お風呂場での秘密です!
カイとイザナの終戦直後、女子たちは応援席で後悔している様子だった。
「あれは……見たよな?」
「間違いないと思います……」
「しまった」
「うーん……予想外でしたね……」
「ん?なんだかみんな様子がおかしいけど、どうかしたの?」
ルースはカイが勝ったというのに、動揺する女子たちを不思議に思った。
「いや、相手のイザナという子はな?女なんだ」
「えっ!?だって男子の制服着てたでしょ!?」
フレアの言葉にルースは驚く。
「まあスカートよりもズボンの方がよかったらしく、学園側も認めたそうだ」
「えぇ……そうなんだ……そんな子の上着を脱がせちゃったら驚くよね……だけどなんでフレアたちは女の子だって知っていたの?」
「それは、一緒に風呂に入ったからだ」
「下級生とお風呂に?」
「ああ、クリス先輩が気安く入ってきたおかげでな。私たちも一年生と交流しようと思って一年生が使っている女子浴場に入りにいったのだ」
「最初は銀髪の子、ノエリーアちゃんが入るのをしっかりと入り口で見張ってたのですが」
「なぜかイザナもいた」
「二人で仲良さそうに浴場に入るから、私たち焦りましたよ」
「あはは、それはびっくりするだろうね」
ルースの困った様子の笑顔を見て、彼女たちは思い出す。
初めて一緒に浴場で過ごした時間を。
───時間は少し遡り、一年生女子浴場入り口付近から少し離れた場所にて───
「そろそろだな」
「はい、入浴開始時刻となりましたね」
通路の角にてフレアとリーナがこっそりと顔を出しながら、女子浴場の入り口を見張っている。
「まだかな」
「うふふ、もし入らないという選択をされたら無駄な時間ですね」
アリシアの言葉に一同は硬まるが、すぐにフレアは気を取り直す。
「見た感じ綺麗好きな女子であった。必ず来るだろう」
「そうですね。毎日お風呂に入りそうな子だと思います」
「ん。あたしもそう思う」
「それにしてもアリシアが参加するとは思わなかったな」
「私、意外とお友達との交流は好むほうですよ?」
「へぇ、意外」
「うふふ、サリアさんは本当に素直な子ですね」
「しっ、来たぞ……」
そうして会話をしていると、なにやら遠くから会話が聞こえてくる。
「ボク、お風呂好きなんだよね。ノエリーアが誘ってくれて嬉しいな」
「ふふん!感謝しなさいよね!」
その光景の違和感を覚えた全員は、すっと顔を引っ込ませて沈黙した。
(……どうして男子がここに?)
(で、ですがおっぱい、ありませんでした?)
(あった)
(ラフな私服でしたから、盛り上がりが見事でしたね。あれは私よりも立派です)
全員はこくんと頷くと、再び顔を出すと二人の姿は消えていた。
どうやら浴場へと入ったようだ。
「よし、謎を解明するためにも!」
「友好を深めるためにも!」
「いくぞー」
「楽しみです」
ガラガラ……!
「たのもう!」
フレアを先頭に扉を開けて更衣室へとやってくると、ノエリーアとイザナは驚いた表情を見せた。
「「きゃっ!?」」
「驚かせてすみません。私たちは二年生です」
「みんなで仲良くなりにきた」
「うふふ、よろしくお願いします」
「あ、ああ、先輩方でしたか……びっくりしました」
そう言うイザナは既に上半身を素肌だが、手で胸を隠している。
それでも大きさはある程度わかってしまうものだ。
(やはり女子だったか。しかし……)
(私よりも大きいです……)
(勝った)
(うーん……負けですね)
「あんまりイザナのおっぱいを見ないでほしいわね!」
一方ノエリーアはというと、女児体型の上半身の素肌を一切隠すことなく反論してきた。
その様子を見たフレアはにっこりと微笑んだ。
「すまないな。ついさっきまで男子だと思っていたのでな」
「まあそうでしょうね。私も最初はびっくりしたもん」
「ノエリーア、先輩方にその言葉遣いは……」
「ああ、構わない。それくらいのことで怒るようなものはいないからな」
「ふぅん。おっぱい小さいくせに言うじゃない」
ノエリーアの言葉にプチっと切れるフレアの堪忍袋。
「私よりも貧相なその身体でよく言えたものだな……?」
「私はまだ成長期が来ていないだけ!成長の終わった先輩と比べないでほしいわね!」
つんとそっぽを向き、ノエリーアは腕を組んだ。
「こ、この……生意気な!」
「まあまあフレアちゃん、抑えてください」
「ノエリーアも失礼だよ!?」
「ふん!」
「すぅ……はぁ……まあいいだろう。ここでこうしていてもなんだ。一緒に風呂に入るとしようじゃないか」
「そうですね。ボクも先輩方と入れて嬉しいです」
「……お前はいいやつだな」
「あ、ありがとうございます」
フレアはイザナと手を取ると、ギュッと握りしめた。
シャァァァ……
まずは身体を洗った面々は、その後ゆっくりと湯船に身体を浸けた。
そこで初めて自己紹介をすることになる。
「改めてだが、私はフレアだ」
「リーナです」
「サリア」
「アリシアです」
「ボクはイザナです」
「私はノエリーアよ」
円を描くように入浴している彼女たちが自己紹介を終えると、フレアはイザナに問いかけた。
「なぜ男の姿でいるんだ?」
「どうしてもスカートというものに慣れなくてですね……つい無理を言ってしまいました」
「ふむ、そうか」
「イザナちゃんならスカートも可愛いと思いますけどね」
「あはは、照れますね……」
「ノアはどうしてあんな格好してるの?」
サリアがまっすぐに問いかけた。
「ノアじゃない!ノエリーア!それにあんな格好ってなに!?」
「黒い帽子にマント」
「魔女の正式なスタイルでしょ!」
「ノエリーアさんは魔女に憧れているのかしら?」
「ええ!カッコいいじゃない!物語で何度も読んだもの!」
「ノア、可愛い」
「ノアって呼ばないで!どうしてカイ先輩といい私の名前を縮めるのかな!?」
「そういえばカイ君にアドバイスをもらってましたね」
「べ、別にまあ……少しだけ役に立ったけど!」
「そんなこと言って。カイ先輩に感謝しているくせに」
「イザナ!そんなことないもん!」
ノエリーアは顔を真っ赤にして否定する。
(これは……)
(ええ、ライバルになる可能性はありますね……)
(むむむ)
(ですが、まだまだお子様ですね。私はどちらかと言うと……)
アリシアの視線につられて、イザナに視線が集中する。
「な、なんですか?」
「イザナはカイを知っているのか?」
「ええ、とは言っても一方的にですが。あっ、ルース先輩も知っていますよ。ボクは学生グランプリを観に行きましたから」
「ふむ……イザナとしてはどっちが好みだ?」
「ふぇ!?」
「そんなに気負わなくていいですよ。気楽に答えてください?」
「……どちらも素敵な方ですが、どちらかといえばカイ先輩の方が……」
そこで乙女たちは悟った。
イザナはライバルであると。
そして、この子が女の子であることはできる限りカイには秘密にしておこうと共有した。
だが、その秘密があっさりと暴かれることになるとはこのときはまったく思っていないのであった。




