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そんなのありですか!?

「ラインドル選手の猛攻が続いていますが、クリス選手に反撃の手立てはあるのでしょうか?」


魔力の残量を気にしていない対戦相手は、思う存分に上空から攻性魔法をクリス先輩に打ち込んでいる。

それに対して回避を集中させると、ワイバーンの援護攻撃が背後から襲いかかるという状態だ。

はた目から見ている俺には完全に翻弄されているように思えてしまう。


「彼女の戦闘スタイル的に難しいように思えます。ラインドル君もケンタウロスを失ってしまったものの、その後はクリス選手を見事に抑え込んでいますね。ですが、クリス選手の顔をご覧ください」


「私の目には苦戦中のように映るのですが、楽しそうに見えますね?」


汗に濡れているクリス先輩の顔には、晴れやかな表情が浮かんでいる。

ユニコーンに跨り、ポニーテールを揺らして戦場を微笑みを浮かべながら駆け抜けていく。

その姿には美しさすら感じてしまう。


「実際に楽しいのでしょう。一年生の頃から彼女を見ていますが、ここまで苦戦するところを見たことがありません」


「苦戦することが楽しいのですか?私としては楽に勝てる方がいいと思うのですが……」


「それは日ごろから苦労をしているからこそ出る言葉ですね。恐らく大多数の方はそう言うのでしょうが、少し言い方を変えましょう。簡単に手に入ったものと努力を重ねて苦労して得たもの。どちらに愛着がありますか?」


「それはもちろん後者ですね。努力した日々などいろいろな思い出がありますから」


「私もそうです。楽に勝利した試合はあまり記憶にありませんが、苦戦してなんとか勝利した試合は今でも覚えています。ですが、私の知る限りですがクリス選手にはそのような試合はありません」


「なるほど……だからこそこの苦戦している状況を楽しんでいるということでしょうか?」


「はい、どうすれば勝利できるのか?必死に模索しているのだと思います」


きっとその言葉通り、クリス先輩は戦場を駆け回りながら考えているのだろう。

起死回生の一手を。


「おっと!回避に専念していたクリス選手が突然方向転換し、ラインドル選手へ向かっていきました!」


「何か突破口を見つけたのでしょうか?」


ドドドドドド!


クリス先輩は一直線に向かっていくが、対戦相手は三階席と同じくらいの場所にいる。

大体俺の身長の三倍から四倍くらいか?

どうあがいても届く範囲ではない。


「行くよ!ユニユニ!」


ヒヒィーン!


ユニコーンは大きくいななくと、勢いよく跳び上がった。

驚くほどのジャンプ力だ。

だが、その跳躍の最高点は半分ほどであり相手にはとても届かない。


「ははは!召喚獣の力を過信しましたね!そこです!」


ここぞとばかりに炎の矢とワイバーンのブレスが落下し始めているクリス先輩の頭上から降り注ぎ、前と後ろから襲いかかった。


「シールド展開!」


なんとか防ぎきってくれ!


俺はそう思った。

だがシールドが展開された場所は、意外な場所だった。


「なにぃぃぃ!?」


相手は驚愕の表情を受かべる。


ユニコーンが同時攻撃をくぐり抜けるように前方へと駆け出したのだ。

自身で展開したシールドを足場にして。


「まだまだぁぁぁぁぁぁ!」


ブルルル!ヒィィィン!


ユニコーンは空中を駆ける。

その姿はまるでペガサスのようだ。


足場にしているシールドはクリス先輩とユニコーンが交互に出現させているようで、少し形状が違っている。

だというのに、ユニコーンの足並みは乱れることがない。


カッ!カッ!カッ!カッ!


シールドを踏みながら、ドンドンとユニコーンは上昇していく。


「こ、こっちに来るなぁぁぁぁぁぁ!」


グルァァァァァァ!


恐怖を感じた主を護ろうとワイバーンが進路をふさぐように立ちはだかる。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


一閃。


すれ違うと同時にその屈強な身体は斬り裂かれた。


グォォォォ……


断末魔を残し、ワイバーンの残骸は光の粒子となって落下していく。


「あとは君だけだよ!」


「なんでもありか!君という存在はぁぁぁ!」


キィィィ!


主を乗せたグリフィンは急いで飛行し、距離を離していく。

途中で進行方向を変えたりとなんとか引き離そうとするが、ユニコーンは確実にその距離を縮めていった。


そして、


「捕まえたぁぁぁぁぁぁ!」


クリス先輩の剣が閃光のようにグリフィンの半身を斬り裂いた。


キィィィィィィ……


グリフィンもまたその身体を失い、粒子となって消えていく。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


その背に跨っていた対戦相手は地上へと落下して叩きつけられる。

そうなるはずだった。


ガシッ!


クリス先輩は落下する対戦相手の手を掴むと、シールドを階段のように展開してそのまま無事に地上へと降り立った。


「な、何故助けた……私は敵だぞ?」


「あれ?まだ闘うつもりだった?それなら改めて勝負する?」


「……いや、私の負けだ。召喚師としてだけではなく、人としても完敗だよ……」


「試合終了!クリス選手の勝利!」


わぁぁぁぁぁぁぁ!!!


大きな歓声が場内を震わせていく。


「君も強かったよ!また闘ってほしいな!」


「ふふふ……今度は、君一人でお願いしたいものだ」


「それは無理だよぉ!ボクだってギリギリだったんだから!」


「そうか、その言葉だけで救われるよ」


歓声に包まれて、二人がどういった会話を交わしたのかはわからない。

だが、わだかまりなく握手をしている姿を見たことで良い終わりを迎えたであろうことはわかった。


良い試合でしたね。


……ああ。


どうしました?

不機嫌そうですが、何かご不満でも?


俺って手加減されてたんだなぁ……と思ってな。


マスター、強くなることです。

そして全力のクリスさんと闘いましょう。


ああ、ファーナも力を貸してくれよな?


ええ、もちろんですよマスター。


俺は改めてクリス先輩との力の差を思い知らされた。

だが、俺の心は晴れ晴れしている。


高い山ほど、登りがいがあるものだからな。

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