正々堂々と果たし状を渡しに行きます!
クリス先輩に挑む!
俺の腹はそう決まった。
ジロジロ。
「なんで一年が三年のフロアに来てるんだ?」
「さぁ?」
挑戦状を叩きつけに行くため、休み時間に三年生の教室フロアに来たんだが……
非常に注目を集めてしまい、なんともいたたまれない気持ちになってしまう。
や、やっぱりルースに着いてきてもらった方が良かったかな……
友人同伴で挑戦状を叩きつけるなんて恰好がつかないでしょうに?
それにこのようなことで恐れを抱いていては学園最強に挑むのは時期尚早です。
引き返した方が良いのでは?
べ、別に怖がってなんていないし!?
「あれ、カイ君じゃない。どうしたの?」
ポン。
俺はいきなり後ろから肩を叩かれた。
「ひゃん!?」
……とても可愛らしい悲鳴ですね?
その呆れたような口調はやめてくれ!
少しビックリしただけだから!
「あはは、驚かせちゃったかな?」
「べ、別に驚いてませんが!?こ、これを渡しに来ただけです!」
慌てふためきながら、俺は両手で手紙を差し出した。
「……こういうのは、もっとロマンチックな場所で渡してほしいな」
すると、クリス先輩は急に頬を染め、恥ずかしそうに顔を隠す。
「何を言っているんです?」
「ラブレターでしょ?」
「ちがぁぁぁぁぁぁう!果たし状ですよ!模擬戦の依頼に関して俺の名前を書いたんで!あとはクリス先輩が名前を書いて提出してください!」
「えっ……婚姻届け?」
「あほかぁぁぁ!」
おもいっきり手刀をクリス先輩の頭へと繰り出したのだが、
ぎゅっ!
途中で掴まれてしまった。
「あはは!冗談が過ぎたようだね!うんうん!ボクは嬉しいよ!」
そして空いた手で、嬉しそうに俺の手紙をスカートのポケットに入れる。
結構本気の一撃だったので、避けるならまだしも掴まれるとは思ってもいなかった。
それも文字通りの片手間でだ。
中々の動体視力ですね。
フレアさんやセツカさんよりも間違いなく強いです。
これは楽しみになってきました。
嬉しそうなクリス先輩に燃えているファーナ。
「おいおい?正気か?一年がバケモンの相手なんか務まるのかよ?」
そんな良い雰囲気をぶち壊すような言葉が横からかけられ、クリス先輩の笑顔が凍る。
「フェルド君……」
クリス先輩にフェルドと呼ばれたとげとげの茶髪男子生徒は、俺を嘲笑うように話しかけてきた。
後輩とはいえ初対面で人を見下すような目をする奴は、ろくでもない奴と相場が決まっている。
フェルドなんて大層な名前はいらん。
チンピラ先輩でいいだろう。
一応先輩は付けるんですね。
まあ一応な。
「お前さぁ?こいつに何言われたか知らないけど、模擬戦なんかやめとけ。ぶっ壊されるだけだぞ?」
「勝負はやってみないと分からないでしょう?」
「お前は知らんだろうが、こいつに模擬戦でぶっ壊された可哀想な同級生がいるんぜ?死にはしなかったが既に退学済みだ。こいつとは仲良しで結構強かったのによ?」
それは初耳だ。
だが、それがどうした。
「お互いが納得して闘った結果に他人が口出しするな」
「……お前、誰に口きいてんだ?」
「召喚師としての覚悟もできてないお子様にだけど?」
「っんだとぉ!?」
「俺の好きだった召喚師は闘って死んだ!それでも遺された妹への手紙には、相手を恨まないでくれ。そう書いてあったんだ!」
俺は、以前にサリアから教えてもらった。
召喚師なら必ず書く、遺書の内容を。
もっとサリアの成長を見たかったと書かれていた中で、それでも相手への敬意を忘れてはいなかった。
それが闘いに生きる召喚師という生き方を選んだ人の誇りだと、今なら分かる。
……幼いころはめちゃくちゃ恨んだけどな。
「だ、だからといってだ!人をぶっ壊しておいてのんきに笑っていられる方がおかしいだろうが!」
「……君に何が分かるんだ!」
今まで黙っていたクリス先輩の心からの叫びが、その場を静かにさせる。
「今でも思い出す!ボクの剣が友達の足を砕いた感触と痛みに歪む表情を!」
初めて会ってからいつも笑顔だったクリス先輩の瞳から、大粒の涙が溢れている。
「……それでも!試合が終わった後、言ってくれたんだ!なんとか生きてるし歩くこともできる。だからこれからは一ファンとして応援するからよ。俺の分まで上を目指してくれよな?クリスならできるから」
「そう言って、笑ってくれたんだ!だからボクは強くなることを諦めない!それが彼に返せる唯一のものだから!」
全てを吐き出し、はぁはぁ……と荒い呼吸を続けるクリス先輩。
……クリス先輩。
人の想いは、託す側よりも託される側の方が辛いのではないでしょうか。
私もそうでしたから。
だからこそ、託された者は強いのです。
一人ではないのですから。
ファーナ……
ああ、そうだな!
「クリス先輩!正々堂々と勝負です!」
「カイ君……うん、ありがとう!」
俺とクリス先輩が握手を交わした、そのとき。
「見事。それでこそ召喚師の卵というものだ」
めちゃくちゃ渋い声が俺の背後から聞こえてきたんだ。
「ゼルウェル先生……」
振り返ると、歴戦の戦士とも言うべき風格を纏う壮年の白髪男性が立っていた。
「クリス、そしてカイと言ったか?相手の想いを継ぐ強さ、そして強さへと挑戦する心。私にも滾るものがあるな。だが……」
ギン!
鋭い目つきがフェルドに向けられる。
「ひぃっ!?」
「フェルド、貴様には何もない。同級生の失意を受け継ぐ器も、上を目指す勇気も。何を想い、何をしにこの学園に来たのか。もう一度考え直してみるがいい」
「わ、わかりました……」
しゅんとうなだれた瞬間、休み時間を終える鐘が鳴った。
「そろそろ授業が始まる。君も自身のクラスへと帰りたまえ」
「は、はい!」
「カイ君……」
教室へと戻ろうとすると、クリス先輩に声をかけられる。
「なんでしょう!?」
「ありがとね……」
そこで俺はとびきりの笑顔を向けられると、
ま、まぶしい!?
簡単に俺の心を掴んでしまった。
「い、いえ!とんでもございません!それでは!」
「ふふふ……少年にはちと酷だったか」
「な、何がですか?」
「何、独り言だよ」
はぁぁぁ!?めちゃくちゃ可愛いぃぃぃぃぃ!?
……
いつもならここでファーナのツッコミがあるのだが、今日は静かだ。
お、お父様に似てらっしゃる……
とっても素敵でしたぁ……
ファザコンを発動していた為だった。




