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ゆっくりとお散歩です!

ひたすらに誤解を解き、九死に一生を得た俺はホテルのロビーへと帰ってきた。


「それでは少しの間ですが、自由時間とします。ホテルの外に出ることも許可しますが、点呼の時間までには戻ってくること。それではこれで解散です」


さて、これからどうしようかな。


そう思ってルースに声をかけようとしたのだが……


「ルースちゃん!とても凛々しい姿だったわ!」


「さすが私たちの息子だ!」


「や、やめてよ!二人とも!」


プライベートな時間になった瞬間、エルヴィさんとモアさんがルースへと抱きついている。


た、助けて……


ははは、家族の団らんを邪魔できん。


困り果てた表情でメッセージ送ってくるルースに笑顔を返した俺は、フレアたちに声をかけることにした。


「あれ?クリス先輩にセツカ先輩も一緒ですか?」


学園の女子生徒が勢揃いしている。


「うん!これからみんなで買い物に行くんだ!」


クリス先輩が笑顔で教えてくれた。


「へぇ、何を買いに行くんです?」


暇だし荷物持ちとしてついていこうかなと思っていたのだが、


「ん?下着だよ?」


ついていける訳がない。


「失礼いたしました……」


「カイも来る?」


俺はその場を離れようとしたが、サリアの提案に即座に食いついてしまった。


「えっ!?いいの!?」


「いいわけあるか!」

「いいわけないでしょう!?」

「男子禁制だ!」


フレア、リーナ、セツカ先輩によって当然の如くダメだしされる。


「ですよねぇ……」


当然でしょうに。


ワンチャンいけるかなって……


ノーチャンスです。


ファーナにまで冷たくあしらわれたので、傷心のまま俺は散歩に出かけることにした。

とはいえあまり遠くまで出かけると迷ってしまいそうなので、近場をぐるりと回るだけにしよう。


俺はホテルから出るとふらりと歩きだした。

するとすぐに自然豊かな公園を見つける。


おお、綺麗な紅葉だな。


ええ、見事なものですね。


公園内にある木々の葉は紅く染まっており、俺は近くで見ようと中へと入っていく。

そして少しの間歩くとベンチを見つけたのだが、そこに一人の年老いた男性が座っていた。

俺はその姿に衝撃を覚える。


「じ、じいちゃん……?」


死んだはずのじいちゃんと瓜二つだったからだ。

つるっと禿げ上がった頭に反してふさふさの白い髭が印象的なその姿は、忘れられないものだった。


「なんじゃ少年?そんなに驚いた様子でワシのことを見るとは?」


声までそっくりのように感じてしまい、懐かしさがこみ上げてくる。


「す、すいません……あまりにも祖父とそっくりだったもので……」


「ははは、気にせんでいい……」


俺が謝罪をすると、老人は力弱く許してくれた。


「あの、どうかしました?元気がないように見えますが……」


あまり込み入ったことを聞くのは初対面で失礼だが、どうしても放っておけない。


「……これも何かの縁かのう。少年、少し愚痴を聞いてくれるかな?」


俺は頷いて、ベンチに座らせてもらった。


「孫娘が今度結婚するので、ワシら家族で貯めておったお金でウエディングドレスを発注してのう。孫娘も楽しみにしておった。じゃが、頼んでいた店が潰れてしまったのじゃ……」


「それは……辛いですね……」


「うむ……まだ結婚式までは間があるので他の店に頼めば間に合うのじゃが、購入費用がなくてのう。孫娘は仕方ないとは言っておるが、あまりに不憫でな……」


ウエディングドレスは当然だが、結構な値段がするものだ。

もう一度と言われてもポンと出せる金額ではない。


ウエディングドレスは、女性の夢でもありますからね……

お孫さんの気持ちはよくわかります。

私も父に見せてあげたいものでした……


ファーナ……


「ふぅ……聞いてもらえて少しは楽になった。ありがとう、少年よ」


弱々しく笑うその姿があまりにも俺の胸にくる。


「おじいさん、明日開催されるグランプリはご存知ですか?」


「ああ、もちろんじゃ。そう言えば君の制服はどこかの学園のものかな?」


「はい、ルードリア学園です」


「おお、それではクリス君の後輩かな?」


「ご存知なので?」


「それはもう大人気だからのう。ワシもファンじゃが孫娘もファンじゃ。孫娘の気晴らしのために、明日のグランプリではクリス君の投票券を購入しようと思っておるぞい」


さすがクリス先輩、人気者だ。


「実は僕も明日のグランプリに出場します。そこで提案ですが……僕に賭けませんか?」


学生グランプリとはいえ、普段の闘技場と同じく投票券システムが導入されている。

勝者を予想し、見事当てることで当選金がもらえるのだ。


「君に?」


「クリス先輩は倍率がかなり低いでしょうが、僕は高倍率になると思います。もちろん必ず勝ちますとは言えません。ですが全力を尽くしますので……」


「……」


老人はじっと俺の顔を見ながら、黙っている。


「残念じゃが、それは難しいのう」


やはり、そうだよな……


「出過ぎた真似をしてすいません……」


「おっと、誤解してはいかんぞ。君の名前が分からんと投票券を購入できんじゃろ?」


「カ、カイ・グランです!」


「ほほほ、その名前しっかりと覚えておくぞい。良い夢を見させておくれ」


「任せてください!」


マスター、夢ではなく現実にしてあげましょうね。


ああ、もちろんだ。


また一つ、負けられない理由ができた。

全力で勝ちにいく!

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