召喚します!
初めての授業が始まった。
「召喚師には、スタイルがあります。前衛型、召喚獣と共に、相手の召喚師を倒すこと。次に中衛型、召喚獣を補助しながら、自分も召喚獣と共に攻撃すること。そして後衛型、攻撃はほぼ召喚獣に任し、回復を担当したり、攻撃魔術で後ろからサポートをすることです」
「ここまでで、質問は無いですか?」
挙手はない。
「では次に参ります。基本的には三体の召喚獣と召喚師で闘うのですが、一年生は一体のみの召喚となります。慣れない内に複数契約をしてしまうと暴走し、自分も含めて周りを攻撃してしまうからです。なので一体のみになります。二年生になるともう一体、三年生ならもう一体、というようになります」
「分からないことがあれば挙手してください。無ければ次へと向かいます」
「召喚獣には強さにある程度のランクがあります。例えばドラゴンはAランク、スライムは最低のFランクですね。しかし高ランクの召喚獣にはある程度の自我があります。なので召喚出来たとしても契約できずに聖霊界、彼らの世界に帰っていくこともあります。お互いの合意が無ければ契約できません」
「はいっ!」
俺は手を挙げた。
「カイ君、なんでしょう?」
「気に入った召喚獣が出るまで召喚出来るのですか?」
「はい可能です。出てくる召喚獣は完全にランダムで召喚されるようです。祈れば高ランクが出やすいなどいろいろとあるようですが詳しいことは判明していません。そのため何日もかけて気に入った召喚獣を探すことも可能です。ですが一日に召喚できる数は個人の魔力次第とはいえそれほど多くありません。あまりに日数をかけすぎると召喚獣を使用する授業に遅れが出るリスクもあります」
「わかりました!」
「では続いて、召喚獣には基礎能力値があります。これは上昇する可能性がありますが、それには信頼と経験が必要です。これにより意思の疎通が可能になったり、新しいスキルを覚えたりします。
なので召喚獣と召喚師はお互いに尊重することにより、闘えるバリエーションが増えていきます」
カリカリっとノートに書き進めていく。
「そしてスキルや能力値の確認にはある程度の信頼度が必要です。召喚獣を呼び体に触れ、リーディングと唱えると頭の中に詳細な数値やスキル、称号の確認ができます。称号とは能力値を上げてくれるものです。最初から持っているものもありますし、闘いの中で目覚めることもあります」
「そして肝心の勝敗についてですが、ギブアップをする、審判が戦闘不能と判断する、魔力が枯渇して召喚獣を維持できない。そして……召喚師が死んだ場合、決着となります。そして死んでしまったとしても相手側に罪はありません」
ルナ先生の淡々とした説明で、教室内がシーンと静まりかえる。
「皆さんにはもう一度確認していただきたいのです。これは戦争ではありません。負けたとしても殺されたりはしません。無理だと感じたらすぐにギブアップをし、また訓練をしましょう。負けることは恥では無いのです。分かりましたか?」
皆が覚悟を持った声で、
「「「「はいっ!」」」」
と叫ぶ。
「そうですか。私は嬉しく思います」
ニコッと笑う。
ぽーーーーと見つめる俺達、男子生徒。
クールビューティーな先生の笑顔の虜になっていた。
「では本日の授業はここまでです。明日には召喚の儀を行いますのでゆっくり体を休めてください」
そう言うと先生は去っていった。
すぐにルースに話しかける。
「ルナ先生めっちゃ美人だよな」
「そうだね、最後の笑顔なんてみとれちゃったよ」
ルースの照れた笑顔にもみとれそうなんだが?
