質と量です!
「接近戦となると武器のリーチ差によりルース選手は不利ではないでしょうか?それに防御面にも不安がありますし……」
氷の矢に追われながらも少しずつ地上へと近づいていくルースを見た実況の人は、ヴィオラさんに質問を投げかける。
近距離戦となった場合、現状ではルースの短剣とアリシアの長細剣での闘いとなるのでその疑問は当然のものだ。
「……ルースのことです。軽装なことにも何か策があると思われますので、このまますんなりとは終わりませんよ」
ヴィオラさんの不安を感じさせない力強い言葉からは、ルースへの信頼が伝わってきた。
「信頼に応えてやれよ!ルース!」
俺はありったけの声を張り上げて声援を送る。
その瞬間、防戦一方だったルースの瞳にギラリと光が宿った。
ルースは向かってくる氷の矢に炎の矢をぶつけ、発生させた蒸気でアリシアの視界を遮る。
それでもアリシアはある程度の位置を予測して、氷の矢を蒸気の中心部に集中させた。
キィィィィィィ!
突然発せられたグリフィンの鳴き声だが、それは断末魔ではない。
そして蒸気を突き破って出てきたのは、白の軽装鎧に身を包んだルースの姿だった。
「これは!?グリフィンの姿はなくなっておりその代わりに白い鎧に身を包み、背中に翼を生やしたルース選手がアリシア選手に突っ込んでいきます!そしてその手には白光に輝く片手剣が!」
「武装変化!そんなスキルを隠し持っていたか!」
「!?」
これにはアリシアも動揺を隠せない。
そのせいで一瞬判断に迷った。
このまま氷の矢を放って迎撃するか、床に突き刺した剣を手に取るか。
だが迷いは貴重な時間を消費してしまう。
その結果。
ガキィィィン!
地上すれすれを飛来してきたルースの剣を、アリシアはとっさに両腕で防ぐことしかできなかった。
ズザザザザザザザザッ!
アリシアはその勢いに押されるが、なんとか踏みとどまる。
「電光石火!ルース選手の斬撃がアリシア選手を捉えました!」
しかし、
グググッ……
交差した腕でルースの剣を防いだアリシアが剣を押し返していく。
……中に入ってるのって女の子のはずだよな?ごつい漢じゃなくて?
その光景を見た俺はそんな感想を持ってしまう。
ルースも非力ではないはずなのだが……
私もあれくらいできますよ?
ファーナは豪姫だからな。
別に驚きはしないぞ。
姫と言えばなんでも許されるわけではありませんが!?
ビュン!
体勢を取り直すと、アリシアは鋭い蹴りを繰り出した。
ルースは即座に反応し、後ろへと跳ぶ。
それを追うように素早い動きで拳を突き出す。
「アリシア選手!剣技、操魔技術を披露したあとは格闘を披露します!」
「ルースも相当なオールラウンダーではありますが……アリシア選手はそれ以上ですね」
あの子、本当になんでもありだな……
確かに見事な体術ですが、今がチャンスです。
ん?どうしてだ?
彼女が剣を使わないのには理由があるのです。
そう言われてみれば近くにあるのに取りに行ってないな。
でもそれは体術で圧倒しようとしているんじゃないのか?
違います。
彼女は手の内を見せることを極力しませんでした。
なのに今は体術までも見せています。
それがなぜかと言うと、使いたくても使えないのです。
ルース君の奇襲による一撃を防いだことにより、手が痺れているのでしょう。
なるほど、いくら重装鎧とはいえ衝撃までは軽減できない。
俺もリンクメイルでファーナの中に入っていた時は腕が痺れていたもんだ。
「残り時間あとわずか!このまま判定に持ちこまれるのでしょうか!?」
今の二人の闘いはお互いに決め手が欠けてしまっている。
腕の痺れがあるアリシアは回避と防御に専念し、ルースの攻撃を受け流していく。
そしてルースはその鉄壁の防御を打ち砕くことができないでいる。
彼女、攻撃一辺倒ではありませんね。
防御時の身のこなしも目を見張るものがあります。
ルース君も速さのある攻撃ですが、どちらかというとカウンターを得意としていますので攻めてこない相手では少々辛いですね。
アリシアも攻撃を出してないわけじゃないだろう?
あれに合わせられないか?
実際、拳を繰り出したり、蹴りを放ったりと要所要所でルースに対し攻撃している。
いえ、あれはルース君の攻撃を邪魔するものです。
つまり妨害ですので、カウンターは難しいでしょう。
カウンターは自分を倒すための最大の攻撃に合わせることで最大の威力を発揮しますからね。
倒すつもりのない攻撃に合わせても、効果は薄いってことか……
はい。
これは……判定になるな……
「そこまで!試合終了!」
そして激しい攻防が続く中、試合終了を告げる主審の声が響き渡った。
「なんと!今大会初の判定に持ち込まれました!どちらが優勢と判断するのでしょうか!?」
「手数的にはアリシア選手の方が多いですが、クリーンヒットはルースのものです。これは、難しい判断になりますね……」
主審と副審の二人がリングの中央で話し合いをしている。
この三人にこの試合の勝敗は託されたようだ。