お見送りです!
うーん……気になるなぁ……
フレアさんたちにつねられた頬のことですか?
確かにジンジンと痛むがそうじゃない。
ルースの対戦相手のことだよ。
ファーナはどう見たんだ?
剣を使っているし、何かわかることはあるだろう?
いくら私でもあれだけ短い試合では判断できません。
ただ……
な、何か気になることがあるのか?
ええ、とても気になりますね……
これは重要な情報になるかもしれん。
なかなか見事な鎧を着用していますが、私の鎧の方が綺麗ですよね!?
まったくもってどうでもいい話だった。
「それじゃあそろそろ僕の試合だから行くね」
げっ!?もう時間切れか!?
試合の時間が近づいてきたルースは控室に向かおうとする。
ガッ!
俺は立ちあがったルースの左腕を掴んだ。
「カ、カイ?どうしたの?」
突然の俺の行動にルースの大きな瞳が驚きの色に染まっている。
「気を付けてな」
「……ありがと」
そう言って俺の手に空いている右手を重ねると、にっこりと微笑んだ。
そのまぶしい笑顔によって手の力が抜け、ルースの腕はするりと離れていく。
俺は少しずつ遠ざかっていくルースの背中を見ていることしかできないでいた。
「やはりルースが最大のライバルか……」
「ええ、間違いないですね……」
「これは強敵」
後ろからぼそぼそとそんな声が聞こえてくる。
確かにそうだ。
フレアたちには悪いが、俺にとっての最大のライバルはルースだと思っている。
……マスター、おそらくそういう意味ではないと思われます。
えっ?ならどういう意味だ?
それはご自分でお考えください。
俺はファーナの言葉に首をかしげるのだった。
「続いての試合は、ヴィオラさんお待ちかねのルース選手ですね!」
「ははは、少しお恥ずかしいですが、気になってしまうのは仕方ないと思っています」
「ご家族のことですからね!お相手はアルグランド学園の首席であるアリシア選手ですが、どう予想されますか!?」
「……難しいですね。未だに判断に迷っています」
「おや?そうなのですか?てっきりルース選手の勝利と予想すると思っていましたが……」
「願望と予想は違いますよ。冷静に考えた末に、判断は難しいという結果になりました」
「それにはどういった理由があるのでしょうか?」
「両選手の一戦目を観た私は、勝利した二人が全ての力を出していないと感じました。となると実力は未知数です。なので予想は難しいとしました」
「なるほど!一戦を観たくらいではわからないほどの実力者二人ということですね!?」
「そうであると私は考えています」
「これは楽しみな試合となりそうです!会場の皆様もご期待ください!」
さすがヴィオラさん。
ルースをひいきするではなく、冷静に解説してくれる。
リング近くの観戦席へと移動した俺はベンチに座り、そう思っていた。
すると、
「何言ってんだよ父さん!ルースをもっと褒めろよな!」
「そうよ!私ならもっとルースちゃんの魅力を語るって言うのに!」
……なんだか聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえてきたのだが、触れないでおこう。
「それでは皆様お待たせいたしました!選手入場です!」
ルースと対戦相手であるアリシアが並んで歩き、リングに向かっていく。
「ルースぅぅぅぅぅぅ!カッコいいぞぉぉぉぉぉぉ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!こっちに手を振ったわぁぁぁ!」
……大歓声に包まれる中、俺の目はアリシアの青の鎧を追う。
ファーナのような女性用と一目でわかるものではない。
おとぎ話の勇者のような装飾がされている。
改めて見ると……
カッコいいなぁ……
男子ならそういう感想が出るだろう。
私の鎧の方がカッコいいでしょう!?
ファーナのは女性的なカッコよさだろう?
向こうは男性的なカッコよさがあるんだよ。
それにどっちかというとファーナの方は綺麗という言葉の方が合うしな。
……そういうことならば、納得してあげましょう。
なぜそんなに偉そうに納得されねばならんのだ?
疑問に思ったが、リング上の二人に集中することにした。
制服姿で無手のルースに対し、完全防備な上に剣を持っているアリシア。
一見すればアリシアの方が断然有利とも取れるが、そう単純にはいかないのが召喚師同士の闘いだ。
互いに中央の位置で礼を交わし、指定位置へと向かう。
「さあ両選手、指定位置につきました!」
「試合、開始!」
「おいでリフィル!」
「……」
審判の号令とともに二人は召喚獣を繰り出していった。