とても気になります!
王都で過ごすこと三日目。
「勝者、カイ選手!」
闘技場で行われた試合を俺は問題なく勝つことができた。
昨日の試合でわかっていたことだが、やはり同じ一年生としてはかなりの力量差があるようだ。
「お疲れさま」
リング近くの観戦席に戻るとルースやフレアたちが出迎えてくれた。
「ありがと。次はルースの番だぞ」
「うん、僕は次勝てば決勝だね」
「人数の関係で一試合少ない方に組まれたのはラッキーだよな。先に行って待っててくれよ」
少し不公平な感もあるが、王都の闘技場はとにかく日程が詰まっているらしい。
それは召喚師戦だけではなく、劇や演奏会なども開催されているためだ。
だからなにも言えない。
下手に文句を言ったら王都での開催がなくなってしまうかもしれないからな。
少々日程がきつかったり、不公平さがあったとしても生徒としては王都という晴れ舞台で闘いをしたいものだ。
「あははは、決勝で代表戦のリベンジをしたいから頑張るよ」
「おう、その意気だ」
次のルースの対戦相手はアルグランド学園の首席か。
だが、次席のダクドがあれくらいの力量だった。
たとえ首席といえどそれほど差があるとは思えないな。
俺は対戦表が書かれた紙を手に取ると、ルースの対戦相手を確認した。
アリシア・メルディア。
召喚獣はCランクのペガサスか。
ペガサスはクリス先輩が召喚しているユニコーンよりも攻撃手段に乏しく、地上を駆ける速さも劣る。
だが、純白の翼を持っているペガサスは空を駆けることができるという強みがある。
……まあそれ以外はほどほどの補助と回復ができるくらいだったはずだ。
うん?なにか変じゃないか?
そういった平凡な召喚獣でアルグランド学園の首席を取ったことに妙な違和感を覚える。
一回戦はどういった闘いをしていたっけ?
俺は昨日の試合の光景を振り返っていく。
海のような透明さを感じる青のフルアーマーを纏っており、顔はわからない。
わかっていることは細長い剣を使うことくらいという第一印象だった。
試合が始まると召喚したペガサスに騎乗し、上空で様子を窺っていく。
しびれを切らした相手が、自身の召喚獣であるマンティコアを空へと迎撃に向かわせた。
それをさらりとかわした隙に素早く対戦相手の元へ向かい、剣で打ち倒したんだ。
相手は杖を持っており、遠距離をメインとしたスタイルだっただろうに、召喚獣を自分から離れた場所へ向かわせるという失策の隙を突かれたのが敗因。
それが改めて分析した俺の見解だった。
しかし、アルグランド学園のペトル教授の言葉を不意に思い出す。
「くっ!失礼する!だが、覚えておけ!我が学園の首席には勝てんぞ!」
その言葉が俺の脳内で渦巻きだしていく。
「どうしたの?急に黙り込んで」
ルースがきょとんとした表情で問いかけてきた。
「……んっ?ああ、ルースの対戦相手が女の子みたいな名前だなと思ったんだ」
「あっ、ホントだね」
ペトル教授の言葉は気になるものの、どう説明したらいいのかわからない。
なので二つ目に気になっていたことを話した。
「ええ、彼女は女子生徒ですよ」
前の席に座っているルナ先生が俺の疑問を解いてくれる。
「そうなんですか!?」
「はい、現在のアルグランド学園では唯一の女子生徒です」
フルアーマーだったし全然気がつかなかった。
「どういった生徒かわかりますか?」
「いえ、私も詳しいことは知りません。ただ女子生徒がアルグランド学園の首席を取ったと聞いたくらいでして」
「そうですか……」
どうも気になるな。
「そんなにその女子生徒が気になるか?」
「ああ、とても気になるな。どういった人物なのか……」
「あと可愛いかどうかも気になりますね?」
「うむ、それも大事だな」
「それにおっぱいも重要」
「最重要事項だ」
マスター?
うん?どうした?
無意識なのでしょうが、本音がでていますよ?
ほへ?
「貴様ぁぁぁ……」
「うふふ……どこまで女の子好きなんですかぁ?」
「許すまじ」
フレアたちはとんでもない怒気を俺に向かって放っていた。
げっ!?
考えごとしてたせいで、つい余計な発言をしてしまった!
「ち、違うんだ!俺が気になったのはあくまでも対戦相手としての戦闘力であってだな!?」
「なるほど、ならば鎧の中身には一切興味はないと」
「……ないよ?」
俺の男としての本能が一瞬の戸惑いを生じさせ、それが即答を拒んだ。
「嘘だ!」
「嘘ですね!」
「嘘」
「君たちは鋭いなぁぁぁぁぁぁぁ!だけど!」
だが俺には仲間がいる!
苦楽を共にしたルースをはじめとした男子たちが!
「気になるのは仕方ないよな!?」
「いや?」
「ははは、お前だけだろう?」
「このむっつりすけべ野郎」
「貴様らぁぁぁぁぁぁ!」
とんだ裏切り者だ!
「ルース!お前は違うよな!?」
俺は心の友であるルースに視線を向けた。
「カイ、八方美人は良くないよ?」
「お前もかルースぅぅぅぅぅ!」
「「「あはははははは!!!」」」
周囲はいつものように慌ただしくなったものの、俺の感じている戸惑いが消えることはなかった。