剣と剣のぶつかり合いです!
夕食終わりに明日の作戦を練る。
フレアはファーナに任せていいか?
彼女の性格ならファーナとの決戦を挑んでくるはずだ。
ええ、間違いなく彼女は私に立ち向かって来るでしょう。
勝てるか?
試合とはいえ、できるなら横やりは入れたくない。
記憶を取り戻すきっかけとなった彼女の願いだからな。
まだ発展途上です。
今の私でも勝つことに問題はないと思います。
すごいな……完全に子供扱いじゃないか……
フレアの試合を見た後でそんなことを言えるなんてな。
俺が直接近接戦を挑んだらあっという間に決着がつくだろう。
当然俺の負けだ。
なら問題はサリアだな。
彼女は召喚師を直接狙う闘いが目立つ。
間違いなく弱い部分を突いて来るだろう。
もちろん俺のことだ。
マスターは、特別身体的能力は高くありませんからね。
ただ回避能力はそこそこあるので、遠距離攻撃はなんとか回避することでしょう。
そこをサリアさんに近づかれ、短剣で刺されるというのが私の分析です。
守ってくれないのかな!?
そうは言ってもですね、彼女と氷狼の速さは相当なものです。
大きく二手に分かれられたら、いくら私でもさばききれません。
片方を相手している内にもう片方がマスターを襲うでしょう。
サリアの方を集中して狙ってみるのは?
そうすると彼女は中、遠距離からの回避に徹するでしょうね。
そうなった彼女を捉えるのは至難の業です。
なら逆に俺の傍にずっといるのは?
私は防戦一方となりますが、マスターに決め手はありますか?
ダメージはかなり抑えられているから、俺の魔法じゃ厳しいなぁ……
もし俺という存在がいなかったら、あの二人にでも勝てそうか?
それは可能だと思います。
きっぱりと答えられ、少し悲しい。
自分が弱点だと改めて認識させられる。
うーん……なんとか防ぐ方法はないものか?
得意な戦法があるのは良いことじゃが、それだけではすぐに対策される。
闘い方の引き出しを多く持つことが、強い召喚師と言えるじゃろう。
俺はじいちゃんから教わったことを思い出しながら、思考を巡らせる。
サリアももちろん俺が前衛をファーナに任せて闘うことは、間違いなく予想済みだ。
ならばと俺が接近戦を挑む……そんなことをすればすぐに試合終了となる。
やはりファーナが俺を気にせずに闘うようにするにはどうすればいいか、これに尽きるようだ。
二対二の闘いじゃなく、一対二の闘いにするのは無理だな。
召喚師はリング内にいないとダメだし……
そう考えているうちに、はっ、と閃いた。
待てよ?リング内にいればどこでもいいんだ。
グリフォンのように空を飛んで逃げ回るつもりですか?
残念ながら空を飛ぶ魔法はない。
だが、もっと安全な場所を思いついた。
こんなことは可能か?
ファーナに俺の案を説明する。
ほ、本気ですか?
可能か不可能かというのならば可能ではありますが……本気ですか?
同じ質問を繰り返すほどものすごい嫌そうに問いかけてくるが、俺にとっては最適解だ。
ああ!これで行くぞ!
ええ……まったく気が進みません……
嫌がるファーナをよそに意気揚々と眠りについた。
「ふっ……いい朝だな……やる気満々だぜ!」
私はやる気不足ですが……
決勝戦の朝だというのに、両極端な俺たちであった。
快晴の中、闘技場の観客席に集まる生徒たちは思い思いの場所に座りながら声を出している。
「カイ、フレアも頑張ってね!」
「三人とも怪我しないように頑張ってください!」
ルースとリーナの応援が聞こえてくる。
なんとも心温まるものだ。
「カイ以外頑張れ!」
「フレア様ぁぁぁ!」
「サリアたん!がんばぇぇぇ!」
雑音も聞こえてくるが無視するとしよう。
「それでは第一試合はカイさん対フレアさんとなります。お二人とも準備を始めてください」
「「はい!」」
参加者である俺たち三人は、前日にルナ先生から試合形式についての説明をされていた。
「組み合わせですが総当たり戦となっています。順番や指名など何か希望はございますか?一戦目の消耗が激しい場合は翌日に延期しますので、どうぞ遠慮なく希望を伝えてください」
「私はカイと闘いたいです!」
ルナ先生が説明を終えるとすぐに目を輝かせたフレアが手を挙げた。
遊んでほしい犬の尻尾のようにポニーテールを揺らしている。
元気にしてるかなぁ……お隣で飼われてるわんこ。
「カイ君、サリアさん、よろしいですか?」
「わかりました」
もちろん異論は無い。
「別に構わない……」
「全員が納得したので、一戦目はカイ君とフレアさんになります。そして二戦目は、一戦目の勝者とサリアさんということでお願いします」
そうして迎えた今日。
闘技場の中央でフレアと顔を合わせ、短い会話を行う。
「この時を待ちわびたぞ?それとカイにはすまないのだが……」
「ああ、分かってる。手は出さないさ」
「……感謝する」
ファーナ、任せたぞ?
