闘う者の鉄則です!
「フレアさん!近距離で闘いましょうよ!」
「不本意ではあるが、断固として断る!」
リーナは槍の一撃を受けながらも、縦横無尽に動くことで近づこうとするが、フレアは円を描くようにな足さばきでリーナの正面へと向かい、的確に初動を止めていた。
一瞬でもフレアがミスをしたら、それで終わりかもしれない。
重装鎧でもかなりのダメージがあっただろうが、今は動きやすさを重視した軽装鎧だ。
到底防ぎきれるものではないと思う。
だが、それにしても……
「おかしい……」
リーナに不思議な点がある。
「なにが?」
俺の呟きをサリアが聞き取ったようで、俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。
「リーナはあれほど動いているというのに……」
「のに?」
「パンツが見えない!」
スカートがひらひらとしていて今にも見えそうなのに、白い光が邪魔をするのだ!
あまりのくだらなさに、サリアさんがいつもよりも増して無表情になっていますが?
「バカ過ぎ」
そして呆れられていますよ。
男子にとっては一大事だ!
見ろ!他の男子たちの瞳を!
食い入るように観ているではないか!
真剣に試合を観ていると思ったらそんなにくだらないことだったのですか……
「ふふふ、そこに気づくとはさすがカイだね」
ルースが微笑みながら、俺を褒めてくれる。
いや、他の男子も気づいているのでしょう?
なぜマスターが褒められるのですか?
口に出したのは俺だけだ。
そうですか。
「ルースは何か知っているのか?」
「ラキシスが召喚主であるリーナのことを護っているんだ。僕たちの視線という攻撃からね……」
「な、なんだって!?」
なんという鉄壁の守護……
雷馬ラキシス、恐るべき召喚獣だ……
最大の謎は解かれた。
これで真剣に試合を観ることができる。
最低な謎の間違いだと思います。
ファーナのツッコミは華麗にスルーし、二人の争いに集中する。
「はぁはぁ……まだまだ!」
「くっ……まだ耐えるか」
突っ込むリーナにそれを槍で阻止するフレア。
ギリギリの均衡が続いているが、どこまで続くのかはフレア、リーナともに気力次第だ。
二人の闘いは壮絶な我慢比べと言える。
だが、二人の限界は確実に近づいているようだ。
リーナの髪の毛先は鮮やかな桃色へと戻りつつあり、フレアの鎧は消え去り制服姿となっている。
残る魔力の全てを槍の維持に費やしているのだろう。
そんな満身創痍の二人ではあるが、速さだけは失われていない。
リーナの踏み込みの速さ、その踏み込みを槍で素早く対処するフレア。
どちらにも勝ってほしい。
しかし勝者は一人だけだ。
その残酷な事実のために、俺たちは全てを費やしていく。
「しまった!」
「やっと……道が開いた!」
ついに最後の時がきた。
フレアの突きが狙いを外したために、伸びきった槍の懐へとリーナが潜り込む。
最後に集中の糸が切れたのはフレアだったようだ。
「これで!私の……」
残りの全ての力を込めた右拳がフレアの胸へと届く瞬間、最後の最後にリーナは笑ってしまった。
勝負がまだ決まっていない状態で、笑みを浮かべるのは最大の過ちである。
張り詰めていた緊張の糸が切れるのだから。
すぅ……
「あっ……」
リーナが纏っていた白い雷は消え失せ、髪も元通りに戻ってしまう。
ふにょ……
リーナの拳は、フレアの貧じゃ……薄……慎ましい胸を打ち砕くことはできなかった。
言い方は頑張ったと思いますが、もう少し何とかなりませんでしたか?
これが俺にとっての精一杯だ……
「決着がつくまでは笑ってはいかん。それが闘うものの鉄則だ」
「えへへ……つい、笑っちゃいました……降参です……」
リーナの崩れる身体をフレアがなんとか支える。
「そこまで!リーナさんの降参により、勝者フレアさん!」
「ふぅ……」
ルナ先生の勝者宣言がされると同時に、フレアはリーナを支えることができず尻もちをついた。
「まったく……勝った気がせんな……」
「今度は、フレアさんに勝ちますからね……」
「ふふ……心しておくとしよう」
激戦を終えたフレアとリーナ。
二人は抱き合いながらその場で微笑みを浮かべていた。
「最後は闘いに対する年季の差が勝負の分け目となったな」
「うん。でもいい勝負だった。二人ともカッコよかった」
「そうだね。最後までどっちが勝つか分からない、すごい闘いだったよ」
俺たちは惜しみない拍手を二人へ送る。
それは周りにいるクラスメイトたちも同じなのだろう。
それぞれが拍手を送っている。
「なんだか美少女二人が抱き合う姿っていいな……」
「ああ……」
「なんと美しいことか……」
違ったわ。
こいつら二人の名勝負をなんて目で見てやがる。
彼らもパンツを見ようとしていたマスターに言われたくないと思いますが?
……一理あるな。
ファーナの鋭い指摘を受け、俺は頭をかきながら反省をした。
そして気持ちを改めて、笑い合う二人へ言葉を送る。
「二人ともお疲れさま」
俺の声は大きな歓声に包まれていくのだった。