誤魔化すように、周りを見渡して見ると女子生徒たちに群がる野郎どもがいた。
「あーあ、分かっちゃないね」
「なにが?」
「今話しかけても無駄無駄。逆に悪印象だ」
「そうなの?」
「みんな理由があって男が多いこの学園に来てるんだぜ?それなのに女の子だからって話しかけてみな?好印象になるはずが無いじゃないか?」
「あっ……確かに」
やはり俺の予想通りになった。
フレアは、
「うるさい!」
と、野郎どもを蹴散らし教室を出ていく。
サリアは、
「……」
大きな胸を揺らしながら無言で出ていく。
リーナは、
「すいません、失礼します……」
丁重に断り、教室を出た。
「すごいね。カイの言った通りだ」
「当然だな。こんな特殊な学園に遊び気分で来ているような女の子はいないんだよ。好かれたいなら実力を示してお互いを高める存在、ライバルにならなきゃな。もちろんルースもライバルだからな?」
「うん!僕も負けないよ!」
ニコッと笑うルース。
やべぇ……やっぱり可愛いなこいつ……
そして初日の授業は終了した。
夕食や風呂を済ませ、ベッドにもぐる。
いよいよ明日は召喚かぁ……
何にしようかな?
俺自体の戦闘能力は残念ながらあまり無い。
特に近接戦は皆無に等しい。
だが攻撃魔法は得意だ。
そうなってくるとやはり前衛が欲しい。
ゴーレムとか固くていいな。
あとはやっぱりドラゴンとかワイバーンだよな!格好いいし派手だし!
可愛い系もいいけど、ハーピーとかサキュバスとか前衛には向かないんだよなぁ……
まあ、直感で決めるか。
そうして興奮しながらも眠りについていく。
まだ見ぬ相棒を夢見て……
翌朝、興奮でなかなか寝付けなかったために体が重い。
だがそんなことはどうでもいい。
今日俺の召喚獣が決まるんだからな!
教室に入り、ルースに話しかける。
「おはよ……」
「眠そうだね……」
「お互い様だろ……」
お互いに笑い合う。
少しすると鐘が鳴り、ルナ先生が教壇に立つ。
「皆さんおはようございます。それでは召喚の儀式を行いますので、グラウンドに集合してください」
いよいよだ……
俺は逸る気持ちを抑えながらグラウンドに向かった。
そこには大勢の先輩たちや先生の姿がある。
「この学園は常に結界を張って周囲に被害が無いようにしていますが、万一召喚獣が暴走した時は上級生や先生によって強制帰還させます。なので安心してください」
なるほど。
安全対策もバッチリだな。
「では召喚陣の中に入って強く念じてください。召喚はランダムではありますが、強い想いは聖霊界に届くかもしれません」
グラウンドの中央には召喚陣が5×2で計十個の陣が描かれている。
「早く召喚したいな!」
隣にルースに話かける。
「そうだね!ドキドキするよ!」
「ではまず一班から召喚を開始します。やり直しは三回までです。召喚をやり直す場合は後ろにまわってもらい再度順番待ちとなります。魔力が尽きた場合は強制終了で翌日に行います。質問はありますか?」
質問の声は上がらなかった。
「では一班、名前を呼ぶので前へ」
次々名前が呼ばれていく中、フレア・ラーカシアも呼ばれる。
彼女はどんな召喚獣を呼ぶのだろう?
「では、祈りなさい。心の中で強く!」
一斉に、召喚陣が光輝く。
ゴブリンやスケルトンなど外れを引いてしまった生徒は契約を拒否し、聖霊界へと戻していく。
その一方で、ゴーレムやケンタウロスなど高ランクの召喚獣を召喚した生徒の多くは契約を結ぶ。
契約した召喚獣は生徒の体内に入っていった。
「契約した場合は心の中で召喚獣を呼びだすと現れます。戻す場合は戻れと念じてください」
契約した生徒達は呼び出したり戻したりしている。
そんな中でひときわ輝く召喚陣があった!。
フレアの陣だ。
「あ、あれはフェニックス!?Sランクの召喚獣です!」
ルナ先生が驚き、周りの上級生や先生にも緊張が走る。
「マジか!?」
「召喚用意!」
しかし、フレアは冷静にフェニックスに話しかける。
「貴方の力を貸してくれないか?よろしく頼む」
フェニックスは一鳴きすると、コクンと頷いたように見えた。
そしてフレアの中に入っていく。
おおーーー!
辺りから歓声がまきおこる!
