領主様の屋敷に向かいます!
整理された雪道を歩き続けると、やがて立派な屋敷が見えてきた。
どうやらあれがブレイの屋敷のようだな。
「止まれ!」
鉄柵に囲われた門の前に近づくと衛兵らしき二人が声をかけてきた。
「ここは領主様の屋敷だ。観光するなら街でしたまえ」
「そうしたいところですが、この無礼者に邪魔されてましてね。ぜひとも領主様にお会いさせていただきたいと思います」
「無礼者は貴様だ……」
俺はブツブツと文句を言うブレイを差し出した。
「……レイセント様?また不埒な真似をしでかしたのですか?」
二人はため息を吐き、次期領主であるブレイに視線をやる。
当然だが、慕われている存在ではないようだ。
「……うるさい!こいつは私を殴った無礼者だ!さっさと捕らえろ!」
「孤児院に集団でやってきて襲いかかる、召喚獣をけしかけるで大変でした。どうかお話を聞いてくださいませんか?」
「リーナぁ……」
恨めしそうに睨みつけるブレイだが、まったく威圧の効果はない。
「君は教会の子だったか。わかった。カルゼン様に問うてくるので待っていてくれ」
「レイセント様は部屋に帰っていてください」
「ふん!とんだ目に遭ったわ!目をかけてやろうと思ったがリーナも所詮は平民のクズだな!」
「お前……!」
一発どころの話ではないほどに叩きのめしてやろうと思ったが、リーナが止める。
「私は構いません。ここでは心象が悪くなりますので抑えてください」
「……わかったよ」
当事者であるリーナが止めるのなら動けない。
フレアもあっさりと動きそうなサリアを抑えているし、ここは我慢をする。
「ふん!」
そうして言いたいことだけ言い残すと、ブレイは去っていった。
〔まったく……貴族の風上にも置けないものですね!〕
ファーナも怒り心頭の様子だが、俺も同じ思いだ。
「はぁ……すまないな。だが領主様まで同じだとは思わないでほしい。カルゼン様はお優しい方なのだ」
残った衛兵が俺たちにそう告げてくる。
「孫にも優し過ぎるのはどうかと思いますよ?」
「そう言ってくれるな。早くに息子と嫁を亡くされ唯一遺された家族、可愛くて仕方なく思われている」
その気持ちはわかるが、野放しにしていられてはたまったものじゃない。
「君たち、カルゼン様がお会いになられるそうだ。案内する」
報告に戻っていた衛兵が戻ってきた。
「ここははっきり言わせてもらいます」
俺は今まで話していた衛兵にきっぱりと伝える。
「……わかった。君たちの言葉の方が伝わることもあるだろう。だが、くれぐれも失礼のないように頼むぞ」
「ええ、わかりました」
俺たちは衛兵の案内のもと屋敷の中へと入っていった。
中はそれほど豪勢といったものではなく、王都のホテルの方が立派だと思う。
「カルゼン様、お客様をお連れいたしました」
「入りなさい」
二階に上がり、一番奥の部屋の扉をノックした衛兵が扉を開ける。
「初めまして。この街の領主をしているカルゼンだ。孫が迷惑をかけたようで心苦しく思っている」
そうして迎え入れられた先には執務机の椅子から立ち、こちらをまっすぐ見つめる老紳士がいた。
金髪だったであろう髪はほとんどが白くなり、シワも目立つがその優しい眼差しは俺のはやる気持ちを落ち着かせてくれた。
「初めまして。カイと申します」
「リーナです。教会では何度かお会いしたことがありますが……」
「ああ、覚えているよ。ルードリアの学園へと進学したそうだね。セレナから聞いたよ」
俺たちは簡単に自己紹介をした後、来客用のソファーに座ると改めてブレイの起こした事件の経緯を話した。
「……そこまで無法なことをしているとは、改めて申し訳ないと思っている」
「カルゼン様、レイセント様のことどうにかなさっていただけませんか?私はこのままレイセント様が領主になることに大変不安を感じています」
リーナがはっきりとカルゼン様にそう伝える。
「……強くなったものだ。おとなしい子だと思っていたのだがな」
「ここにいる友人たちのおかげです」
なんだか照れるな……
「そうか、そうか……やはり出会いは人を変えるのだな……よし、私は今はっきりと決めたよ」
カルゼン様はそう言うと、傍に立つ衛兵に声をかけた。
「レイセントを連れてきなさい」
「かしこまりました」
それから数分して、再び見たくない顔を見ることになった。
「なんですか?お祖父様?さっさとこいつらを追い返してくださいよ」
不貞腐れたその態度は明らかに自分の祖父を舐め腐っている。
「レイセントに告げる。貴様を王都の学校に入学させる。そこで一から学び直してこい」
「はぁ!?次期領主の俺がなぜ!?」
「黙れ!」
カルゼン様の目尻がくわっと上がる。
「お、お祖父様……?」
「家庭教師をつけて貴族としての振る舞いを学ばせてきたつもりだったが、成長を一切感じない。未だに子どものままだ。リーナ嬢は見違えるように成長したというのにだ」
今までこんなことを言われてこなかったのだろう。
足がガクガクと震えている。
「いいか?貴族といってもたかだか田舎の領主の孫に過ぎん。お前はもっと上を見てきなさい。そこで自分が以下に小さな存在であるか学ぶのだ。それでも成長しなかった場合は、廃嫡とする」
「お、俺がいなかったら誰がここを継ぐんだよ!」
「この領地を陛下にお返しするのみだ」
「なんでだよ!大事にしている街じゃないのかよ!」
「大事にしているからこそ!貴様に継がせられんのだ!そんなこともわからんのか!」
ブレイはそれ以上言葉を返すことができなかった。
「見苦しいところを見せてしまったな。リーナ嬢、これでいいだろうか?」
「はい、私にとって最良の措置です」
「そう言ってくれると助かる。ひどく迷惑をかけたようで本当にすまなかった」
カルゼン様は深々と頭を下げてくる。
この人ならちゃんと約束を守ってくれるだろうと、その行動から信じられた。
リーナが満足しているなら俺たちがこれ以上口を挟むことではない。
「それでは失礼いたします」
俺たちも頭を下げて、部屋から出ようとする。
「このようなことになってしまったが、この街を楽しんでいってほしい」
「ええ、そうさせてもらいます」
「ありがとう」
〔これで一件落着だな〕
〔それは良いのですが……〕
〔うん?どうした?〕
〔剣を返すの忘れてませんか?ブレイが落としていったものなのですが〕
〔……あっ〕
〔やはりここは私がもらうということで、どうですか?〕
〔ちゃんと返すよ!図々しいやつだな!〕
〔ショックです……〕
また来るのは面倒だし、セレナさんに預けてブレイがいなくなった後返してもらうことにしよう。
さて、改めて観光を楽しませてもらうぞ!