はい、お任せくださいマスター。
「では、試合開始!」
号令とともにお互い召喚獣を呼び出す。
「我が剣に宿れ」
その言葉を聞いたフェニックスはフレアの剣にその身を捧げ、フレアの剣を紅へと染めていく。
そして、
「はぁ!」
大きな気迫とともにファーナへと向かっていった。
対するファーナは光の剣を呼び出して握りしめると、悠然と歩いて行く。
お互いが近づいていき、紅の剣と光の剣がぶつかり合った。
ギィィィィィン!
お互いの剣が交差する。
だが、その一撃で終わる訳がなく、相手を圧倒するべく恐ろしいほどの速さで剣を交えていた。
すげぇな……
俺はポカーンと見ていることしかできない。
「はぁぁぁ!」
渾身の一撃を繰り出すフレア。
しかしファーナはもう一本の光の剣を空いている左手に持ち、交差させてフレアの攻撃を防ぐ。
素晴らしい動きです。
私も本気で行かせてもらいましょう。
えっ?今まで本気じゃなかったの……?
「なっ!?」
交差させた剣を振り払い、フレアの剣を上へと払いのける。
その一瞬の後に、左右から絶え間ない斬撃がフレアに襲いかかる。
「は、速い!それに……!」
なんとか受けてはいるが、驚愕の表情を浮かべていた。
「重さが、変わらない!?」
ファーナが双剣となると、フレアは防戦一方になってしまった。
なんとかしのぎ続けるフレアだったが、力の差は歴然となっている。
しかし、その中でもフレアは笑っていた。
汗にまみれながらも微笑む彼女の姿は、気高さを感じさせる一枚の絵画のようだ。
だが、ついに決着の時はきた。
フレアの剣に宿るフェニックスの紅が色を失っていったのだ。
終わりですね。
いずれまた闘うのが楽しみです。
「……ふぅ」
ため息をついたフレアは笑う。
まるで剣と剣で会話が伝わっているかのように見える。
その色を失ってしまった剣でファーナの剣を受け止めると、フレアの剣は砂のように崩れ去ってしまった。
「参りました……」
「試合終了!勝者、カイ君!」
その瞬間、大歓声が巻き起こる。
「フレア様!凄かったです!」
「綺麗でした!」
「敗北する姿も美しい!」
……俺には何もなかった。
まあ何もしてないから当然か。
そんなことは気にせずにフレアの方へ向かう。
彼女は片膝をついて、荒い呼吸をしていた。
「敵わないな……オーレリア様には……」
どうだった?ファーナ?
まさか二本の剣を使うことになるとは思いませんでした。
素晴らしき闘いをさせていただき、ありがとうございます。
「フレアは、素晴らしい相手だったてさ」
「そうか、嬉しいな……」
フレアはなんとか立ち上がり、選手席へと戻る。
だが、ふらりと体が揺らいだ。
「おっと」
俺はフレアの体を肩で支えると、その軽さに驚きを覚えた。
「なっ!?何を!?」
「体力がもうないだろ?肩くらい貸すよ」
「気持ちはありがたいが!私はいま汗で濡れているし!その、匂いも……」
くんくん。
「いや、いい香……?」
「嗅ぐんじゃない!この変態が!」
「ぐほぉぉぉ!?」
どこにそんな元気が残っているのか、顔に鉄拳を叩き込まれた。
「ふん!」
「ぎ、ギブアップ……」
その場に倒れこんだ。
マスターはバカですか?
なぜ試合後に重傷を負うのか、私には理解できません。
俺も理解できまふぇん……
「ではここから午後まで自由時間とします!時間になれば集合してください!」
何事もなかったかのようなルナ先生の言葉が遠くに聞こえた……