「召喚が終わった生徒は自由に行動してください。ただし学園外で召喚獣を召喚したものは罰則がありますので注意するように」
そして召喚が完了した生徒はばらけていく。
「では次に空いた召喚陣に入る生徒を呼びます」
名前が呼ばれる中、リーナ・ホリィの名前があった。
そうして皆が召喚陣に入り、
「始め!」
ルナ先生の掛け声と同時に一斉に召喚陣が光り輝く。
リーナを見ていると、またしてもフレアと同じ様に一際強く輝いている。
現れたのは白い馬で額には角、背には翼があった。
「あれは聖獣キリン!?またしてもSランクじゃない!?今年はどうなってるの……?」
驚くルナ先生。
「お願いします。守りたい物があるんです!力を貸してください!」
キリンはリーナの側に寄り、頬をよせリーナの中に入っていった。
またしても歓声が上がる中でリーナは自分を抱き締め、
「ありがとうございます」
嬉しそうにつぶやいた。
興奮冷めやらぬ中、次の生徒達が呼ばれる。
そこに最後の女子生徒のサリア・クロイドもいた。
(やっぱり大きいな……)
制服越しでもわかるお胸に注目している内に、
「始め!」
注目のサリアを見ているとまた大きく輝き、氷の狼が現れる。
「またSランクですか……氷狼セツナ」
ルナ先生はもう驚くのに慣れてしまったようだ。
サリアは、
「……おいで」
呟くとセツナは近づき、サリアの中に入っていった。
もはや歓声は起こらずシーンと静まり返る。
「次の生徒を呼びます……」
ルナ先生は冷静さを取り戻し名前を呼んでいく。
今度はルースの名前もあった。
「あんなの見た後ってやりにくいよね」
「そうだなぁ。女子、皆が凄いもんなぁ」
(まあルースも女の子みたいなものだけどな)
「頑張って来るよ」
「いってら!」
召喚陣の中に入るルース。
「始め!」
今回は皆が同じように輝いたが、ルースはその中では一番大きい。
現れたのは大型の鷲のような召喚獣だった。
「グリフォンですね。Bランクで中々良い召喚獣ですよ」
「僕と契約してくれる?」
グリフォンは翼を拡げ、ルースの中に入っていった。
「やったじゃん!ルース!」
「うん!嬉しいよ!」
そして俺の名前が呼ばれた。
「じゃあ、いってくるぜ!」
「頑張ってね!」
緊張しながら召喚陣に入る。
これほどまでに緊張したことはあっただろうか?
「始め!」
俺は祈った。
昔見た憧れの召喚師たちを想い浮かべながら。
輝く召喚陣だがその光は大きくなく、現れたのは女性用のフルアーマーだった。
薄汚れているが、どことなく高貴な意匠で強く印象に残る。
「Dランクのリビングメイルですね。耐久値はそこそこですがそこまでは……」
「そうですか……」
俺はガッカリし、もう一度召喚し直そうとすると、
マモリタイ。
コンドコソ、オネガイ……
女性の声が聞こえた気がした。
「ルナ先生、何か言いました?」
「いえ?」
俺はリビングメイルを改めて見る。
白銀だったであろう鎧は汚れていて、美しいデザインは見る影もない。
だがリビングメイルの表情や感情が分かる訳がないというのに、何故か泣いている様に思えてしまう。
俺はしばらく悩んだ……
理性では次々っと言っているが、直感は契約しろと言っている。
「カイ君、どうしますか?」
他の生徒は契約を終了したり、破棄したりで残っているのは俺だけだ……
俺は直感を信じることに決めた。
「こいっ!君が俺の騎士だ!」
アリガトウ……
ワタシノ、マスター……
やはり声が聞こえた様な気がした。
「なんでDランクのリビングメイルと契約したの?」
ルースに問われる。
「わからん……なんか声が聞こえた気がしたんだけど」
「声?」
「そう、お願いみたいな?」
「じゃあ相性が良かったんじゃないかな?先生も言ってたじゃない?経験と信頼が大事だって!」
「そうだな!」
そして召喚の儀式は終わりを迎える。
一年生は全員契約出来たようで、内訳はほとんどがCランク以上で一番多いのはBランクだった。
しかし俺は体の中にいる相棒に、ランクなんか見返してやろうぜ!と、心に誓う。
ハイ……
やはり声が聞こえた。