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夕食は和やかに食べたいものです

コンコン。


「はいよ」


控えめなノックの音を聞き、ドアを開くとルースがいた。


「カイ、ご飯行こうよ」


「えっ?もうそんな時間か」


精神的にも体力的にも疲労を感じていたので、ベッドで横になり、ぼーっとしている内に結構な時間が経っていたようだ。


「制服に着替えるから待っててくれ」


「うん。あっ、あと一個だけいい?」


「なんだ?」


「勝ち抜きおめでとう」


にっこりと微笑むルースはとても可愛らしい。


「あ、ありがとう……じゃあちょっと待っててくれ」


「うん」


俺はドアを閉じると、ため息をつく。


はぁ……

嫁にしたい。


残念ながらルース君は男性ですが?


いや実は男装しているという可能性は!?


マスターはお風呂も一緒に入っているでしょうが。


くぅ!正論パンチが物理パンチより疲れた身体に刺さる!


バカなことを言ってないで早く着替えてください。

お待たせしているんですよ?


……覗かないでね?


「あいだぁ!?」


返事の代わりに物理パンチが返ってきた。


「さっきは無かったたんこぶできてない?」


「ちょっとぶつけたんだ……」


着替え終わった俺の頭を見て心配してくれるルースの優しさが、しみじみと身に染みるぜ……


「カイたちも食事か。ならば一緒にどうだ?」


「ああ、ルースも構わないよな?」


「うん、よろしくね」


食堂に着くとフレアとも一緒になり、どこに座るか話しているとリーナも現れた。


「よろしければ私もご一緒してもいいですか?」


「ああ、もちろん」


フレアやルースも異論は無く、四人掛けのテーブル席に腰かける。


「改めてよろしくお願いいたします。リーナって呼んでくださいね」


「こちらこそよろしく。僕もルースでいいよ」


「……リーナ、あのことは絶対に話すんじゃないぞ?」


少し険しい顔をしたフレアが小さな声でくぎを刺している。


「あのこと……ああ、お風呂のことですか?」


「そんな大きな声で言うんじゃない!」


「ふむ、詳しく聞こうか」


俺は取り調べをするかのように、真剣な顔で問いかけた。


「貴様も興味を持つな!」


「ふふっ……女の子同士の秘密です」


「ならルースはオッケーだな?俺の代わりに聞いてくれ!」


「僕は男だよ!」


「か、可愛いですけどダメです!」


和やかな雰囲気で話している俺たちとは違い、周囲の雰囲気は嫉妬と殺意にまみれていた。


「リーナたんまでが……」

「あの野郎、調子に乗りやがって……」

「リビングメイルだって女騎士らしいし……あいつの周りは女の子ばっかりじゃないか!」

「分かる……胸の装飾に興奮するよな?あの高貴さがたまらん」

「いや俺はそこまでじゃない。一緒にするな」


ファーナの鎧に興奮する奴までいるんだが?


お、おぞましいとしか言いようがありません!

今すぐにでも串刺しにしてもよろしいでしょうか!?


絶対にやめてぇぇぇぇぇぇ!

まともな男子だっているんだから!


「リーナちゃんにママになってほしい……」

「フレア様の椅子になりたい……」

「ルースきゅん、はぁはぁ……スカート姿がきっと似合うよ?」


や、やべぇ奴しかいない。


「カイさんの召喚獣はDランクなんですよね?でも明らかに実力がランクに見合っていないと思うんですが?」


周りのことに集中していたら、リーナから不意に話を振られた。

俺は息を整えて、その質問に答える。


「最初はそうだったんだ。でもリビングメイルだって元は人だったわけだろ?ちょっとしたきっかけがあって、そのときの記憶を取り戻したみたいなんだ。力ある騎士だったらしくて今はその力を使えてるみたい」


完全ではありませんけどね。


ふふんと自信を感じさせるファーナ。


「そうなんですか。だからあんなに簡単にキリンさんの雷撃を防がれたんですね」


「リーナの試合も見事なものだったぞ。上手く連携出来ていたが相手が悪かっただけだ」


「うん、うん!他の試合は圧勝だったもんね!」


「そんな、でもありがとうございます……」


恥ずかしそうに、リーナが微笑んだ。

俺たちの会話が弾むのと反比例するように、周りはますますどんよりとしていった。


「なんで、あいつばっかり……!」

「しかもDランクのくせに強いしよ!そんな裏技は卑怯じゃないか!?俺もリビングメイルにしておけば!」

「喰らえ!不幸の念ーーーーーーーーーー!」


何かが送られているらしいが、無視だ無視。

楽しい夕食も終わり、部屋に戻ろうとしたときリーナが話しかけてきた。


「どうしたんだ?」


「ちょっとお耳をお借りしてもいいですか?」


「うん?」


俺はちょっとしゃがみ、リーナの身長に合わせる。


ひそひそと、


「今日見たことは、忘れてくださいね……?」


と、ささやく。


頭の中がぞわぞわした。

真っ赤な顔でお辞儀をして、フレアとともに女子寮へと向かっていく彼女の姿を呆然と見送る。


リーナ、それは逆効果だよ?

もはや色んな意味で忘れられない記憶になった。


純真な少女をたぶらかすのはやめていただけませんか?

この女たらし。


その言い方やめてくれない!?




さて、今日も無事に模擬戦は終わりましたね。

あとは三人の実力者同士のぶつかり合いになります。

これまで以上に準備が必要です。

それにしても思った以上にカイ君の召喚獣は異質……と言えばいいのでしょうか?

ランクの見直しが必要になるのかもしれません。


「おいおい!あのカイって奴は何者だよ!」


そんなことを考えていると、ガレフ先生が話しかけてきました。


「私も知りたいですね。召喚獣だけに目が行きがちですが、魔力の扱いも学生とは思えません。それだけにとどまらず戦略も非常に巧みです。どういった生徒なのでしょう?」


サフィール先生も私に問いかけてきます。


「彼は幼い頃から祖父に闘技場に連れていってもらい、勝ち方や戦術を詳しく教えてもらったとのことです。おじいさんは結構当てていたそうですよ?魔法に関しては近くのおじさんに教えてもらい、学んだそうですね」


「なるほど、高い的中率を誇るにはかなりの知識が必要ですからね。そのおじさんも気になるところですね」


「ならあの召喚獣はどういう理屈なんだ!?」


「そうですね。Dランクのリビングメイルとはとても思えません。ですが……」


「彼はリビングメイルという召喚獣を人として扱っていました。ですので絆が強く結ばれたのではないでしょうか?その結果、有り得ないほどの能力値の上昇があった。仮定の話ではありますが、そうとしか考えられません」


この仮定が正解かどうかは分かりませんが、リビングメイルがあそこまでの強さを持つとは想像もしていませんでした。

ですが、好き好んで低ランクのリビングメイルと契約する学生はいないでしょう。

カイ君は何か特別なものを感じ取ったのでしょうか?

謎は深まるばかりですね。


「そうか……なるほどなぁ」


「理屈は分かりますが……納得するのは難しいですね」


単純なガレフ先生はうんうんと肯きますが、冷静なサフィール先生には信じがたい話と言えるでしょう。


「明日が楽しみだな!」


「しかし、これまで以上にハイレベルな戦闘になると予想されますので、安全管理をお願いします」


私がそう言うと、


「分かってらい!」


「承知しています」


私は願いました。

明日も怪我もなく終わる様に。


……そして、とっておきのワインが私の元に来ることを。

カイ君、あなたのことを信じていますよ……


少し不純な願いが入ってしまったルナ先生だった。

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