呪術
多分、高野が犬や猫に囲まれていた訳では無いと、倉木は考えていた。きっと高野は、犬や猫を集めていたのだ。10日程前の会話が関係しているに違いないのだ。
10日程前の事である。倉木は高野と、ある都市伝説の考察をしていたのだった。其れは【蠱毒】と呼ばれる呪術、特に【犬神】や【猫鬼】に関する内容だったのだ。その会話の最中に、「興味がある。」と言っていたし、引きこもりである高野が積極的に外に出ていたのなら、時期的にも、高野が公園で犬や猫を集めていたと考えるのが正しい様に思える。
倉木からは溜息が零れた。
しかしー。
確信は無い。余計な事は言わない方が良いのだろうとー。
「それで、何か話したの?」と訊いた。
ううん。と千崎は答え、首を左右に振る。
「話せなかった…。遠くから見ていただけ…。実は…。私ね…。」
放課後の教室は静かだった。茜色の空は綺麗に夕空を染める。
少しの間を空けてー。
「中学の時から高野くんが好きだったんだ。」
と言った。
【恋は盲目】なのだなぁ。と倉木は思う。
冷静に視れば、高野がどんな人間なのか理解出来る筈なのだ。
高野は人非人である。俗に言う人でなしなのだ。
【恋は盲目】…。【盲目】…。
倉木の脳裏に10日程前のある会話の記憶が浮かぶ。
「【猫鬼】は猫の姿をしているのが多いんだけど、【犬神】は様々な姿があるらしいんだよ。例えば…。犬神の容姿は、若干大きめの鼠位の大きさで斑があってね。尻尾の先端が分かれ、土竜の一種であり【盲目】で、一列になって行動すると伝えられているね。」
あぁー。
恋も愛も…。人を想う事は【呪い】みたいなモノだな…。
倉木は何時の間にか、思考の海を泳いでいた。
意識の遠くからー。
千崎の声が聞こえてくる。
「高野くんを好きな人、多いからなぁ…。あっ…。津坂那月ちゃんも、高野くんの事好きらしいよ…。」
【津坂那月】その名前が耳に触れるとー。
倉木は現実の世界へと戻されたのだった。