女の子の想い
私は、フレア・ラーカシア。
誇り高き騎士の一族に産まれた。
だが平和な時代に騎士などいらない。
どんどんと軍事費用は削減されていき、騎士という職業は過去の遺物になっていっている。
わずかに残された仕事は、犯罪の取り締まりなど治安維持が主な仕事だ。
平和な世で、少しずつラーカシア家は衰退していっている。
平和が嫌いなわけでない。
ただ私は騎士の戦う様子を童話や絵本で読み、憧れを抱いていた。
そうして成長した私は、父に剣術や戦闘に特化した魔法を習い、強さを手に入れることが喜びを感じている。
しかし治安はますます良くなり、騎士団への費用は下がっていく一方だ……
そして私は決意をした召喚師になる!
勝ち進み、莫大な賞金でラーカシア家を再興し名誉を取り戻す!
父は反対した。
あんな見せ物などは許さん!と。
だが今この国の最大の名誉は召喚師だ。
父の教えてくれた戦闘技術で勝利し、ラーカシア家を再興したい!
私の強い想いを父にぶつけた。
わかった……そこまで言うのならもう何も言わん。
無事に帰ってこい。
父の初めて見る寂しげな表情は……少し胸にくるものがあった。
そうして私はルードリア学園へと入学を果たす。
私はこの学園で最強となりラーカシア家を再興する!
誰であろうと敗けはしない!
わたしは、サリア。
早くに両親を亡くしたけど、幸せだった。
年の離れた兄がいたから。
召喚師だった兄は強くもなく弱くもない普通のランク。
そんな兄の試合がある日、兄は大ケガを負って負けた。
倒れた兄に向けられたのは容赦ない罵声。
バカヤロー!
何してんだよー!
そのままくたばれー!
賭け事だということは知っていた……
でも、そんな……
わたしは医務室に駆け込んだ。
兄は瀕死の状態。
治癒師たちも懸命に治療していてくれたが兄は死んでしまった。
最期までわたしの心配をして……
わたしは遺族年金で生活をしながら勉強した。
得意だった弓を毎日毎日練習する。
わたしが兄の目指した夢をかなえるために。
兄は言っていた。
もっともっと強くなって勲章をもらったりしてみたいと。
それをかなえる。
ただそれだけがわたし。
そのためにも負けない。
国王から勲章をもらって兄に捧げるんだ。
そして死んだ兄の名誉を取り戻すまで、わたしは負けない。
私はリーナ・ホリィです。
物心ついたときには教会の孤児院にいました。
シスターは皆に優しく接してくれて幸せでした。
しかし孤児院の経営は難しくなっていきます。
補助金は頂けるのですが皆の食費で消え、傷んでいく建物を直すのは困難でした。
大人になった元孤児からの援助もあるのですが、皆が皆、余裕ある生活をしているわけではないのでそれほど多くはありません。
そのため、私は召喚師になることをシスターに告げました。
回復魔法や神聖魔法を習っていましたし、そういうタイプの召喚師もいることを知っていたからです。
しかも合格すれば、三年間授業料や食費は全て免除だというのですから費用の心配もありません。
シスターには、貴方は闘いには向かない優しい性格なの。やめてちょうだい……
泣かれてしまいました……
でも、この孤児院を建て直したい!
私の家を失くしたくないの!
気づけばシスターに泣きながら訴えていました。
するとシスターは、ごめんなさい、ごめんなさいね……?
涙ながらに無事でいてね、と優しく抱きしめてくれたのです。
私はシスターや小さな子供達の期待を背負い、ルードリア学園に入学しました。
負けられない。
あの優しくて暖かい場所を守るためにも……
召喚の儀式が終わり、自由行動になった。
「いまからどうするの?」
「こいつを洗ってやるよ。綺麗な鎧が可哀想だろ?」
「あはは、カイは優しいね。手伝いたいけどちょっと疲れちゃったから、僕は寮に帰るよ」
「気にすんな!じゃあまた食堂で会おうぜ!」
「うん、またね」
そうしてルースは去っていった。
俺は用務員のおっちゃんに洗い場を教えてもらい、鎧の磨き粉やらたわしを借りた。
井戸の近くに移動し、リビングメイルを召喚する。
「寒いかもしれんけど、我慢しろよ?」
遠慮なく水をかぶせ、汚れを落とす。
そして磨き粉をつけたたわしでゴシゴシと洗っていく。
綺麗になっていく様子は楽しかった。
黒ずんでいた鎧が白銀の輝きを取り戻していっているからだ。
しかしひとつ問題があった。
それは胸の部分だ。
いくらリビングメイルで中身はないとはいえ、健全な男子としては、意識をせざるをえない場所。
だが、その部分のみ汚れているのも嫌だ。
恐る恐る手を伸ばし、ゴシゴシと胸当てを洗う。
ハズカシイ……
うん?また声が聞こえたような?
