無礼者襲来です!
「セレナ!リーナを出せと言っている!帰ってきているのだろう!」
「お帰りくださいませ」
急いで教会へとやってくると、神聖なる女神の絵画の前で怒鳴り散らす男がいた。
歳は俺たちと同じくらいだろうか?
豪華なマントを羽織り、毛皮のコートを着用したそいつの服装から一目でわかった。
権力者であると。
金髪を首くらいまで伸ばし、セレナさんを見る目は醜悪さが隠せていない。
せっかく顔立ちはいいのにもったいない。
あれではどのような女の子も興ざめするだろう。
「シスター!」
「リーナ……来てしまいましたか……」
セレナさんがこちらを見てため息をついた。
「おおリーナ!久しぶりじゃないか!」
リーナに気づいた男は気を良くした様子でリーナの元にやってくる。
「レイセント様……」
どう見ても再会を喜ぶような間柄の相手ではないな。
そう思った俺は、リーナと男の間に入り接近を遮った。
「なんだ貴様は?」
「リーナの友人だよ」
「ん?ほほぉ……綺麗どころが揃っているじゃないか?」
男はいやらしい目でフレアたちに目をやる。
「あんた、女神様の前であんまり無作法な振る舞いはやめた方がいいんじゃないか?」
「あんただと!?貴様俺が誰かわかっているのか!?」
「さぁ?ただ無礼者だってことくらいはわかるけどな」
「この街の領主であるレイセント・ダン・フェルン男爵だ!わかったらさっさと控えろ!」
「領主様はあなたのお祖父様でいらっしゃるカルゼン様です。あなたではないでしょう」
「うるさい!もはや代替わりも間近だ!ババアは黙っていろ!」
なんという暴言。
うら若きお姉さんであるセレナさんにそんな言葉を吐くとは、同じ男として信じられん。
「ごたくはいいからさっさと帰れ。おぼっちゃま」
「……なんだと貴様?殺すぞ?」
ギロリと睨んで持っている剣を手にかけるが、まったく迫力はない。
こちとらなんども死線を潜っているんでね。
本気の殺気はわかっている。
言葉だけの脅しだ。
「やってみるか?外で相手してやるぞ?」
「上等だ!かかってこい!」
レイセント……長いしムカつくからなんかいいあだ名ないかな?
無礼者のブレイでいいんじゃないですか?
おお、冴えてるなファーナ。
それでいこう。
ああいう輩は嫌いなので、存分に懲らしめてください。
任せておけ。
「カイ君、すみません……ご迷惑をおかけして……」
リーナとセレナさんが頭を下げる。
「気にしないでください。あとクリス先輩、面倒事になった場合は頼みますよ?」
「えっ?どういうこと?」
俺は視線をクリス先輩に送ったが、まったくわかっていないようだった。
「貴族との揉め事なんでこのあと教会に迷惑がかかるかもしれないでしょ?そうなったら国王様に助けてもらうんですよ。クリス先輩ならいけるでしょ?顔パスなんですから」
「あはは、そんなことならカイ君だってできるよ。もう顔なじみでしょ?オーさんなら聞いてくれるよ」
「畏れ多いんで嫌なんですよ……」
王様とのパイプをそんなこと扱いとは、改めてクリス先輩の器の大きさに驚かされる。
まあオルドグランド陛下のことをオーさんなんて呼ぶのはクリス先輩くらいなものだろう。
「セレナさん、そういうことなので教会や孤児院に迷惑をかけることにはなりませんので、ご安心を」
「……思いっきりやっちゃってください」
「かしこまりました」
冷静に対応していたけど、結構頭にきているようだ。
以前から無礼な振る舞いをしていたことが簡単に予想できるな。
「遅いぞ!何をグダグダしている!」
俺が外に出るとコートの前を開けたブレイが立っていた。
「いやあモテる男は辛くてね。心配されちゃったよ」
「この……平民風情が!」
ブレイは剣を抜くと、上段から振り下ろしてくる。
動作が遅い。
そのおかげで中段が隙だらけだ。
さて、さっさと終わらすか。
俺は振り下ろしてくる剣を握っている腕を押さえると、空いた手で拳を作り思いっきり腹を突いてやった。
「グハッ!?」
その反動でブレイは後方へと尻から転げ落ちていく。
手加減したつもりだが、まさか受け身も取れないとは思っていなかった。
貴族も武術を嗜むという話を聞いたことがあったが、こいつは違うのか?
「き、貴様ぁ……俺に手を上げてどうなるかわかっているのか!」
「まだ立ち上がれる元気があるみたいだな」
俺は剣を突き出しているブレイの懐に入ると、今度は腕に回し蹴りを喰らわす。
「ギャァァァ!?」
絶叫とともにカツンと剣が落ちる。
まるで腕が千切れ飛んだような声を出すが、折れてもいないはずだ。
せいぜいが打撲くらいだろう。
「貴様!貴様貴様貴様ぁぁぁ!」
腕を押さえながら荒い息とともに怒号を放ってくる。
「まあまあ、おぼっちゃま。手加減している間に帰った方がいいぞ?俺はあんまり手加減が上手じゃないんだ」
「ひぃ……!」
少し殺気を飛ばしてやるとブレイは慌ててこの場から去っていった。
弾き飛ばされた剣もそのままに。
「やれやれ、危険物は持ち帰れよな」
俺は落ちている剣を拾うと、わぁぁぁっと歓声が聞こえてきた。
振り返ってみると笑顔の子どもたちの姿がある。
「いえい!」
そんな子どもたちに俺はVサインを送るとさらに大きな歓声で出迎えられた。
「兄ちゃん強いんだね!」
「カッコよかったよ!」
「あいつシスターいじめてて嫌いだったの!」
「おぉ、兄ちゃんがやっつけてやったからな!」
「カイ君、ありがとうございました」
「いいよ。あれくらいならリーナでもあしらえただろうしな」
「守ってもらえると、女の子は嬉しいんですよ……?」
リーナは頬を染めて、上目遣いでこちらを覗き込んできた。
「あ、いや……その……」
「はい、そこまで」
「イチャイチャはダメ」
「みんな見てるよー」
俺は子どもたちに見られていたことに顔が熱くなった。
それはリーナも同じだったようで、先ほどよりも顔が真っ赤だ。
「いやぁ……照れるなぁ……」
マスター!そんなことよりも剣を見せてください!
おまっ!主の青春をそんなことだとぉ!?
相対してみた感じなかなかの名剣です!いいからじっくりと見るんです!
ああうるさいなぁ!これでいいか!?
おぉ……実用向きではなく装飾剣ですが美しいですね……
無骨な剣もいいですがこうやって着飾っている剣も素晴らしい……
言っておくけど後で返すからな。
なっ!戦利品としてもらってもいいじゃありませんか!
こっちは強盗じゃないんです!帰る前には返すからな!
そんなぁ……
まあ帰る前というか、明日にでも仕返しに来そうだけどな。
それは間違いないですね。
ああいうタイプはしつこいですから。
こういうときに一致する予想はあんまり外れることがないのが、世の常である。




