時間が足りません!?
「皆様お待たせいたしました!三年生の部、第一回戦を開始いたします!」
わぁぁぁぁぁぁぁ!!!
リングの準備が終わったらしく、いよいよクリス先輩の試合が始まるようだ。
今日一番の歓声が痛いほどの大音量で耳に入ってくる。
その凄まじさと言えば、俺たちの座っているベンチに振動を感じさせるほどだ。
対戦相手は魔法系か?
木製の杖には赤い宝玉がはまっており、攻性魔法の使い手だと予想できた。
白いローブにフードを深くかぶっており、そのため顔は見えないがこの大歓声にも落ち着き払っているように見える。
さすが三年生、代表戦にも慣れたものというわけか。
「試合、開始!」
指定位置に着いたことを確認した審判の声により、
「行きますよ!皆さん!」
「おいでユニユニ!」
お互いに召喚を開始した。
しかし、クリス先輩の選んだ召喚獣はユニコーンか……
ただでさえ数で劣るというのに、ランクでも圧倒的に劣る召喚獣を選ぶとは……
そんな風に考え、俺のさらに不安が増したとき。
マスター?
うん?なんだ?
強さはランクでは計れません。
そうじゃありませんか?
……さっきみたいにあほなことを言ったかと思えば、今みたいに大事なことを思い出させてくれる。
今はあほな子ではなく頼れるお姉さんだ。
そうだな。
頼れる先輩の闘い、安心して観戦するとしよう。
はい!
クリス先輩は長い金髪をポニーテールにまとめ、見慣れた制服姿が凛々しく見える。
もちろんスカートの下には黒いスパッツを履いており、しっかりとガードしているので安心だ。
そして武器はロングソード。
身長とほとんど変わらない長さの物をよく片手で持てるものだ。
俺は次に対戦相手の召喚獣の方へ目をやると、
げっ……
その布陣に危機感を覚えた。
ルースが使役している空の大型獣グリフィン、人馬一体で弓を使うケンタウロス、さらに翼竜ワイバーン。
どうやら近距離ではやり合わないスタイルのようだ。
近距離特化のクリス先輩では、遠距離特化の相手だと攻撃が届きにくい。
そうなると時間切れで勝負が決まってしまう可能性が高くなってきた。
ただでさえグランプリは連戦が続くため、試合時間は通常よりも短めに設定されている。
フルタイムで試合をすれば回復が追いつかないのでそうなっているというわけだ。
もし時間切れになったらどうやって勝者を決めるのですか?
審判の人たちがどちらが優勢だったかで決める。
リング上にいる主審と両端にいる二人の副審によって判定されるってわけだ。
なら、優勢劣勢の判定基準はどうなっています?
一番大事なのが召喚獣の撃破数。
それが同じだった場合は、お互いのダメージの大きさなどで判断される。
なるほど、ならばもうすぐで一歩リードとなりますね。
えっ?
俺がファーナに説明している間の短時間の内に、ユニコーンへ騎乗したクリス先輩がケンタウロスへと目標を定めて突進していた。
グリフィンの背に乗った召喚師は上空から速度のある雷属性の攻性魔法を放つが、クリス先輩には当たらない。
クリス先輩の指示というよりも、ユニコーン自身が攻撃を察知して交わしているように見える。
そしてワイバーンも上空から急降下してクリス先輩に襲い掛かるが、ロングソードであっさりと撃退された。
ケンタウロスはなんとか距離を取りつつ、何度も矢を放つが全てかわされていく。
ユニコーンが主には当てさせないと進路を変えているためだ。
クリス先輩はその突然の進路変更に振り落とされることなく、ユニコーンと身体を合わせている。
その姿は、追われているケンタウロスよりも人馬一体のように見えてしまう。
いつまでも追ってくるクリス先輩に夢中になっていたケンタウロスは、自身の前に迫る壁に気づかなかった。
ドン!
ギャッ!?
その結果、衝突してしまい転倒したところをクリス先輩のロングソードに貫かれてしまう。
グォォォォ!
「まずはひとつ、だね」
わぁぁぁぁぁぁぁ!
馬上でにっこりと笑ったクリス先輩に闘技場内は大興奮だ。
圧倒的な強さを見せた次の瞬間には無邪気な可愛さを見せてくれている。
「す、すげぇ!」
俺も思わず叫んでしまった。
だが……
「こ、この……化け物め!」
上空からクリス先輩を見下ろす対戦相手には、恐るべき敵としか見えなかったことだろう。