「しゃべったか?」
リビングメイルに問うが反応はしない。
気のせいか?
全身を磨き終えると鎧はまるで新品のように輝いている。
「おお!綺麗になったな!見違えたぜ!」
次は能力値を見てみようと、
「リーディング」
キーワードを唱える。
すると数値化された能力値が頭の中に入り込む。
攻撃 150
防御 250
素早さ 60
魔力 0
スキル ???
称号 忘却されし騎士
うーん?
他のやつの能力値が分からないから、なんとも言えないがどうだろう?
スキルもわからんし、魔力値は0。
前衛で闘ってもらって、攻撃魔法でやっていくしかないか?
「まあ、君に決めたんだから!ぐだぐだ言ってもしょうがないしな!よろしくたのむぜ!」
ただ、名前が無いのも不便だな。
リビングメイルっていうのもあれだし、 女の子っぽい騎士の名前……ファーナ!
「うん、なかなかいいんじゃないか?よろしくなファーナ!」
ファーナの召喚を解除し、掃除道具を片付け寮に戻る。
少し部屋でゆっくりと過ごしていると夕食の時間になった。
「お疲れ様。綺麗になった?」
「ああ、ルースにも似合いそうだぜ?」
「いや、あれ女の子用だよね……?」
「あっ……気にすんな!」
「気にするよ……」
少し気まずくなりつつも夕食を終えて部屋へと戻ると、ベッドに寝転がり、今日の授業のことを思い出す。
「信頼と経験かぁ。こればっかりは少しずつやっていくしかないもんな」
胸に手を当て、
「よろしくな!ファーナ!」
声をかけ、夜を過ごす。
そしていつの間にか眠りについていた俺は奇妙な夢を見ているようだ。
俺の体は幽体の様になっており、知らない場所に立っていた。
ここがどこなのかわからないが、確かなことは戦場だということだ。
青い旗の軍は押し込まれ、赤い旗の軍が城に目掛けて突撃していた。
何かに導かれる様に体が動くと、城内へと入っていき玉座まで導かれる。
そこには二人の人物がいた。
王らしき人物とファーナの鎧が話をしている場面だ。
「もはや、ここまでか……」
「父上、討って出ましょう!」
「馬鹿者!無駄死にするでない!」
「しかし……」
「そなたは我が王家の血筋を残すのだ!」
「……私は父上と共に」
「くどい!確かにお前は女ながら優秀な騎士だ!しかし一人で何が出来るか!今ならまだ間に合う!逃げろ!」
「そんな……!」
「急げ!時間がない!」
「くっ……父上!私はこの国を守りたかった!国民を!父上を!」
「分かっている。愛する娘よ、そなたは生きろ」
「……父上、さよならです!」
「ああ、幸せになりなさい。それが私の願いだ!」
ファーナは城を出ていく。
「さて、どう死ぬか……この首、奴等には盗らせたくない」
おもむろに立ち上がり、辺りに何かをまきちらす。
そして魔法を唱えると辺り一面が火の海と化した。
そこで急に体が移動を開始する。
俺は城を出てファーナが馬に乗って逃げていくのを後ろで見ていた。
「父上!父上!父上ーーー!」
絶叫をあげるファーナ。
そして、目が覚めた。
目からは涙が、体は汗でびっしょりしていた。
俺は胸に手を当てる。
「もしかしたらファーナの過去なのかな。そうだとしたら辛い思いをしたんだな……」
涙を拭き、
「本当の名前があるんだろうけど分からないから、このまま呼ばさせてもらうな?」
誇り高き女騎士に声をかけ、制服に着替える。
「ファーナ!今日もよろしく!」
イエス、マイマスター……
そう答える声が、確かに聞こえた。