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マスターが教えてくれません!

「それでは皆様、私は失礼させていただきます」


アリシアは礼儀正しく会釈をすると、俺たちに背を向けて歩き出す。


ピタッ。


だが、少し進んだところで振り返った。


「カイ様?先にお待ちしておりますので、ぜひとも私を気持ち良くさせてくださいね?」


「き、気持ちよく……?」


「ええ……あなたとなら私、興奮できそうです……一緒に味わったことのない快感に達してみませんか?」


アリシアの笑顔は妖しい魅力を醸し出している。


ごくり。


その笑顔を見た俺はなぜか喉が渇いてしまう。

恐ろしくもあるが、魅惑的な何かを感じたようで……


「せいやぁぁぁ!」

「カイさん!魅了されてはいけません!」

「戻ってくる」


「いだぁぁぁぁぁぁ!?」


後頭部に手刀、背中には平手打ち、すねには蹴りが飛んで来た。


「何すんだよ!?」


「何をするじゃないわ!あんな妖しい女にフラフラと誘われおって!」

「彼女はきっと堕天使です!ふ、不埒なことに誘惑に負けてはいけません!」

「綺麗な花にはとげがある」


「ひどい言われようですね……でも、そんなところもカワイイ……ふふふ……」


「くっ……手強いな……」

「危ない人ですね……いろんな意味で……」

「間違いない」


さんざんな言われ方をしたというのにとっても嬉しそうに微笑むアリシア。


まさか……男女どちらでもいけるだけではなく!攻めと受けどちらでもいけるのか!?


マスター?彼女が攻守万能なのは試合をご覧になってわかっていたことでしょう?


……そういう意味じゃない。


ではどういった意味ですか?


キラキラ!


そんな純粋な想いを俺にぶつけないでくれ!?

ま、まぶしいぃぃぃぃぃぃ!?


脳内に圧倒的な輝きを感じ、俺は心理的なダメージを負う。


ファーナは、綺麗なままでいてくれ……


なんですかそれ!?

教えてください!教えてください!気になるじゃないですか!


……子供がどうやったらできるか知ってる?


バ、バカにしないでください!

いくら恋愛経験がないとはいえそれくらい知っています!

ちゅ、ちゅーしたらできるのでしょう!?


よし、絶対に教えない。


なぜなのですかぁぁぁ!?


年上女性に性教育できるわけもなく、強制的に話を終わらせた。


「それでは今度こそ、失礼いたします」


アリシアは鎧の重さを感じさせないような優雅な足取りで去って行く。


「さ、さすがアリシアだな!あんな低ランク学園など楽勝だっただろう!?」


先ほどまで尻もちをついていたペトル教授がアリシアの後を追いかけながら、こちらを嘲笑うような視線を送ってくる。


そういえばいたんだな。

すっかりと忘れていたが、相変わらずムカつく奴だ。


「黙れ。その醜悪な顔を私に見せるな。この俗物が」


「ひぃ!?」


そう言ったアリシアの横顔は先ほどまでのように柔和なものではなく、圧倒的な怒りに染まっている。


こえぇぇぇぇぇぇ!?


「その性根だけではなく、目までもが腐っているな。私の勝利が薄氷での勝利だというのが分からんのか?違う審判であれば私の敗北だった可能性すらある。何が低ランクの学園だ、この無能」


「うっ……うぅ……」


……ムカつく相手ではあるが、あまりにも哀れになってきた。

ペトル教授はすっかり涙目である。


「はぁはぁ……」


いや、なんだか興奮していないか?

……もはや調教済みなのかもしれない。


「それにだ。高いレベルの教育が受けられるというから入学したというのに、待っていたのは管理教育。そのせいで先に進もうとしても自習してでしか学べることがない。確かにどの生徒もある一定値にまで成長させているのは認めるが、闘い方に個性のない者ばかりだ。これではどの相手と闘っても同じではないか。それに比べて……」


アリシアはこちらへと振り向く。


「短い間でしたが……とっても、とっても楽しい時間でした……ねぇ、ルースさん?」


今度は天使のような笑顔を浮かべている。

雰囲気すらも一瞬で変えられることに俺は驚きを隠せない。


「……そ、そうだね」


ルースもアリシアのあまりの変わりように頬を引きつらせながら、答えていた。


「ふふふ……」


そして今度こそ振り返ることなく去っていき、その後をペトル教授が黙ったままついていった。


「ルース……とんでもない相手と闘っていたんだな……」


「うん……今までにない強敵だったよ……いろんな意味で……」


「ですが、とっても良い生徒さんですね」


ルナ先生は嬉しそうに微笑みつつ、アリシアへの評価を下した。

恐らくだが、ルナ先生自身がペトル教授に言いたいことを、アリシアがほとんど言ってくれたことに嬉しさを思っているのだろう。


「それでは帰りましょうか。お疲れ様でしたルース君。良い闘いでしたよ」


「あ、ありがとうございます!」


ルナ先生の言葉に、ルースは嬉しそうに笑った。




「抗議もありましたが、無事に終了しましたね。しかしああいった抗議で判定が覆ることはあるのでしょうか?」


「……判定が覆ることはない。だが、闘っていた本人にとってはこれ以上ないほどに嬉しいものだ。自分の勝利だと、師が認めてくれるのだからな……」


「な、泣かないでください……」


「泣いてなどおらんわ!」



「ルースちゃぁぁぁぁぁぁん!とってもカッコよかったわよぉぉぉぉぉぉ!」


「そうだ!負けてもなお凛々しく可愛いぞぉぉぉぉぉぉぉ!」


相変わらずなルースのご家族たちを、俺は微笑ましく思いながらリングを後にするのだった。

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