クリスだって女の子なんだよ……?
「いやあとっても楽しかったよ!」
「それは良かったです。それにしてもみんな汗でびしょびしょだな……」
スタミナ抜群なクリスとフレアに比べて、リーナとサリアは疲れ切った様子で女子寮の中を歩いていた。
「……お風呂入りたいです」
「まちがいない……」
「いいね!準備してくるからみんなで入ろうよ!それじゃまた後で!」
クリスは返事も聞かずに、走っていってしまった。
「まったく……元気な人だな」
「ふふっ……なんだか妹みたいな感じがしちゃいます」
「かわいい」
そんな感想を言いつつ、三人は自分たちの部屋へと戻っていく。
そして準備を済まし、浴場へと向かうと、
「むぅ……みんな遅いよ?」
そこにはすでに準備万端なクリスが退屈そうに待っていた。
「お待たせしました」
「クリス先輩は早いですね。あれ?お荷物は?」
「なんにももってないの?」
「荷物?何かいるの?」
「シャンプーやトリートメントなどですが……」
「洗顔フォームもありますよ」
「着替えは必要」
液体が入った瓶を何本か入れた木製の化粧箱をリーナが持ち、フレアが自分とリーナの着替えが入った布袋を、そしてサリアは自分の着替えの入った布袋を持っている。
「あはは、そんなの使ったことないよ?お風呂場には石鹸もあるし、タオルもあるからね」
「なっ!?」
「んぅ!?」
「と?」
衝撃を受けたフレアとリーナ。
サリアはよく分かっていないが、言葉を続けたようだ。
「どうしたの?」
「髪は何で洗っているのでしょう……?」
「もちろん石鹼だけど?」
何でもないように答えるクリスだったが、
「「……!?」」
フレアとリーナは力を失ったように、がくりと膝をついた。
「私が丹念にケアしている髪が石鹸と同じ……?」
「フレアちゃんに教わって頑張ってトリートメントしているのにぃ……」
「クリス先輩、はやく入ろう?」
「そうだね!君たちも早くおいでよ!」
ショックを受けた二人を置いて、のほほんと脱衣場に入っていくクリスとサリア。
「サリアも何もしていなかったのに、綺麗な髪だったな……」
「はい……それにお肌もプルプルです……」
「いっそ、私たちも真似てみるか……?」
「絶対にボサァってなりますよ……」
「……人生って理不尽だな」
「はい……」
二人はすくっと立ち上がり、トボトボと力なく脱衣場へと入っていく。
「あっ、二人とも遅いよ!」
「リーナ、身体洗って欲しい」
だが、そんな二人が目にしたのは、
ぷるん、ぷるん。
大きく揺れる、四つの白桃。
あまりにも無情な現実だった。
「風邪ひきますから、先に入っていてください?」
「サリアちゃん、すぐ行きますからね?」
「はーい!」
「わかった」
フレアとリーナは、考えるのをやめた。
それは人の持つ防衛本能だったのだろう。
「きもちいぃ……リーナとってもじょうず……」
「ふふっ……ありがとうございます」
リーナがサリアの髪を洗ってあげている隣で、
「サリアちゃん、とっても気持ちよさそうだね」
石鹸で髪を洗おうとしているクリスがいた。
「クリス先輩も石鹸は身体だけにして、髪はシャンプーを使ってください」
「えぇ?ボク持ってないよ?」
「私たち三人で使ってるものをお貸ししますので」
「な、なんだか恥ずかしいからいいよ……」
「石鹸使っている方が恥ずかしいんです!」
「わ、わかったから!使い方教えてくれない?」
「こうして良く濡らした毛先から包み込むように……」
「あ、あははは、女の子みたいだね……」
「女の子でしょう!?」
「そうなんだけどぉ!ボク、男兄弟ばかりだからなんだか恥ずかしいんだよぉ!」
「……それに末っ子ですね?」
「よ、よく分かったね?」
「ふふっ、そんな気がしました」
「ありがとね。女の子のこと、こんな風に教えてくれて……」
クリスは年上とは思えないあどけない笑顔をフレアへと向けた。
「……この甘え上手さんめ!」
「フレア、顔真っ赤」
「うふふ……そうですねぇ」
クリスはフレアに教わりながらシャンプーとトリートメントを行い、浴場から出た後はしっかりと髪を乾かした。
「この香油を寝る前に髪に軽くつけてください。朝起きるととってもいい香りがしますから」
「わ、わかった。ありがとう」
そうしてたっぷりと髪の毛をケアした翌日。
クリスの教室では、
「……ク、クリスからとってもいい香りがするんだが?」
「ああ……それにいつもよりも髪がサラサラというか……」
「おい、いつもみたいに声かけて来いよ」
「む、無理だって!」
なんだか今日は誰も話しかけてくれない……
髪、変なのかなぁ……
そんな風に悩ましく思っていると、ゼルウェルが教室に現れた。
「おや、クリス?今日は一段とキレイな髪だな。サラサラではないか」
そう言うと、教え子の頭を優しく撫でる。
「ほ、本当ですか……?」
「うん?本当だが、憂鬱そうな顔をしてどうした?」
「今日は誰も声をかけてくれなくて……」
「ほぉ……」
ニヤニヤしながらクラス内を見回す。
その視線に居心地の悪さを感じる男子生徒たち。
「いい男は褒めるものだ。覚えておけ、少年たちよ」
「う、うるせぇ!このイケメン親父が!」
「こちとら思春期真っ盛りなんだよ!簡単にできるか!」
「ははは、すまんすまん」
「親バカ親父は孫の心配でもしてろ!」
「オイ!?今の誰だ!馬鹿野郎!」
爽やかに受け流していたゼルウェルだったが、
「……今日は一日中俺と組手だな」
娘のことになると受け流せないのだった。
「「「いやだぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「おらぁ!もう一本!」
「「「も、もう無理……」」」
「先生お願いします!」
「よしこい!」
三年生の授業は、クリス以外の地獄となるのだった。




