一歩ずつ前へ!
「はぁ……なんにも思いつかん」
寮内掃除を終えて、数日がたったある日の夜。
俺は自室でベッドに横たわり、頭を悩ませていた。
クリスさんへの対策ですか?
ああ、勝つためには何もかもが足りないんだよな。
例えばどのようなものが必要なのでしょう?
まずはクリス先輩の戦闘力。
この前の模擬戦では明らかに余力を残していた。
それに召喚獣もユニコーンだけじゃない。
まだまだ分からないことが多すぎるんだよな。
戦において自分と相手の戦力を把握するのは大事ですからね。
そうそう。
次に俺自身の魔力量だな。
ファーナが全力を出せないんじゃ、マスターとして失格だ。
それに関しては、申し訳ありません。
なんでファーナが謝るんだ?
自前の武器があれば良かったのですが、あいにく手ぶらです。
なので消費の多い光の剣を召喚するしかありませんので。
生み出して、維持してだからなぁ……
かと言って俺の用意した武器を持たせるのはルール上、ダメ。
相手のを奪うのはいいけど、そう簡単に奪えるわけもない。
さすがに無手で相手するのは無理なので、難しいところです。
ホントだよ。
後、大きなところで言うと時間だな。
クリス先輩が在学するのは、あと一年もない。
卒業してしまったら、気軽に模擬戦ができなくなる。
それが一番の難問のようですね?
その通り。
何か少しでも進展したらクリス先輩に再戦を挑もうと思っているんだけど、これといってなぁ……
焦りは禁物です。
今は勝てない相手だとしても、マスターの人生においてまだチャンスはいくらでもあります。
ですので、あまり先を見すぎないようにしましょう。
マスターは山を登っている途中なのですから。
山?
ええ、人の成長は一定ではありません。
そして大きく成長する時はマスターのように若い世代です。
マスターは今、山を登るようにグングン成長しています。
だからこそ、足元をおろそかにしないようにしてほしいのです。
ありがとう……本当にファーナがいてくれて良かったと思う。
突然なんですか?
自分の全てを相談できる相手がいて、納得のできる答えをくれる。
こんなに幸せなことはないだろうから。
……もう、遅い時間ですよ。
早く寝ないと明日に響きます。
そうだな……少し、眠くなってきた……
お休み、ファーナ……
良い夢を……マスター。
胸に温かいものを感じつつ、俺は眠りについていった。
そうして部屋の主が眠りについた後。
月明かりが照らす室内に、月とは違うほのかな光が女性の形へとかたどっていく。
長い髪をたなびかせ、生まれたその姿は在りし日のファーナ、いやオーレリアと呼ぶべきだろうか。
私の方こそありがとうございます。
私のようなものを家族のように接してくれるマスターがいてくれて、幸せです。
……少しだけ不敬をさせてください。
カイ、おやすみなさい。
私の可愛い弟のような人……
そして、彼女は微笑みながら手を伸ばした。
愛おしい弟の頭へ。
だが、鎧のない彼女の手は触れることができなかった。
その事実が自分がこの世のものではないということを、彼女の魂へと明確に突きつけていく。
すぅ……
光が彼女の瞳からこぼれる。
それは間違いなく、涙なのだろう。
そうして傷つく彼女だったが、
あ、温かい……?
手にほんの少しだけの温もりを感じていく。
その温もりは生命のみが発する優しいもの。
初めて、あなたに触れることができました……
このような奇跡があっていいのでしょうか……
誰に感謝を伝えるべきか分からない。
それでも彼女は、その言葉を口にするしかなかった。
ありがとうございます……




