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良い子は見ちゃいけません!

「ふぅ……スッキリしたぁ……」


「とっても気持ちよかったね」


ホテルに戻ってからはゆっくりと休み、外に出ることなく過ごした。

夕食を終え、風呂から出た俺たちは部屋へと戻る。


「とぉ!」


ぼふっ!


とんでもなく豪華な部屋だが、住んでしまえば意外と慣れてしまうもので今では気兼ねなくベッドへと飛び込めている。


「すっかりとこの部屋にも慣れたね」


ルースが俺のダイブを見て笑って話しかけてきた。

しっとりとした金髪が色っぽいので目のやり場に困ったものだ。


そこは慣れないのですね?

何度も一緒にお風呂入っているでしょうに。


いやらしい言い方しないでくれる?


べ、べつにいやらしい言い方ではないと思いますが!?


むっつり姫をほっておいて俺はルースへと返事をした。


「ああ、慣れ過ぎて学園のベッドじゃ物足りなくなるのが辛いところだ……」


「あはは、だよねー」


そうしてたわいない会話を続けた後、俺はベッドに横たわっているルースへ本題を切り出した。


「試合、惜しかったな」


この話題に触れないわけにはいかない。


「うん。だけど満足しているよ」


そう言いにっこりと笑うルースだが、そんなに簡単に割り切れるものでは無い。

白と黒のようにはっきりとした敗北ならばあきらめもつく。

それは己の力が足りなかったからだ。

だが、ルースの試合はそうではない。

審判する人によって判断が分かれるようなものだった。

だからこそ、負の感情が溜まってしまう。


なぜ?

どうして?

僕は、負けてないのに……


そんなものを周囲に見せないよう一人頑張っている親友に対し、俺が見ないふりをするのは優しさではない。


俺は自分のベッドから立ち上がり、ルースのベッドへと足を運び、


「とぉっ」


ぼふっ!


俺はベッドに飛び込んだ。


「カ、カイ!?なにしてるの!?!」


ベッドの上でルースを押し倒すような姿勢になり、俺の身体の下でルースは慌てているが、俺は冷静なまま言葉を続けた。


きゃぁ!?きゃぁぁぁぁぁぁ!?


……むっつり姫がうるさいがほっておこう。


「俺にまで隠すなよ!悔しくて苦しいんだろ!その想いをぶつけろよ!俺が全部受け止めてやるから!」


「……」


黙ったままのルースだが、瞳にどんどん涙がたまり、やがて溢れてこぼれていく。


「……やだ」


それでもぷいっと目をそらして、吐き出そうとしない。


「相変わらずの負けず嫌いだな。さっさと吐け!このこの!」


「あはははははは!ずるいよ!やめてよ!」


俺はルースの脇やらお腹をくすぐる。

けっこうくすぐったがりなのはここまでの付き合いで把握済みだ。


「はぁはぁ……」


……どんどんルースの吐息が色っぽくなってしまう。

これ以上はヤバいと本能が思ったのか、自然に手が止まった。


「「……」」


見つめ合ったままお互いに黙ってしまい、次第に部屋の中は静かになっていく。


「ばか……」


「えっ?」


少しして、ぼそりとルースがつぶやいた。


「せっかく、頑張って隠してたのに……」


「全部、出していいんだ。俺たちは友達だろ?」


「……引いたりしない?」


「しない」


「約束だよ?」


「ああ」


すぅ……っとルースは息を吸い込んだ。


「僕の勝ちだよ!だって相手の攻撃は全部避けてた!クリーンヒットしたのも僕だけだった!ルナ先生だってそう言ってくれた!どこに目を付けてるんだよ!審判なんかするんじゃない!」


するとすぐに怒涛の勢いで不平不満が出てくる。


「そうだよな!どこ見てんだよ!ふざけてるぞ!」


「そうだよね!」


俺も思いっきり相槌を打っていく。

ルースの顔は涙でぐしゃぐしゃだが、その表情は晴れやかな笑顔だ。


その後、どれほどルースの本音をぶつけられただろうか?


「「はぁはぁ……」」


ルースの息も荒いが、相槌を打ちまくったおかげで俺も荒い。


「……ありがと、カイ」


「少しはスッキリしたか」


「うん……とっても気持ちよかった……」


「それはよかっ……」


バタン!


「貴様ら!何をしているか!?」


「二人とも不純同性交遊はいけませんよ!?」


「ルナ先生!同性はありでは!?」


「そういう問題?」


よく見知った顔がいきなり乱入してきた。


「「……えっ?」」


俺たちは突然のことに呆けた言葉を返してしまう。


「同じベッドの上……」


「ルース君……泣いてますよ?」


「これは、アウト」


「二人とも、説明していただけますか……?」


ルナ先生がにっこりとした圧をぶつけてきた。


なにやらとんでもない誤解をされているようだ。


「何か勘違いしてないか!?なぁルース!」


「うん!カイは僕の溜まっていたものをスッキリさせてくれただけだよ!?」


「「「「溜まっていた……スッキリ……」」」」


真っ赤な顔で女性陣はこちらを見てくる。


「余計に誤解を深めてどうすんだよぉぉぉ!?」


「なんで!?普通に説明しただけなのに!」


「そっちこそなんでここにいるんだよ!」


「元気のないルース君の励ましに来たんです!」


「ルナ先生に相談したら自分が同行すれば問題はないでしょうということで一緒に来たんだ!」


「鍵が開いてたから、こっそりと入って驚かせようと思った」


「そしたら……二人の情事のような、息遣いが……!」


「「違います!!」」


俺たちはこれまでのことを全て包み隠さずに話した。


「なるほど、そういうことですか……」


納得のルナ先生。


「ほっ……」


安心するフレア。


「なんだぁ……」


なぜか残念そうなリーナ。


「ならばよし」


いつもの無表情なサリア。


反応は様々だが、一つ言えることがある。


一見すると明るくふるまっていたルースの心境を見抜き、応援に駆けつけてくれた。


友達っていいもんだな。


はぁはぁ……そうですね……


……このむっつり姫。


今回ばかりは言い返せません……


ようやく落ち着いたファーナは、不甲斐ないと言わんばかりに呟くのだった。

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