勝利の天秤はあっちこっちです!
開始してすぐに激しい攻防を見せた二人だったが、一転して静寂の時が流れる展開となった。
ルースは空からフレアを見下ろし、フレアは空を見上げている。
「動きが止まりましたね……」
「お互いに自分の得意なフィールドで闘いたいんだと思う。ルースは空、フレアは地で」
「そうだな。しかしどうやって相手を引き込むかが問題だ……って、あれ?」
ルースは俺の考えとは正反対の行動に出た。
ゆっくりと地上へと降りたったのだ。
自分からアドバンテージを捨てて、正面から挑むつもりか?
かなり危険だと思うのだが……
そうですが、精神的には優位に立ちました。
精神的に?
はい。フレアさんの方から見てみると、ルース君があえて地上での勝負を選択したことによって、より負けられないという気持ちが強くなります。
お膳立てされた舞台で闘うことになるのですから。
えっ?俺だったらラッキーって思うけど……
……マスターならそうでしょうが、実直的なフレアさんだと違います。
あれ?今俺呆れられた?
気のせいです。
今の心理状況は、ルース君は勝ちたいという攻めの気持ちであり、フレアさんは負けられないという守りの気持ちとなっています。
この心理の違いははっきりと攻防に出てきますよ。
その後の試合の展開はファーナの言う通りになった。
「行くよ!」
「くっ!速い!?」
地上に降りたルースに対して意表を突かれたのか、フレアは動き出しが遅れてしまう。
だが、ルースはすぐに低空飛行でフレアへと向かっていく。
その速さはサリアと同等だ。
「武装変化!」
ルースが双剣を合わせると二つの剣は形を変え、一振りの長剣となった。
その長さはフレアの剣に勝るとも劣らない。
「はぁぁぁ!」
ギィィィン!
「ぐぅぅぅ!」
ルースの胴に狙いを定めた斬撃をフレアが両手で構えた剣で防ぎ、お互いの剣が十字に重なり合う。
加速と剣の重量が加わったルースの斬撃は、先ほどの双剣とはまったく違った重みがあるのだろう。
受け止めたフレアの足がわずかだが後退した。
「ぬぅぅぅぅぅ!」
ググググ……!
だが、加速のブーストが切れたルースの剣を押し返し始めると、すぐにルースは地面を踏み後ろへと大きく跳んだ。
そしてまた二人の距離は離れることになる。
「くっ……ちょこまかと動きおって!」
「仕方ないでしょ?僕はフレアの剣を一撃でももらったら敗北濃厚なんだから」
これはまさか……
ええ、フレアさんは気づいていないようですが、これは地上戦ではなく空中戦です。
ルース君は存分に機動力を発揮して攻撃と離脱を行っています。
これでは受けに回るしかありません。
ですが、ルース君の剣を防ぎカウンターを狙ったとしてもルース君はすぐに離れてしまいます。
フレアにとっては嫌な闘い方だな。
マスターの教え通りでしょう?
相手が嫌がることをする。
勝負においての基本であり鉄則ですからね。
ルースはノートみたいな存在だな。
そこに書かれたことを決して忘れずに生かす。
大したやつだ。
マスターのノートは取り方が乱雑で汚いですからね。
結局ルース君にノートを借りるハメになるんですよ?
……うるさいやい。
ファーナからの細かい指摘はさておき、このままルースのペースが続くかと思われたその時。
「……やはりオーレリア様のようにはいかないな。武装変化」
「ずいぶんとスッキリしたね?」
「ああ……兜がないとその可愛い顔がよく見えるぞ」
フレアの重装鎧はルースと同じ軽装鎧へと変化した。
それに加えて剣の長さも少し短くなったように見える。
ルースに合わせてスタイル変更したのか?
それだとフレアの力は出しきれないんじゃ……
いえ、思い出してください。
初期の彼女は軽装でしたよね?
そして速さと重い一撃を得意とした剣士でした。
ですが、憧れの存在と出会ったことでそのスタイルを模倣していたんです。
……憧れの存在って?
もちろん私です!
さよですか……
自信満々に答えるファーナ。
ふんすっ!という鼻息までもが聞こえてきそうだ。
重装鎧のために防御力は増しましたが、機動力は犠牲となっていました。
ですが、ここからは……
「さあ、存分に付き合うぞ?ルース?」
フレアは先ほどまでとは比較にならないほどの速さで、ルースへとあっという間に近づいていった。
翼は出していないが、強化された足の速さは今までの動きとは段違いだ。
その勢いのまま、上段から剣を振り下ろす。
ガギィィィン!
「ぐっ!ほどほどにお願いしたいな……」
「ふふふ……つれないことを言うな。誘ってきたのはそっちからだろう?」
必死に受け止めるルースを、フレアは妖しい笑みを浮かべて見ていた。
「な、なんだか……」
「ああ……分かるぞリーナ……」
「エロいね」
「はっきり言うんじゃない!」
「はっきり言うんじゃありません!」
可愛い男の子を誘うお姉さんみたいに見えてしまう。
だが、そのお姉さんは強敵だぞ?ルース。