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サリア戦の前の一休みです

ひりひりと痛む頬を手で撫でながら選手席に戻ると、のんびりと休んでいるフレアに話しかけた。


「たいひょうはだいじょーぶ?」


頬が痛んで上手く喋れない。


「ふん、貴様の方が大丈夫か?勝者とは思えん顔をしているぞ」


「誰がやったんだよ……ただ肩を貸そうとしただけなのに思いっきり拳で殴りやがって……せめてビンタじゃない?」


「それで済んだだけ幸運だと思え。私が万全の状態なら骨の一本や二本は折れていたのだ、感謝しろ」


「あ、ありがとうございます?」


俺は殴られてなぜ感謝しているのだろうか?


マスターは被虐嗜好も嗜むのですか?

少し自分を見直した方がよろしいのではないでしょうか。


違う、俺は至ってノーマルだ。


あらぬ誤解を解いていると、そこにルースとリーナが来た。


「二人ともすごい試合だったね!」


大興奮のルースだが、


「俺は何もしていないさ」


実際、見ていただけだ。

何もしていないのに褒められるのは少し虚しい。


「そんな風に思っちゃダメだよ?召喚獣も君の力の一部なんだから称賛は素直に受け取らないと。頑張った召喚獣が可哀想でしょ?」


そう言うとルースは微笑む。

あまりにもまぶしい光景を映しこんだ俺の目には背中に翼と光が見える。


「そうだな……俺の実力を見たか!ははは!」


俺の鼻が高々と伸びていると三人から冷たい視線を浴びせられ、すぐにシュルシュルとしぼんでいった。


「すぐに調子に乗りおって。ルース、甘やかすんじゃないぞ」


「ま、まあ単純なのもカイの魅力だし……」


「でも男の子ってそういうものじゃないですか?可愛いと思いますよ」


まるでお子様のような扱いをされて俺の純粋な心は、砕けそうになっている。


そのままお子様でしょう?


そして今、砕けた。

そんなに言うことないじゃん……

選手席の隅で小さくなりつつ座り込む。


「そういえばフレアさん、お体は大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない」


「一応、癒しの術をかけますね?」


そう言い、キーワードを発する。


「神よ、その御力で癒やしたまえ」


フレアの周りが暖かい光に包まれる。


「おお、だいぶ体が軽くなった。ありがとうリーナ」


「体力は回復しますが、消耗した魔力は戻りませんのでゆっくり休んでくださいね」


「わかった」


そうして俺をのぞいて楽しそうに雑談しているのを聞いている内に、昼食の時間になった。

すると女性陣は移動を開始。


「ほら、置いていくぞ。いつまでも拗ねてるんじゃない」


悲しいなぁ……


俺はトボトボと後ろについて行った。


激闘の後のせいか腹ペコ状態の俺は昼食を見てすっかりと機嫌が良くなる。

パンにスープにサラダ。

そしてメインに大きな肉団子。

いつもとほぼ変わらないメニューだというのにキラキラと輝いて見える。


パクパク、ゴクゴク。

うまぁぁぁ……


「すっかり元の調子に戻りおって、本当に単純なやつだな」

「あははは、いいじゃない、ご飯は楽しく食べないともったいないよ」

「ふふふ、そうですよね」


食堂で和やかに食事をしていると、


「サリア戦、何か策はあるのか?」


フレアが真剣な表情で問いかけてきた。


「もちろんあるさ」


シミュレーションは何度も行っている。

何度も敗戦したのだが、その原因は全て俺の戦闘不能による結末しかない。

それを回避するための秘策は、用意していたつもりだ。


「なになに!?どんなの?」


「私も気になります」


みんなが問いかけてくるが、ふふふ……それは今は明かせないな。


「秘密だ、楽しみにしとけよ!」


「そうか、期待しておくぞ。私に勝ったのだから勝つのだぞ?くれぐれもオーレリア様を敗戦させることのないように……もしオーレリア様が負けるとしたら、貴様が戦闘不能になったときだからな」


鋭い目で俺を睨む。


ひぃ……良くわかっていらっしゃる……


全く、慕われるというのも大変ですね。


そう言いつつ言葉が嬉しそうに弾んでませんか?


気のせいです。


そうですか……


「まあまあ……フレアなりの激励だよ。みんな応援してるから」


「もちろんです!」


「べ、別に私はオーレリア様が敗北するのを見たくないだけで……」


「ありがとう!みんなの応援が俺の力になる!」


そんな和やかな空気をじっとりとしたものが侵食してくる。

周りの男子生徒たちの怨念じみた念だ。


負けろ……負けろ……

サリアちゃんだけが希望……希望……絶望のカイにみんな失望……ひひひ……

呪われろ……呪呪呪呪呪……


気色悪ぅぅぅ!



「弱点は明白……召喚獣にさえ気をつければ、問題ない」


一人食事を終えたサリアは自室に戻り、椅子へと腰かけた。


「……見ててね、お兄ちゃん」


机には木製の枠が立てられており、その中には古ぼけた似顔絵。

仲良さそうに笑い合う青年と少女の絵だ。


その絵に話しかけるサリアの表情は深い哀しみで覆われていた。


絵の少女にはサリアの面影がある。

だが、今のサリアには明るい表情は失われていた。


楽しそうに笑い、喜んでいる少女は、ここにはもういない。


「絶対に……ぜったいにまけないから……」


怒りと哀だけを残したサリアの瞳からは一粒の雫が流れ、机の上ではじけ飛んだ。

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