は木材を手にして切断面を見ていた。
「なんて切れ味なの……?断面が完全になめらかだわ……」
驚くルナ先生。
だが、俺は急に力が抜けていくのを感じて座り込む。
「大分、疲れましたね……」
「魔力切れが近い証です。召喚を解除してください」
急いでファーナの召喚を解く。
「少し楽になりました……」
「長時間の召喚維持に加えて、スキル消費で魔力が少ないのでしょう。歩けますか?」
「なんとか……」
立ち上がりなんとか歩こうとするが、体はふらつく。
「肩につかまりなさい」
「はい?」
「歩けないのでしょう」
「ルースに頼みます……」
「彼では体格的に無理でしょうし、疲れも残っています」
「いや、でも……」
疲れよりも恥ずかしさが勝る。
「抱き上げましょうか?」
それは絶対に嫌だ!
「肩でお願いします……」
ルナ先生はしゃがみ、
「掴まってください」
ルナ先生の肩に手を回し、体が密着する。
やわらけー!良い香り!脇腹辺りに柔らかいものが……!
おちつけ……!
「すごいですね……」
えっ!何が!俺は下を見たが耐えている!
「貴方の召喚獣ですよ。あそこまで綺麗な断面は初めて見ました」
「そうなんですか。相性が良いんですかね?」
「それは分かりませんが、経験を積むと貴方達は強くなるでしょう」
「すごいじゃんカイ!」
「ああ!」
結局、部屋まで肩を貸してもらう。
すれ違う男子生徒に睨まれて、気まずい思いをしてしまった……
部屋で重い体を休ませ、なんとか歩けるようになる。
夕食を取り、風呂に入るとさっさとベッドにもぐった。
俺は胸に手を当て、
「ファーナ、少し思い出したのか?」
今日使っていた剣は夢で見たものだった。
「そうやって少しずつ思い出していけばいい。君は立派な騎士なんだから」
ありがとう、マスター。
うん?たどたどしい話し方ではないように聞こえたと思ったが、考える間もなく眠りに落ちていた……